表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 怒涛の文化祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/36

圧倒的

「マコトくーん!」

 弾む声援が飛んできて、俺は軽く会釈しながら“いつもの場所”へと歩み出た。

 フロアをざっと見渡しながら、芝崎たちはどこにいるんだろうと目を走らせる。


「よっ! 待たせたな!」

 ステージ中央でヒトシさんが声を張ると、会場が一気に沸き立った。

 あの人の存在は、いつだって背中を押してくれる。頼もしさが胸の奥でじんと広がる。


「最初から全開でいくぞ! 楽しんでくれ!」

 その掛け声に合わせ、俺は『Limit』のイントロをかき鳴らした。


 会場の熱気が一点に収束していくのが分かる。まるで観客全体が、音へ向かってじわりと歩み寄ってくるような圧力。――心地いい。そう思った瞬間だった。


 ヒトシさんの歌声が乗った途端、その圧は一気に押し返される。

 視界が鮮明になり、客席の奥で芝崎たちの姿を見つけた。


「あんなところにいたのか……」

 小さく呟き、意識を再びギターへと沈めていく。



 まことが一瞬、こちらを向いて何かを呟いた気がした。


 圧倒的なパフォーマンスに飲み込まれている最中、その仕草だけが妙に現実味を帯びて胸に刺さる。


 力強い歌声が全身を震わせる。

 初めて目の当たりにする『MACS』のステージに、ただただ圧倒されていた。


「ありがと、またな!」

 ヴォーカルが手を振りながらステージを去ると、歓声が波のように押し寄せた。


 興奮は収まらない。もっと聴きたい――心の奥でそんな欲が膨らんでいく。


「す、すごかったね」

 隣で中谷さんが、興奮を隠しきれない声で話しかけてきた。


「うん、サンパニよりずっと……」

 そこまで言って、周囲にサンパニのファンがいたらと思い直し、言葉を飲み込む。


「須藤君、かっこよかったね」


「あんなまこと、初めて見るよ」

 俺がそう言うと、中谷さんはふわりと優しく微笑んだ。


「あっ、今から水橋さんだ」

 そうか。クリクリがトリなんだ。

 このあと、あのステージに立つのか。


「水橋さん、大丈夫かな?」

 多分、中谷さんも同じことを考えている。

 そう思ったから、俺もそっと微笑み返した。


「ミツキー!」


「ミツキちゃーん!」


「ミツキー!」

 歓声が波のように押し寄せる。


 これから登場する『Critical Clinical』を待ちきれないファンたちの声が、会場の温度を一段上げていく。


 ステージに、長身で長い髪の男が姿を現し、そのままドラムセットに腰を下ろした。


「ケイター!」


「ケイタさーん!」


「ケイタくーん!」

 呼びかけに応えるように、彼はスティックを軽く鳴らす。

 低くうねるようなドラムの音が会場を満たし、腹の奥を震わせた。


 流れるように腕が動き、次々と異なる音色が重なっていく。

 ドラムのことは詳しくない。それでも――これは“すごい”と分かる。


 全員の視線がドラムに吸い寄せられる中、ほかのメンバーがステージへと歩み出る。

 水橋さんも堂々とドラムの前を横切り、定位置へ向かった。


 ドラムが盛り上がり、音が最高潮に達した瞬間――ふっと、すべてが止まる。


 一瞬の静寂。その向こうから、透き通る声がすっと差し込んできた。


「静かに幕開く 夜の帳が降りて」


 水橋さんのベースが歌に寄り添うように鳴り響き、観客の息を奪う。


「街の光に染まる 孤独な影一つ」


 鋭いギターが空気を切り裂き、世界の色が一瞬で塗り替えられたように感じた。

 暗いステージの中央、ミツキさんにスポットライトが落ちる。


「ネオンきらめく路地裏 足音響くアスファルト」


 その歌声に、心が持っていかれる。理由なんて分からない。ただ、抗えない。


「秘密を抱えた街 誰かを待ってる気がした」


 ――ここは夜だ。何故だかわからないけど、そう思った。


「夜の魅惑に囚われて 彷徨う魂はどこへ行く」


 その歌声に魅了されながら、これは別格だと確信した。

 サンパニは、前に観たときと同じくらい楽しかった。

 MACSは、その楽しさを軽々と上回るほどの演奏を見せつけてきた。

 けれど――これは違う。


 比べることすら無意味なほど、圧倒的だった。

 曲が終わった瞬間、割れるような歓声が会場を揺らす。


「あんがとね! 今日はよろしく!」

 ミツキさんの声に、観客がさらに沸き立つ。その熱に当てられて、俺の心まで跳ねるようだった。


「次はね、カンナとアタシの曲だけど。みんなとアタシの曲でもあるから」


「『アタシたちの誓い』」

 タイトルコールが響いた途端、会場全体がリズムに合わせて揺れ始める。


「カンナがんばれー!」

 観客の声援にも、水橋さんは一切反応を見せない。

 けれど、その無反応さえも彼女の魅力を際立たせていた。


 ふと隣を見ると、中谷さんが目を輝かせながらこちらを見ていた。

 ――同じ感覚を共有している。素晴らしい瞬間に一緒に立ち会っている。

 だから人はライブに来るのかもしれない。そんなことを思いながら、俺もリズムに身を委ねた。


 六曲目が終わると、美月さんがマイクを握り直す。


「じゃあ次で最後の曲、『美しい月』」

 もう最後なのか。

 もっと見ていたい――そう思った瞬間、思考がすっと止まった。


 静かな曲調が心をさらっていく。

 気持ちが、どんどん音の中へ引き込まれていく。


 曲が盛り上がり、ここからサビが来る――そう感じた、その刹那。

 衝撃が走った。

 息をのむほどの圧。隣の中谷さんも、完全に見蕩れている。


 ――これが『Critical Clinical』なのか。ただ、そう思った。



 アンコールを終えた『Critical Clinical』のメンバーが、次々と控室へ戻ってくる。

 扉の前で俺は、胸の鼓動がまだライブの余韻を刻むまま立っていた。


 最初に姿を見せたのはリョウさん。

 その後ろからケイタさんが続き、軽く身をかわした瞬間――


「イテッ、ミツキお前!」

 リョウさんの肩がぐいっと引っ張られた。その張本人が、勢いよく駆けてくる。


「ごめんよー!」

 笑いながら走ってきた美月さんは、俺の目の前でぴたりと止まった。


「マコトちゃん! どうだった?」

 差し出された手に合わせるように、俺は片手を上げる。


「最高でした」

 ハイタッチがぱちんと響く。

 その瞬間、美月さんの笑顔から明るい音が聞こえるようだった。


 本当に嬉しそうで――

 ずっと、こんな顔をしていてほしいと心から思った。


「環奈も最高だったよ」

 後ろからやって来た環奈に手を差し出すと、彼女は少し恥ずかしそうにハイタッチしてくれた。


「ありがとうございます」

 環奈らしい、控えめだけど嬉しさの滲む声だった。


「中谷さんたち、もう帰っちゃいましたか?」


「どうだろう? 見てくるよ」

 ライブハウスの外に出ると、まだ残っている人たちが興奮冷めやらぬ様子でライブの話に花を咲かせていた。


 少し離れた場所で、芝崎と中谷さんの姿を見つける。


「二人ともここにいたのか」


「ま、まこと! すごかったよ!」

 芝崎が興奮気味に駆け寄ってくる。素直に褒められると、やっぱり嬉しい。


「環奈に会っていかないの?」


「「会えるの?」」

 完全に揃った声に、思わず吹き出しそうになった。


 控室の前に戻ると、サンパニのメンバーが帰り支度をしていた。


「お、マコトくん! お疲れ様」


「あ、関さんお疲れ様です」


「やられたよー。MACS、レベル上がったね」


「サンパニも最高でしたよ」


「いやいや、このままじゃ置いてかれちゃいそうだからさ。もっと頑張らないと」

 関さんは笑いながらそう言い、サンパニのメンバーと共にライブハウスを後にした。


「お、マコト。ここにいたのか」

 控室から出てきたヒトシさんが声をかけてくる。


「そうか、今日は友達来てるんだったな」

 頭をかきながら、控室の中へ向かって声を張る。


「今日はマコト抜きで行こうか」

 その後、MACSのメンバーが続々と控室から姿を現した。


「マコトくん、お疲れ様」

 クロさんが優しく微笑む。


「まことのバンドの人って、みんな大人っぽくてカッコいいよな」


「大人だからな……」

 芝崎とそんな話をしながら控室の扉を開ける。


「お、マコト。お疲れ」

 リョウさんに声をかけられる、室内の視線が一斉にこちらへ向いた。


「マコトくん、今日のMACSもよかったよ」

 ケイタさんが柔らかく笑う。


「環奈、中谷さんたち来てくれたから」

 そう言うと、環奈が立ち上がってこちらへ歩いてきた。


「み、水橋さん! お疲れ様です!」


「ありがとうございます」

 ……なんで芝崎はそんなに緊張してるんだ。


「誠くんはMACSの打ち上げ行かなくていいんですか?」


「今日は芝崎たち来てるから、俺抜きでいいって」


「そうですか……」

 そんな会話をしていると、環奈の後ろから美月さんがにゅっと顔を出した。


「じゃあさ、うちの打ち上げ一緒に行く?」

 満面の笑み。

 芝崎は嬉しさを隠しきれず、中谷さんは俯いていた顔をぱっと上げ、美月さんを見つめた。


「お、中谷ちゃん? 何かな?」

 意を決したように、中谷さんが口を開く。


「今年、星雲高校の文化祭実行委員をやってるんです」


「おお、お? それで?」


「星雲高校の文化祭に参加していただけないでしょうか?」

 突然の交渉に、俺と環奈、ついでに芝崎まで固まる。


「文化祭か、へー」

 美月さん、少し興味ありそうだ。


「文化祭で、Critical Clinicalにライブをやっていただきたいんです」

 突然の申し出に対しても即答でオッケーしそうな笑顔の美月さん。

 その背後から低い声が響いた。


「その話、メシでも食いながら聞かせてくれるか?」

 控室の扉から顔を出したリョウさんが、にやりと笑っていた。

【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。

有栖川という名家の娘であることが分かった。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


小松こまつ 里菜りな/キーボード担当/ミズハシ楽器・アルバイト

前任のヨネさんの紹介でクリクリにヘルプとして加入。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしている。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多かった。



【MACS】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。


【サンデーパニック】


せき/ヴォーカル担当

マイクパフォーマンスが楽しいサンパニのヴォーカル。

環奈推しでよくお茶に誘うが、毎回断られている。

以前リョウに怒られて以来、少しリョウが怖い。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに 由美子ゆみこ/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。



【市田楽器店】

市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】

米山よねやま/35歳・マネージャー

クリクリの元キーボード担当をヘルプでやっていた。登録名はヨネ。

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ