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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 怒涛の文化祭

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やりすぎだ、バカモノ

 練習が終わって、駅へ向かう帰り道。

 中谷さんと芝崎は、少し後ろで相変わらず盛り上がっていた。


「あの曲が一番好きだった」とか、「迫力がやばかった」とか、そんな話題で笑い合っている。


 そのさらに後ろでは、リョウさんとケイタさんが、真面目なのか雑談なのか分からないテンションで曲の話を続けていた。


 俺はというと、美月さんにぴったり張りついて歩く環奈を横目に見ながら、少しペースを落としていた。


「カンナ、ちょっと歩きにくいよ?」

 美月さんは眉を八の字にしながらも、どこか嬉しそうに笑う。


「ダメです! 離しませんよ」

 環奈は必死にしがみついたまま。

 歩きづらそうなのは明らかだけど、それ以上に――本当に怖かったんだろう。


 憧れの人が、自分の手の届かないところへ消えてしまう。

 そんな想像をしてしまったに違いない。


「カンナ! 『夢だけを追うよ』のベースさ――」

 リョウさんに呼ばれ、環奈は「むぅ」と不服そうに唇を尖らせながらも、美月さんからしぶしぶ離れていった。


「マコトちゃん、新曲どうだった?」


「今回もよかったです。『夢だけを追うよ』もいい曲ですし、それに――」

 新曲の感想を続けようと美月さんを見ると、彼女は俯いたまま指先をいじっていた。

 いつもの落ち着いた雰囲気とは違う、どこかそわそわした様子。


「どうしました? もしかして……不安、ですか?」


「ううん……そうじゃないけど」


「けど?」

 歩く速度を少し落として、彼女が言葉を探すのを待つ。


 やがて、美月さんは赤くなった頬を上げて、勇気を振り絞るように言った。


「マコトちゃん、すごくカッコよかったよ。手を引いてくれて……」

 その一言が、胸の奥に直接触れてくる。


「あ、いや、結局は水橋父に助けられましたし……」


「そうじゃないよ……」

 小さく首を振る美月さん。

 その仕草がまた可愛くて、心臓の音が、鼓膜の裏まで響くようだった。


 あの時は興奮してただ手を伸ばした。

 自分の言いたいことを伝えたかった。

 それだけのことだったのに。


「マコトちゃん……王子様みたいだったよ……」

 恥ずかしそうに視線を逸らす彼女を見ているだけで、胸がじんと熱くなる。

 涙が出そうになるほど、心が満たされていく。


 こんなふうに喜んでもらえるなんて――。

 その事実が、自然と足取りまで軽くしてくれた。


 翌日はMACSの練習日だった。

 ツアーに向けて、新曲を形にする作業が続いている。


「まことくん、ツアーは28日に出発になったからね」


「28から……いつまでですか?」


「15まで。移動日と休みも含めて、計画表作ってきたよ」

 クロさんが、クリアファイルに挟まれたツアーの計画表を手渡してくれる。


「えっと……29日の夜が札幌SEASONING。31日が仙台のdonum」


「2日はRootsね」


「はい。それで横浜FISHERMAN……そのあと関西へ移動、ですね」

 ツアー表には、一日ごとにライブと移動が細かく書き込まれていた。

 フェリーの時間、到着予定、休憩ポイントまで全部。


 ほとんど車移動だから、運転は相当大変だろうけど――そこは甘えさせてもらおう。


 練習を終えて家に帰ると、玄関に見慣れない女の子の靴が並んでいた。


 誰だろうと思いながらリビングの扉を開けると、陽葵とあかりちゃんが並んで勉強していた。


「あかりちゃんの靴だったのか」


「お邪魔してます」


「今日はあかりちゃんと勉強する約束してたから」

 陽葵がそう言って笑うので、俺もつられて微笑んだ。


「いいじゃん。頑張って」

 声をかけると、あかりちゃんが顔を上げて、じっとこちらを見つめてくる。


「お兄さん、やっぱり髪切ったらかっこいい。モテるでしょ?」


「そんなことないよ」

 苦笑いしながら返すと、陽葵が「ほら、集中して」とあかりちゃんのノートを指さした。

 その何気ないやり取りが、妙にくすぐったくて、思わず肩の力が抜けた。


「あ、陽葵。ツアーの日程、決まったよ」


「日程表ある?」

 陽葵に渡すと、ぱらぱらとページをめくりながら目を止めた。


「あ、この日……福岡なんだ」


「ん? どうしたの?」


「この日、あかりちゃんも福岡なんだよ」

 視線を向けると、あかりちゃんが楽しそうに日程表を覗き込んでいた。


「福岡の親戚の家に行くんです」


「そうか、大変だな」

 そう言うと、あかりちゃんは人差し指をチッチッチと振って、得意げに笑った。


「親戚が、福岡ドームでやるSERINAのコンサートに連れて行ってくれるんです」


「へぇ〜! 良かったね。芝崎とか絶対羨ましがるぞ」

 俺が言うと、あかりちゃんは胸を張るみたいに、ちょっと自慢げな顔をした。


 翌日、登校中に環奈が横に並んできた。


「おはようございます」


「ああ、おはよう」

 まだ眠気が抜けず、目をこすりながら歩く俺を見て、環奈は小さく笑った。


「そんなに眠いんですか?」


「眠いね……昨日もなかなか眠れなくて」


「ツアー、近いですからね」

 誰も俺のことを知らない場所でギターを弾く。


 今までとは違う。


 MACSを認めさせたい――その気持ちが空回りするみたいに、気づけば明け方まで弾き続けていた。


「あまり無理すると、体調崩しちゃいますよ?」


「そうだね。でも……何か掴みたくて」


「何か……ですか?」


「無力なままじゃいられないというか……」

 そう言うと、環奈は一度俯いた。

 けれど、すぐに顔を上げて、少し強めの声で言った。


「だったら、ちゃんと寝てください!」

 その真っ直ぐさに、思わず苦笑いしながら心の中で感謝した。


 朝のホームルームが終わると、俺と中谷さん、そして芝崎が三輪先生に呼び出された。


「サイトのリアクション数を見て、職員会議にかけようと思ったんだがな……」


「はい……」

 胸の奥がざわつく。

 まさか泉谷が圧力をかけて、出演の話を潰したとか――嫌な想像がよぎった。


「ちなみに、今のリアクション数を把握してる者」

 三輪先生が問いかけると、中谷さんだけが手を上げた。

 そういえば俺、確認してなかったな……。


「二人とも確認しとらんのか。……中谷、教えてやれ」


「全校生徒1178人中、せ、1103人がリアクションしています……」


「1103!?」


「やりすぎだ、バカモノ」

 三輪先生は大きくため息をついて見せた。


「今、登校していない者を除くと、ほぼ全員がリアクションしたことになる。職員会議でもな、校長から“これで反対する勇気のある先生はいないでしょう?”と苦笑いされたぞ」


「やったー!」

 芝崎が嬉しそうに声を上げる。


「近いうちに、バンドの代表者と話をさせてほしい。それとミズハシ楽器の担当者にもだ」


「わかりました。連絡しておきます」

 中谷さんが答えると、三輪先生はふっと笑った。


「頑張ったな」


「ありがとうございます」

 先生は廊下へ出ながら、振り返って言った。


「まあ、イベントで大変なのはここからだ。三人とも、気を抜かないように」

 その背中を見送りながら、ホッと胸をなでおろした。


 終業式も無事に終わり、夏休みに入った。


 ツアーの前にできるだけ宿題を片づけておこうと家に籠っていると、芝崎からメッセージが飛んできた。


『プール行こうぜっ!』


『いや、宿題やってるから』


『迎えに行くから!』


 ……こいつ、本当に人の話を聞く気がない。


 相手にしていても仕方ない。今は一問でも多く終わらせたい。

 そう思ってペンを握り直したところで、家のチャイムが鳴った。


 リビングから陽葵が玄関へ向かう足音が聞こえる。


「もう来たのか……」

 思わず呟きながら部屋を出ようとしたそのとき――


「あの、誠くんいますか?」


「はい……。あ、どうぞ上がってください。呼んできますので」

 どうやらリビングに通したらしい。

 陽葵が階段を上がってくる気配がして、俺は反射的に机へ戻り、宿題をしていたフリをした。


「お兄ちゃん、水橋さんって人が来てるよ」


「お? おお、そうか」


「すごい綺麗な人。デートの人?」


「ん? いや、違うんだが」

 驚いた顔の陽葵を置いて部屋を出る。


 リビングに行くと、環奈がアイスティーを出され、姿勢よくテーブルに座っていた。


「お邪魔してます……」


「えっと? 今日はどうしたの?」

 問いかけると、彼女はきりっとした表情でこちらを見つめ――


「誠くんを迎えに来ました」

 そう、はっきりと言った。


【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。

有栖川という名家の娘であることが分かった。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


小松こまつ 里菜りな/キーボード担当/ミズハシ楽器・アルバイト

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリナ。

前任のヨネさんの紹介でクリクリにヘルプとして加入。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしている。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多かった。



【MACS】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。


【サンデーパニック】


せき/ヴォーカル担当

マイクパフォーマンスが楽しいサンパニのヴォーカル。

環奈推しでよくお茶に誘うが、毎回断られている。

以前リョウに怒られて以来、少しリョウが怖い。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに 由美子ゆみこ/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。


【美月の同級生】


泉谷いずみや/泉谷グループの御曹司

音楽業界に強い影響力を持つ名家の跡取りで、若くして多くのアーティストやプロデューサーと繋がりを持つ。

冷静で礼儀正しいが、その裏には家の期待と責任を背負う重圧もある。

有栖川家との関係から、美月との縁談が水面下で進められており、本人もその事実を理解しているが――彼自身の本心はまだ誰にも見せていない。


藤崎ふじさき/美月の同級生

美月の同級生で、名家・藤崎家に育った正真正銘のお嬢様。

育ちの良さがそのまま性格に表れており、言葉遣いは丁寧だが、価値観はどこか“良家の常識”に縛られている。



【市田楽器店】


市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】


米山よねやま/35歳・マネージャー

クリクリの元キーボード担当をヘルプでやっていた。登録名はヨネ。

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。



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