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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 怒涛の文化祭

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39/43

先に言うと焦るだろ?

 横浜に着いたのは、ちょうど正午に差しかかる頃だった。自然と「じゃあ昼飯にするか」という流れになる。


「何食べます?」

 ヒトシさんは、わざわざ聞く必要ある?と言いたげな顔をして、胸を張るように言った。


「ラーメンだ、ラーメン」


「ラーメン好きですよね」

 そう返すと、彼は「わかってないなぁ」とでも言いたげに眉を上げ、俺の肩をがしっと掴んだ。


「うまいラーメン屋があるんだよ」

 隣に並んで歩いていたクロさんが、ふっと俺の方へ視線を向ける。


「マコトくんは、あまりこっち来ないの?」


「横浜はあまり来ることないですね」

 俺がそう答えると、クロさんは「そっか」と柔らかく微笑んだ。


 ヒトシさんおすすめの絶品ラーメンに感動したあと、俺たちはホテルにチェックインした。


 荷物を置いて一息ついていると、スマホが震える。

 画面には芝崎の名前。珍しいなと思いながら通話ボタンを押した。


「まこと? 今、大丈夫か?」


「ああ。今はホテルで一人だから」


「そっか……」

 そこで芝崎が黙り込む。妙な沈黙が続いた。


「なんだよ。用事があったんじゃないのか?」


「ああ、うん。変なこと相談していいか?」


「変なこと?」

 いつも変なことしか言わないくせに、何を今さら。


「まあ、多分なんだけど……俺、中谷さんのこと好きになったみたい」


「へえ、おめでと」


「いや、軽いな! もっとこう、あるだろ?」

 はあ……何を期待してんだか。


「環奈のこと好きだったんじゃないの?」


「み、水橋さんは憧れだし。まことがいるじゃん?」


「俺は関係ないだろ?」

 受話器越しに芝崎のため息が聞こえる。なんか腹立つ。


「まあ、まことが決めることだしな」


「で? 相談って?」


「いや、なんだか落ち着かなくてよ」

 落ち着かない? 何が?


「中谷さん、まことと話したがってるから」


「それで?」


「まことのこと好きなんじゃないかと思って」

 ああ、そういうことか。こいつは自分のことになると本当に弱い。


「それはないよ」


「え……なんで? 聞いたの?」


「中谷さん、俺と環奈が付き合ってると思ってたし」


「あー」


「それに、俺より環奈に興味あったんじゃないかな」

 しばらく沈黙が落ちる。


「悪かったな。大事なツアー中なのに変な話して」


「俺に聞きたかったんだろ?」


「まあ、そうだけど」


「頑張れよ」


「お前もな」

 そう言って、芝崎は電話を切った。


 翌日、ライブハウス『FISHERMAN』に入る。

 薄暗い階段を降りていくと、受付前のカウンターに出演者たちが集まり、ざっくばらんに談笑していた。


「よっ、ヒトシ。横浜来んの、久しぶりじゃね?」


「おお、久々だな」

 すぐに声をかけられるあたり、この人は本当にどこへ行っても人気者だ。

 カウンター奥の冷蔵庫からは、アルコールの匂いがふわっと漂ってくる。


 狭い控室で準備を済ませ、リハーサルへ向かった。

 照明が近くて少し暑い。けれど、胸の奥はむしろ熱を帯びていく。


 音を出した瞬間、スイッチが入った。

 リハが終わると、さっきのバンドのギタリストが近づいてきた。


「なんかさ、君の音って真っすぐなんだよね。めっちゃいいんだけど……リード向きって感じじゃないかも」

 悪気はないのはわかる。けど、真正面から言われると胸に刺さる。


「でもバッキングめっちゃ良かったよな。普通に感動したわ」


「ありがとうございます」

 自覚はある。

 リョウさんのリードを支えてみたい――そんな気持ちが、ずっと心のどこかにある。


 ……ダメだ。今は『MACS』のマコトだ。

 このツアーが終わるまでは、マックスのリードギターとして全力を尽くす。

 握ったピックに、自然と力がこもった。


 ライブが終わり、『FISHERMAN』を出ようとしたとき、背中に声が飛んできた。


「本番だとマジで化けるよな。めっちゃ良かったわ」


 思わず口角が上がる。

 ハイタッチを交わし、夜の横浜へ歩き出した。


 ホテルのベッドに横になると、ふっとスマホが震えた。

 画面に浮かんだ名前は、美月さん。


『やほー、横浜どうだった?』


『結構盛り上がりました。他のバンドも良かったです』


『いいね、観に行きたかったよ』

「来てほしかった」と打ちかけて、指が止まる。


『バイトですからね、仕方ないですよ』


『そうだけど……』

 悔しそうなスタンプが飛んできたので、なだめるスタンプを返しておいた。


『明日も移動でしょ? 早めに寝ないとだね』


 本当は、もう少しやり取りしていたかった。

 でも、明日車の中で寝落ちするのはさすがに気が引ける。


『そうですね、そろそろ寝ます』


『おやすみ』


『おやすみなさい』

 スマホを置こうとした瞬間、また振動が走った。


『明日は名古屋ですね、気を付けて行ってください』

 環奈だ。こんな時間に連絡してくるなんて、珍しい。


『わかったよ、ありがとう』


『おやすみなさい』

 おやすみと送ろうとした一拍ほどの間の後、


『美月さんと連絡してますか?』


『さっき、連絡もらったよ』


『そうですか、すみません』


『何かあった?』

 ペットボトルの水を飲むまで、返信は来なかった。

 再びスマホが振動する。


『何でもないですよ、おやすみなさい』


『おやすみ』

 スマホをそっと置き、部屋の明かりを落とす。


 薄暗い天井をぼんやり見つめているうちに、まぶたが重くなっていった。


 気づけば、静かな眠りに落ちていた。


「おーい、マコト起きろー」

 ヒトシさんの声に引っ張られるように目が覚めた。


 ホテルの朝食を軽く済ませ、眠気の残るまま車に乗り込む。


 運転席にはヒトシさん、その隣にクロさん。

 いつもの並びだ。


「ヒトシ、そこ右だったよ?」


「え、嘘? 早く言えよ」

 クロさんは、曲がり角を過ぎてからしか指摘しない。

 このやり取り、もう何度見たことか。思わず笑いがこみ上げる。


「マコトがニヤついてるじゃねえか」


「ヒトシが間違えすぎなんだよ」


「早く教えればいいだろ?」


「先に言うと焦るだろ? あぶないよね?」

 軽口が飛び交うたび、車内が少しずつ明るくなる。

 この二人がいるから、移動時間が苦じゃないんだと思う。


 静岡のサービスエリアで休憩することになった。

 窮屈な車内から外へ出ると、風が肌に触れて気持ちいい。

 深呼吸ひとつで、体の奥まで空気が入っていく。


それぞれトイレに行ったり、買い物をしたりして散っていく。

喫煙所の方を見ると、クロさんたちが煙をくゆらせていた。


 ツアーが終わって、『Critical Clinical』に合流する。

 あのステージに、美月さんと並んで立つ……。

 憧れてた光景だけど、何だか現実味がないな。


 青い空を見ながら、そんなことを考えていた。


「マコトくん、そろそろ行くよ」

 クロさんに呼ばれて一緒に車に戻る。


「タバコ臭えよ、はい消臭剤」

 ヒトシさんがクロさんに消臭剤を手渡して、車が発車した。


 そこから二時間ほど走ると、名古屋に到着した。

 ホテルにチェックインし、荷物を置いてから昼食を食べに外へ出た。


「あれ? ヒトシさん?」


「おお、凛じゃねえか」

 百貨店に入ったところで、小柄で可愛らしい女性が声をかけてきた。


「え、今からごはん行くの? うちも一緒に行っていい?」


「いいけど、ひつまぶしだぞ?」


「えっ、やば……お金足りんかも」

 その反応に、ヒトシさんが吹き出す。


「いいよ、俺が奢ってやる」


「え、ほんと? ヒトシさん、めっちゃ男前じゃん……ありがとね」

 あまりに自然に合流しそうだったので、思わず口を開いた。


「えと……どなたですか?」


「おお、こいつは凛って言ってだな」


「明日、MACSさんと対バンさせてもらう Kissbite の凛って言います」

 ――明日の対バン相手か。


「前にやった時も飯奢ったよな?」


「えー、そうだったっけ?」

 店に入ると、香ばしい匂いがふわっと鼻をくすぐった。

 その瞬間だけで、よだれが出そうになる。


 名古屋まで来たのはライブのためで、美味しいものを食べに来たわけじゃない。

 ……けど、今だけはいいよね、と心の中でそっとつぶやいた。


 凛さんは、話してみると見た目どおりの柔らかい人だった。


 初対面でも構えずにいられて、明日の対バンもきっとやりやすい――そんな安心が胸の奥に広がっていた。


 ひつまぶしも絶品だったし、名古屋に来た甲斐があったな、と自然に思える。


「凛さん、いい人でしたし、明日はやりやすそうですね」

 凛さんと別れ、ホテルへ向かう道すがら、なんとなくヒトシさんにそう言ってみた。


 ヒトシさんは歩きながらちらりとこちらを振り返り、


「安心するなよ? 度肝抜かれるぞ」

 にやりと笑った。


 その笑みが妙に自信ありげで、俺の向こうに、何かを見ているようだった。

 明日が、ますます楽しみになった。


【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。

有栖川という名家の娘であることが分かった。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


小松こまつ 里菜りな/キーボード担当/ミズハシ楽器・アルバイト

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリナ。

前任のヨネさんの紹介でクリクリにヘルプとして加入。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしている。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多かった。



【MACS】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。


【サンデーパニック】


せき/ヴォーカル担当

マイクパフォーマンスが楽しいサンパニのヴォーカル。

環奈推しでよくお茶に誘うが、毎回断られている。

以前リョウに怒られて以来、少しリョウが怖い。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに 由美子ゆみこ/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。


【美月の同級生】


泉谷いずみや/泉谷グループの御曹司

音楽業界に強い影響力を持つ名家の跡取りで、若くして多くのアーティストやプロデューサーと繋がりを持つ。

冷静で礼儀正しいが、その裏には家の期待と責任を背負う重圧もある。

有栖川家との関係から、美月との縁談が水面下で進められており、本人もその事実を理解しているが――彼自身の本心はまだ誰にも見せていない。


藤崎ふじさき/美月の同級生

美月の同級生で、名家・藤崎家に育った正真正銘のお嬢様。

育ちの良さがそのまま性格に表れており、言葉遣いは丁寧だが、価値観はどこか“良家の常識”に縛られている。



【市田楽器店】


市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】


米山よねやま/35歳・マネージャー

クリクリの元キーボード担当をヘルプでやっていた。登録名はヨネ。

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。


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