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it'sLife rock'n'roll  作者: スオウ


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9/12

宮田亮

「うーっす、お疲れー」

エプロンを引っぺがしてロッカーに突っ込む。

今日も一日、よく働いた……って言うほどでもねぇけど。

とりあえず、帰る準備。シャツの裾を引っ張って、ギターケースを肩にかける。


「宮田くん、お疲れ様」

市田店長がいつもの穏やかな声で声かけてくる。あの人、ほんとブレねぇな。


「お先っす」

軽く手を挙げて返す。店長とは気さくに音楽の事を話せる、まあ働きやすいと思う。


「リョウくん、次のライブ行くからね!」

戸田さんがレジの奥から顔出して、にこっと笑う。

あの人、いつも明るくてちょっと眩しい。


「っす、あざーっす」

ぶっきらぼうに返すけど、内心ちょっと嬉しい。

応援されるのは嫌いじゃない。ちょっと照れくさいだけだ。


市田楽器店でバイト始めて、もう3年。

最初は金のためだったけど、今じゃここがちょっとした居場所になってる。

店長はライブの日は優先的に休みくれるし、バイト仲間も変に詮索してこない。

そういう距離感が俺にはちょうどいい。


店を出ると、夜風が肌に刺さる。スマホで時間を確認。19時ちょい過ぎか。


「……今日はカンナん家だったな」

ギターケースの重さが肩に食い込む。めんどくせぇけど、行かねぇわけにもいかねぇ。


「しゃーねぇ、行くか……」

そうぼやきながら、駅へ向かって歩き出す。


「リョウさんって、天邪鬼ですよね」

カンナのその一言が、ふいに頭の中でリフレインする。


……わかってるよ、そんなこと。自覚はある。

けど、面と向かって言われると、なんかムカつくんだよな。

反射的に否定したくなる。そういうとこが、まさに天邪鬼ってやつなんだろうけど。


あれ、いつの話だったっけか。たしか――バンドを組んで、最初の音合わせのとき?


「それもリョウくんの味じゃん?」

そう言って笑った美月の顔が、やけにまぶしくて。

思わず見とれて、手にしてたタバコを落とした。


「うおわっ! 熱っちい!」

慌てて拾い上げた俺を見て、美月はくすくす笑ってた。

あのときの笑い声、妙に耳に残ってる。

あの目、あの笑顔――目が離せなかった。


……それから、俺は美月のことを――


「……チッ」

気づけば、電車はもう降りる駅に差しかかっていた。危ねぇ、ちょっと寝てたっぽいな。


夢見がちってガラじゃねぇのに、何やってんだ俺。

もう、諦めようって決めたじゃねぇか。


そう、何度も言い聞かせてきたはずなのに。

なのに、こうしてふとした拍子に、あの笑顔が脳裏に浮かぶ。

……ほんと、めんどくせぇ。


カンナん家までの道は、迷わない程度には覚えた。

バンドのミーティングって言ったら、だいたいここだしな。

広いリビング、でっかいテーブル、気の利いたお茶菓子。

……あいつの部屋、禁煙なんだよな。


ケイタは、もう着いてるだろ。あいつ、妙に時間にきっちりしてるからな。

集合時間の10分前にはスタンバってるタイプ。俺とは真逆だな。


今日は美月が集合かけてたんだっけ。あいつ、今日って……たしか……

――ああ、なんか嫌な予感がしてきた。


胸の奥が、じわっと重くなる。考えたくねぇのに、勝手に思い出しちまう。

やめろって。もう決めただろ。諦めるって。

そんなことをぐるぐる考えてるうちに、カンナん家の門の前に立ってた。


「……いつ来ても、でけぇ家だな」

思わず口に出た独り言。誰に聞かせるでもなく、ただの空気抜きみたいなもんだ。

インターホンのボタンを押す指が、ちょっとだけ重かった。


扉が開いて、カンナが顔を出す。


「リョウさん、バイトお疲れ様です」


「ああ」

軽く返して、靴を脱ぎながら家の中へ。

何度も来てるはずなのに、ここの広さには未だに慣れねぇ。

初めて来たときなんて、家の中にエレベーターがあるの見て、マジでビビった。

金持ちってのは、スケールが違うな。


エレベーターで3階に上がると、いつものようにカンナの部屋に通される。

ドアを開けた瞬間、嫌な予感が的中した。


美月とケイタ、それに……あれ、マコト? マックスのヘルプのやつじゃねぇか。なんでいるんだよ。


「てか、なんで寛いでゲームしてんだよ!?」

思わず声が出る。ミーティングって言ってたよな? 連れん家に遊びに来たのか?


「ええ、リョウくん遅いからさー」

美月がコントローラー握ったまま、悪びれもせずに言いやがる。


「うっせ、ミーティングはじめてろよ!」

そう言って、俺もソファに腰を下ろす。なんかもう、ツッコミ疲れた。


「でも、なかなか面白いゲームですよ?」

ケイタがニコニコしながら言ってくる。

こいつ、いつも笑ってるけど、たまにすげー毒吐くからな。


「ほう、どんなところが?」


「ミツキさんがすぐ死ぬところです」

ほらな、ニコニコしながらひでぇこと言いやがる。

美月が頬っぺた膨らませて、拗ねた声を出す。


「面白がってないで手伝ってよ!」


「いや、お前らミーティングはじめろよ!」

俺がもう一度言うと、カンナが静かに笑って言う。


「リョウさん、今日は真面目なんですね」

こいつら……ほんと、自由すぎんだろ。


「美月さん、そろそろミーティングしないと」

マコトがそう言うと、美月は渋々コントローラーを置いた。

……いや、お前部外者だろ。なんで一番まともなこと言ってんだよ。


「じゃあ、ミーティングはじめよっか」

美月がそう言うと、みんながソファに腰を下ろす。

俺もなんとなく流れで座ったけど、別に乗り気ってわけじゃない。

こういう“ちゃんとした話”ってのは、どうにも落ち着かない。


「みなさん、コーヒーでいいですか?」

カンナが立ち上がって、手際よくドリップを始める。

あの落ち着きっぷり、ちょっと見習いたいくらいだ。


「リョウくんは、今のクリクリ最高だと思う?」

唐突に美月が俺に話を振ってきた。なんだよ急に。

俺は眉をひそめて、わざとらしく肩をすくめる。


「は?なんだよそれ。不満でもあんのか?」


「いや、アタシは不満ないよ?リョウくんはどうなの?って話」


「……別に。文句はねーけど、まあ、たまには違うのもやってみりゃ面白いかもなー、とは思ったことあるけど?」

美月がうんうんと嬉しそうに頷いてる。なんだよ、誘導尋問かよ。


「いつもアタシが好きな感じの曲なんだよね」


「そりゃお前が作ってんだから、当然だろ」

俺がそう返すと、美月の目がキラッと光った。あ、なんか面倒なスイッチ入ったかも。


「そこだよ!」


「いや、どこだよ?」


「今日、マコトちゃんと話しててね」

……あー、やっぱり今日も一緒だったんだな。そういやお礼とか言ってやがったな。

別に気にしてねーけど。全然。


「やっぱり、クリクリの曲は最高だと思ったんだよ」


「だったらそれでいいじゃねーか。何が不満なんだよ」

カンナがコーヒーを配ってくれる。ありがたいけど、なんかこの空気、落ち着かねぇ。

ケイタはやけにニヤニヤしてるし。なんだよ、俺の顔に何かついてんのか?


「ダメなの!アタシにとって最高な曲ばかりじゃ」


「……つまり、もっと幅広くやりたいってことかよ」


「そう!楽しそうじゃない?」


「まあ、楽しそうかどうかはやってみなきゃわかんねーけどな」


「それはいいけど、お前に負担はかからないのか?」

俺がそう言うと、美月はふっふっふと笑って、まるで何か企んでるみたいな顔で言った。


「そこでマコトちゃんの登場です!」

……やっぱりそう来たか。なんかムカつくくらい、話がうまくできてやがる。


水橋環奈の部屋。

クリクリのミーティングが始まっていた。


手伝うって言ったのは、軽い気持ちじゃない。

美月さんの力になりたい――その一心だった。


でも、まさか本当にミーティングに参加することになるなんて。

しかも、メンバー全員の前で話すなんて、想像してなかった。


「マコトの登場って……部外者だろ?」

リョウさんの視線が鋭く突き刺さる。

はい、部外者です。だけど――


「マコトちゃんは今回のアドバイザーなんだよ?」

美月さんが、あのまっすぐな瞳でこちらを見てくる。

その目に宿る期待を、裏切りたくない。

だから、逃げない。ちゃんと話す。


「ほう、じゃあアドバイザー様の話を聞かせてもらおうか」

リョウさんの声は低く、どこか試すようだった。

ああ……今日、無事に帰れる気がしない。


「えっと、まずは皆さんの作曲方法を美月さんに確認しました」

空気が重い。プレッシャーが肩にのしかかる。

だけど、言葉を紡ぐ。美月さんの背中を、少しでも押せるように。


「美月さんはメロディに詞を載せる形で作曲していることが分かったので、詞先での作曲をお勧めしました」


「それで? 作曲方法を変えたら幅広くなるのか?」

リョウさんの問いは鋭く、容赦がない。


「いえ、それだけでは幅は広がりません」


「はあ?」

詰められて、心臓が跳ねる。

でも、言わなきゃ。ちゃんと伝えなきゃ。


「皆さんが、詞を書くんです」


沈黙。

リョウさんが少し俯いて、考えるような仕草を見せた。


「じゃあ、何か? 俺も作詞してくるって事か?」


「はい」

言い切った瞬間、リョウさんが立ち上がる。


「タバコ吸ってくる……」

そう言って、部屋を出て行った。


【須藤家】


**須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生**

マックスでのメンバー表登録名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


**須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生**

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。


---


【Critical Cliticalクリクリ


**有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当**

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。


**宮田みやた りょう/22歳・ギター担当**

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


**ケイタ/20歳・ドラム担当**

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


**水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生**

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


---


【マックス】


**ヒトシ/ヴォーカル担当**

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


**クロ/ドラム担当**

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


**松崎(まつざき)/ベース担当**

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。


---


【都立星雲高校】


**芝崎しばざき/誠と同じクラス**

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


**中谷なかたに/誠と同じクラス・隣の席**

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。

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