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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 怒涛の文化祭

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サンパニです、よろしく!

 ライブハウス『月と狼』までの道を案内してほしいと言われ、俺は駅の改札前で芝崎と中谷さんを待っていた。


 先週の勉強会で、俺たちがバンドをやっていることがバレた時は正直ヒヤッとしたけれど、二人はそのことを誰にも話していないらしい。まあ、噂話を好むタイプじゃないし、そこは信頼していいんだろう。少し肩の力が抜けた。


 しばらくすると、改札を抜けた芝崎と中谷さんがこちらに気づき、手を振ってくる。


「芝崎、こっち」


「おお、まこと!」


「須藤君、お待たせ」

 三人で合流し、そのまま『月と狼』へ向かって歩き出す。


「中谷さんって、音楽とか聴くほう?」


「そうだね。でもバンドのライブはあんまり行かないかな」

 芝崎と中谷さんが並んで話す声を聞きながら、俺は二人を先導する。


「普段はどんなの聴くの? 好きな歌手とかいる?」


「最近はSERINA(セリナ)とかよく聴くよ」


「わかるー! SERINAいいよね!」

 ……妙に話が弾んでるな。SERINAか、有名どころだ。


「R&Bの人だよね? すごく売れてる」

 俺が言うと、二人は息ぴったりに声を揃えた。


「SERINAいいよねー!」

 仲良いな、この二人……もう付き合えばいいのに。


 ライブハウスに着いたものの、開演まではまだだいぶ時間があった。


「どうする? まだ時間けっこうあるけど」


「適当に時間つぶしとくー」

 適当って……この時間をどう潰すつもりなんだろう。


「水橋さんいるの?」


「ああ、そろそろ来てるんじゃないかな?」

 中谷さんが、なんとなく環奈に会いたがっている気がしたので、


「ちょっと待ってて」

 そう言って控室へ向かった。

 控室に入ると、松崎さんとクロさん、ケイタさんが談笑していた。その奥で、環奈がベースを軽くつま弾いているのが見える。


「環奈、ちょっといい?」

 声をかけると、環奈は手を止めて立ち上がり、ベースをそっと置いてこちらへ歩いてきた。


「どうしました?」


「ああ、中谷さんたちが来てるんだけど」

 そう言って控室を出ると、環奈も後ろからついてくる。

 表に出た瞬間、中谷さんの目がぱっと輝いた。


「水橋さん! かっこいい!」


「ど、どうも……ありがとうございます」

 環奈は少し照れたように、語尾がもごもごしている。

 まあ、ファンに言われるのとはまた違うのかもしれない。いや、環奈の場合はファンに言われても照れる気がするけど。


「お二人は、この後どうするんですか?」

 俺と同じことを気にしたのか、環奈が尋ねる。すると芝崎が笑って答えた。


「まあ、適当に時間つぶすよ――あ!」

 芝崎の視線が一点で止まり、つられて振り返ると、その先に『サンデーパニック』のヴォーカル、(せき)さんが立っていた。


「サ、サンパニのヴォーカルの人だぁ……!」

 こいつ、完全にファンじゃねえか。


 関さんはこちらに気づき、手を振りながら近づいてくる。


「こっち来る! サンパニの人こっち来るって!」

 芝崎が騒がしい。落ち着け。


「やほ、カンナちゃん! それとマックスのマコトくんだよね?」


「どうも」

 環奈が短く挨拶すると、関さんは周囲をキョロキョロと見回した。


「ミツキ、まだ来てないの?」


「まだ来てませんよ?」


「そっか。じゃあさ、カンナちゃん今度お茶でも――」


「結構です」

 笑顔で即答。しかも食い気味。関さんはガクッと肩を落とした。


「マコトくん……また断られたよ……」


「関さん、環奈推しですもんね」


「ミツキに聞かれると怒られるんだけどね……」

 その背後から、よく通る声が飛んできた。


「何を? 何を聞かれたら怒られるのかなー?」

 振り向くと、満面の笑みで関さんを威嚇する美月さんが立っていた。


「うげっ、ミツキ! リョウくんには言わないで!」


「またカンナにちょっかい出そうとしたでしょ?」


「悪かったから! リョウくんには内緒ね!」

 そう叫びながら、関さんはライブハウスの中へ逃げ込んでいった。


「関さんは懲りないですね……」


「ほんとにね」

 美月さんは、仕方ないなあと言いたげに柔らかく笑う。


「でも、無理強いもしないし。いい人なんですけどね」


「ん? カンナは関さんとお茶したかったの?」


「いえ、それとこれとは別の話です」

 そんなやり取りをしていると、中谷さんがぽつりとつぶやいた。


「この人が……美月さん?」


「はい! ミツキですー。あなたは?」


「ああ、学校の友達で、中谷さんと芝崎です」


「おお、カンナとマコトちゃんの学校の子か」


「中谷です」

 中谷さんが軽く会釈する。


「し、し、し、芝崎です!」

 緊張しすぎて声が裏返ってる。ミーハーか。


「学校の友達呼ぶなんて珍しいね!」


「いつもは内緒にしてるんですけど……この二人にバレちゃって」

 そう言うと、美月さんはふふっと笑った。


「でも聴きに来てくれたんでしょ? ありがとね!」

 横ピースを決めて「楽しんで帰ってね!」と言い残し、控室へと消えていった。


「かっこいい人だ……」

 中谷さんがぽつりと呟くと、環奈が嬉しそうにこくりと頷いた。

 その環奈の腕を、中谷さんがすっと引っ張り、少し離れた場所へ連れていく。


「何してるんだろう?」


「まこと……」

 芝崎が何か言っているが、聞き流して環奈たちの様子を見守る。

 中谷さんが環奈の耳元で何か囁き、環奈が目を丸くした。

 そのあと、環奈は周囲をキョロキョロ見回しながら、両手を振って必死に否定している。

 ……何を言われたんだ。


「まこと!」


「なんだよ?」


「ミツキさんって、かっこいいな」


「そうだね」

 芝崎はどうやら、完全にミツキさんのファンになったらしい……。


 リハがあるため、そこで芝崎たちとは別れ、俺と環奈は控室へ向かった。



 衝撃だった。

 あの日、ステージの下から夢中で見上げていたサンパニのヴォーカル――その本人と、まことが当たり前みたいに親しげに話していた。


 水橋さんにしてもそうだ。

 二人が急に、手の届かない遠いところに行ってしまったようで、ほとんど言葉が出てこなかった。


「中谷さん、喫茶店でも行こうか」


「そうだね。開場まで一時間ちょっとあるし」

 中谷さんを連れて近くの喫茶店に入り、アイスコーヒーを二つ頼んで席に落ち着く。


「どう思う?」


「何が?」


「あのミツキさんって人」


「かっこよかった」

 そう答えると、中谷さんはむうっと頬を膨らませた。


「水橋さんの強力なライバル出現かもしれない……」


「え? ライバルって、まことのこと?」


「だって、なんか親しそうだったじゃん?」

 確かに。

 まこととの距離感が、妙に近かった気がする。


「強敵だなあ……」

 中谷さんが深いため息をつく。


「俺はそれより、まことや水橋さんが、ああいう人たちと普通に仲良くしてたことに驚いたよ」


「ああ、確かに。わかってたはずなのに、いざ見ると驚くね」


「普段の二人のままなのに、なんか……少し遠い感じがする」


「それ、わかる!」

 そのあとは、サンパニのライブを初めて見たときの話なんかをしながら、開場時間までゆっくり時間をつぶした。


 ライブハウスに戻ると、すでに開場していて、入口前には入場を待つ人の列が長く伸びていた。


「人、多いね」


「後からもっと来るだろうし、並んでおこうよ」

 中谷さんに促され、列の後方へと並ぶ。


「『美しい月』やるかな?」


「ああ、いいね。聞きたい」

 前に並んでいる女性たちが、興奮気味に曲の話で盛り上がっている。

 その熱気に押されるように入場すると、場内にはすでに多くの観客が詰めかけていた。


「まことのやつ、こんな大勢の前でギター弾くのか……?」


「衝撃だね。水橋さんも、このステージに立つんだよね……」

 ざわざわしていた会場が、次第に静けさを取り戻していく。


 気づけば、フロアはほぼ満員だった。

 二百人くらい? いや、もう少し少ないか……そんなことを考えていると、照明がふっと落ち、場内が暗闇に沈む。


 ステージに向けて視線が集中し、空気が一気に熱を帯びていく。


「最初サンパニだって」


「えー? トリじゃないの?」

 隣の女性たちの会話が耳に入る。ざわめきが広がる中、前方から突然、歓声が弾けた。ステージにライトが走り、『サンデーパニック』のメンバーが姿を現す。


「関さーん!」

 客席から飛ぶ声に手を振り返し、ついさっきまで近くで話していたはずの関さんが、まるで別人のような表情でマイクを握った。


「サンパニです、よろしく」

 その声音、立ち姿、放つ空気。すべてが“ステージの人間”のそれで、思わず息をのむ。


「最後まで楽しんでください! 『BAD-DAYS』!」

 曲名がコールされ、瞬間、音の波が全身を叩いた。

 胸の奥が震え、以前味わったあの興奮が一気に蘇る。気づけば体は自然にリズムを刻んでいた。


 一曲目こそ圧に飲まれて固まっていた中谷さんも、二曲目、三曲目と進むにつれ、肩の力が抜けたように体を揺らし、手を叩いている。


 ふと目が合うと、あの可愛らしい笑顔が返ってきて、胸が温かくなる。


 気づけば、もうラストの曲だった。

 名残惜しさを抱えながら、ステージを降りていくサンパニの背中を見送る。


「中谷さん、どうだった?」


「すごくいい! サンパニ、めっちゃ楽しかったよ」

 その反応に、胸の奥で張りつめていたものがふっと軽くなる。

 けれど同時に、別の緊張がじわりと顔を出した。


 ――このあと、まことや水橋さんが登場する。

 何が起きるのか。どう転ぶのか。

 期待と不安が入り混じったまま、次のステージを待つことになった。


 しばらくすると、前方から突き抜けるような声が上がった。


「アニキー!」


「クロさーん!」


「まつざきぃー!」

 男たちの熱い声援に混じって、甲高い黄色い声が響く。


「マコトくーん!」

 まこと……。

 その名前が客席から飛んだ瞬間、胸の奥がざわついた。


 毎日学校で顔を合わせている、あのまことが――これからステージに現れる。

 そして、あそこにいる女性たちは、その瞬間を心待ちにしているのだ。


 ペットボトルのキャップをひねり、スポーツドリンクを一口含む。

 会場のざわめきはどんどん膨らみ、始まりの気配に全員が息を呑んでいた。


「マックスー!」

 誰かがバンド名を叫んだ途端、前方が一斉に沸き立つ。

 マックスのメンバーが姿を現した。落ち着いた雰囲気で、どこか大人びたバンドだ。

 ――この中に、まことが混ざってるなんて。


「マコトくーん!」


「こっち向いてー!」

 歓声が重なった瞬間、ギターを抱えたまことがステージに現れた。

 緊張している様子はまるでなく、むしろ慣れた足取りでライトの下を歩いていく。

 

 その姿を見た瞬間、胸の奥がふっと遠のくような感覚に襲われた。

 あれが、本当に俺の知っているまことなのか――。

 そんな意味のない問いが浮かぶほど、ステージ上の彼は“別世界の人間”に見えた。


「芝崎君、須藤君だよ!」

 中谷さんが興奮した声で俺の袖をぐいっと引っ張る。

 返事をしようと口を開いた、その瞬間――。


「よっ! 待たせたな!」

『MACS』のヴォーカルがマイク前に姿を見せた途端、会場が爆発したように沸き立った。


「最初から全開でいくぞ! 楽しんでくれ!」

 その声に合わせるように、まことの腕が軽やかに動き、ギターが鋭く鳴り始める。


 一音目から空気が変わった。

 音が会場を包み込み、まるでバンド全体を牽引していくような力があった。


「これが……まこと?」

 自分でも気づかないほど小さく漏れた呟きは、歓声に飲まれて消えた。

 ステージの上の彼は、俺の知っているまこととは違う。

 その事実だけが、胸の奥で静かに震えていた。


【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。

有栖川という名家の娘であることが分かった。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


小松こまつ 里菜りな/キーボード担当/ミズハシ楽器・アルバイト

前任のヨネさんの紹介でクリクリにヘルプとして加入。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしている。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多かった。



MACSマックス


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。


【サンデーパニック】


せき/ヴォーカル担当

マイクパフォーマンスが楽しいサンパニのヴォーカル。

環奈推しでよくお茶に誘うが、毎回断られている。

以前リョウに怒られて以来、少しリョウが怖い。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに 由美子ゆみこ/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。



【市田楽器店】

市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】

米山よねやま/35歳・マネージャー

クリクリの元キーボード担当をヘルプでやっていた。登録名はヨネ。

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。



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