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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 怒涛の文化祭

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響く言葉

 辺りが薄暗くなりはじめた頃、名古屋のライブハウス『HEAT』は、開演を待つ客たちのざわめきで満ちていた。


『Kissbite』のメンバーが姿を見せた瞬間、空気が一段熱を帯びる。ステージに立ってもなお、興奮のざわめきは収まらない。


 ヴォーカルの凛さんがマイクを手に取り、ゆっくりとスピーカーへ近づけた。


 キィィン、と鋭いハウリングが響き、会場の視線が一斉に彼女へ吸い寄せられる。


「みんな、こっち向いたね。――じゃあ、はじめちゃうよ!」

 歓声が爆ぜ、ハイハットがカウントを刻む。

 その合図とともに、『Kissbite』の音が会場を揺らした。


 ギターは芯のある抜けの良い音で、速弾きのフレーズも正確でキレがある。

 女性だけの編成だということを忘れさせるほどのパワーと攻撃性。


 凛さんのヴォーカルも負けていなくて、突き抜ける声が気持ちよく耳に刺さった。


 レベルの高い演奏を浴びながら、ふと思う。

 ――やっぱり美月さんは……『Critical Clinical』は本当にすごいバンドなんだ、と。


 ライブが終わり、控室へ戻ろうとしたところで、凛さんに呼び止められた。


「マコトくん、ちょっといいよね?」


「はい、何ですか?」

 凛さんはくるりと後ろを向き、少し離れた場所にいたメンバーへ手招きした。


「ほら泉、話したいって言っとったじゃんね?」


「いや、言ったけどさぁ……恥ずかしいじゃんね」

『Kissbite』のギター、泉さんが頬を赤くしながら近づいてくる。

 ステージ上の鋭さとはまるで違う、可愛らしい仕草だった。


「バッキング、めっちゃカッコよかったで。音も耳に入りやすくて、すごい良かったわ」

 確かに、横浜で言われたことを自分のものにしようと意識して弾いていた。音として伝わったことを嬉しく感じていた。


「泉さんもパワーがあって……速弾きも一音一音きれいに聞こえて、すごくカッコよかったです」

 そう返すと、泉さんは視線を落とし、さらに頬を染めた。


「それに……めっちゃカッコよかったもんでさ」

 小さくこぼしたその言葉を、凛さんがニヤニヤしながら見守っている。


「あ、あのさ……来年も『MACS』って全国ツアーやるんかなぁ?」

 真っすぐな目で聞かれて、どう答えるべきか迷っていると――。


「マコトはこのツアーで卒業するんだ。『MACS』はツアーやるかも知れないけどな」

 ヒトシさんが代わりに答えた。


「そ、そうかぁ……」

 泉さんは肩を落とし、寂しそうに目を伏せる。

 その肩に、ヒトシさんがぽんと手を置いた。


「ま、飯でも食いに行こうぜ」


「さんせーい!」

 凛さんが元気よく手を挙げ、空気が一気に明るくなる。

 そのまま俺たちは、凛さんおすすめの店へと向かった。


 翌日、車に乗り込むと、助手席のヒトシさんがすでにテンション高めだった。


「さあ、次は関西だな! たこ焼き食べるぞ!」


「お好み焼きもな」

 運転席のクロさんが淡々と返し、車は名古屋を離れていく。


 大阪までは思ったよりも早く着いた気がした。

 ……いや、ツアーで距離感がバグってきただけかもしれない。


 ホテルに車を預けると、ヒトシさんの案内でたこ焼きを食べに向かった。


「あれ、ヒトシおるやん」

 店に入るなり、店員さんが声をかけてくる。


「はやっ。めっちゃやる気やんけ」


「ちげーよ、たこ焼き食いに来たんだ」


「またかい。どんだけ好きやねん」

 漫才みたいな掛け合いに、思わず笑ってしまう。


「ほら、お前の友だち置いていかれてるやん」


「いいから、たこ焼きくれよ」


「ええんかい? どれにすんねん」


「ねぎマヨスペシャル。タコマシマシで」


「おっけ、タコこうやって一匹分……って、入らへんわ!」


「誰も一匹入れろなんて言ってないだろ?」


「せやな。タコマシマシもやってないけどな」

 俺たちが吹き出すと、店員さんも嬉しそうに笑った。


「明日は頼むで! 『臨海衝突』の霧島や」

『臨海衝突』――大阪でも人気のパンクバンドだ。

 中でも霧島さんのパフォーマンスは圧倒的で、熱狂的なファンが多い。


 大阪、神戸のライブを駆け抜け、俺たちは次の街・広島へ向かった。


「さて、残り二か所だな。どこでやったのが良かった?」

 移動中、突然ヒトシさんが振ってきた。


「俺は神戸ですね。お客さんとの距離も近くて、やりやすかったです」

 そう答えると、クロさんが頷きながら続けた。


「演奏面で言うと、仙台が良かったかな。一番整ってた気がする」


「そうですね、それはわかります」

 青山さんも同意する。


 そのまま、演奏の反省や次の広島でどう詰めるかを話し合っていった。


「で? ヒトシはどうだった?」

 クロさんが振ると、ヒトシさんは一瞬固まった。


「え、いや俺は……。神戸のもっこすがうまかったな」


「いや食べ物のことじゃなくて」

 ツッコもうとした瞬間、クロさんが俺の肩に手を置いた。


「ヒトシは福岡のことで頭がいっぱいなんだよ」


「ばか、ちげーよ」

 そっぽを向くヒトシさん。

 その横顔を見て、松崎さんとクロさんがニヤニヤしている。


 車内に流れる、からかい半分のあたたかい空気。

 ツアー終盤の疲れの中でも、こういう時間が妙に心地よかった。


 広島でのライブを無事に終え、ホテルへ戻った。

 スマホが震えたので画面を見ると、美月さんからの着信だった。


「やほー、マコトちゃん」


「美月さん、どうしたんですか?」

 なんとなく照れくさくて、ヒトシさんたちに聞かれないよう部屋の隅まで移動する。


「あとは福岡だけだね。どうだった?」


「いろんな刺激があって、勉強になってますよ」


「そか、その……」


「どうしたんですか?」


「か、かわいい子に言い寄られ……たりしてないかな?」

 茶化してるんだろうか? 冗談めかしているようで、スピーカー越しに伝わる吐息には微かに熱が混じっていた。


「いや、そんなことないですよ」

 二人でわざとらしく笑い合う。

 その軽さが、逆に胸の奥をくすぐった。


「まあ、マコトちゃんなら心配ないね。福岡、頑張ってね」


「はい、ありがとうございます」

 通話を切った直後、またスマホが震えた。


「環奈? どうしたの?」


「い、いえ。明後日、頑張ってくださいと言おうと……」


「ああ、ありがとう」

 少し沈黙が落ちる。

 気になって声をかけた。


「環奈?」


「い、いえっ。その……女性に言い寄られたり……」


「ははっ、環奈までそんなこと聞くんだな」


「えっ、環奈まで……とは?」

 環奈の声色が、ほんの少しだけ変わった気がした。


「いや、美月さんにもさっき聞かれたから」


「美月さんも……そう、ですか」

瞬間、環奈の声が一気に凍りついたように温度を失った気がした。


「環奈?」


「い、いえ。福岡、頑張ってください」


「うん」


「おやすみなさい」


「おやすみ」

 通話が切れ、静けさが戻る。

 俺はスマホを置き、ゆっくりとベッドへ戻った。


 福岡に入ると、ライブハウス『image』のある博多駅周辺のホテルへ向かった。


 到着したのは昼過ぎ。荷物を置くなり、「とりあえず飯行くか」という流れになる。


「博多駅に来るのは初めてです」


「そうか、何が食いた……」

 ヒトシさんの言葉が途中で止まった。

 視線の先を追うと、柱ごとに並んだデジタルサイネージが目に入る。


『SERINA』の福岡ドームライブを告知する映像が、鮮やかにループしていた。


 俺は、いつかそこに美月さんの顔が映される。

 そんな未来のために進んでいこうと思った。


「『SERINA』かわいいですよね! 銀髪もすごく似合ってて」


「お、おう。そうだな……」

 青山さんの言葉に、ヒトシさんはそっぽを向く。

 こういう子が好みなのかな?


「とにかく飯だ! 何食いたいんだ?」


「え、ヒトシさんは何食べたいんですか?」


「博多ラーメン!」

 ……ラーメンばっかりだな、この人。


 その夜、部屋でくつろいでいると、ヒトシさんが声をかけてきた。


「マコト、明日で最終日だ。どうだった?」


「まだ、実感ないです」

 そう答えると、ヒトシさんはハハッと軽く笑い、続けた。


「節目とか、そういうのは必ず何度も来る。大事なのは後悔を減らす努力だ」


「減らす努力……ですか?」


「そう。後悔ってのはなくならない。だから減らすんだよ」

 隣で聞いていたクロさんが、こちらを向いて口を挟む。


「ヒトシは寂しくて仕方ないんだよね」


「こ、こらクロ」

 止めようとするヒトシさんを、クロさんが手で制した。


「寂しさってのは、ちゃんと向き合ってきたから手に入る感情なんだ」

 その言葉は、今の俺にとって一番響くものだった。

 胸の奥に、静かに落ちていく。


「だから、明日も最後まで『MACS』と向き合ってこい」

 ヒトシさんが俺の肩を軽く叩く。


「はい。最後までやりきります」

 明日はツアー最終日。

 そして、『MACS』としての俺の活動も終わる。


 言われた通り、後悔をひとつでも減らそう。

 右手に、自然と力がこもるのを感じていた。


【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。

有栖川という名家の娘であることが分かった。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


小松こまつ 里菜りな/キーボード担当/ミズハシ楽器・アルバイト

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリナ。

前任のヨネさんの紹介でクリクリにヘルプとして加入。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしている。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多かった。



【MACS】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。


【サンデーパニック】


せき/ヴォーカル担当

マイクパフォーマンスが楽しいサンパニのヴォーカル。

環奈推しでよくお茶に誘うが、毎回断られている。

以前リョウに怒られて以来、少しリョウが怖い。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに 由美子ゆみこ/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。


【美月の同級生】


泉谷いずみや/泉谷グループの御曹司

音楽業界に強い影響力を持つ名家の跡取りで、若くして多くのアーティストやプロデューサーと繋がりを持つ。

冷静で礼儀正しいが、その裏には家の期待と責任を背負う重圧もある。

有栖川家との関係から、美月との縁談が水面下で進められており、本人もその事実を理解しているが――彼自身の本心はまだ誰にも見せていない。


藤崎ふじさき/美月の同級生

美月の同級生で、名家・藤崎家に育った正真正銘のお嬢様。

育ちの良さがそのまま性格に表れており、言葉遣いは丁寧だが、価値観はどこか“良家の常識”に縛られている。



【市田楽器店】


市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】


米山よねやま/35歳・マネージャー

クリクリの元キーボード担当をヘルプでやっていた。登録名はヨネ。

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。


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