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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第三章 怒涛の文化祭

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お茶でもしてく?

「どうしたの?」

 環奈が何か言いかけたように見えた。けれど、傘を叩く雨音が強くて、彼女の声がうまく届かない。


「いえ……。誠くんもライブ決まったら、教えてください」

 ああ、ライブの話か。


「いいよ。来てくれるなら嬉しい」

 そう返しながら横目で環奈を見る。今日の彼女はどこか落ち着かない。

 さっきから視線を落としたままだし——……って、前髪に雨がかかってるじゃないか。


「環奈、今日ボーっとしてない? ほら、前髪濡れちゃってるよ」

 声をかけても、環奈はどこか上の空だ。

 俺はポケットからハンカチを取り出し、そっと彼女の前髪に当てる。


「環奈って、目が離せないところあるよね」

 気づけば、幼いころの陽葵を思い出していた。放っておけない感じが、どこか似ている。


 ハンカチを手渡し、「自分でも拭いて」と促すが、環奈は固まったまま動かない。


「環奈? 本当に大丈夫?」


「だ、大丈夫」

 ぎこちない返事を残して、環奈は駅のホームへ向かっていく。

 その背中に手を振り返し、俺は電車に乗り込んだ。


 座席に腰を下ろした瞬間、美月さんからのメッセージに気づく。


『週末空いてる?』

 短い文面がいかにも美月さんらしくて、思わず口元が緩む。

『空いてますよ』と返すと、すぐに返信が来た。


『週末の買い物、環奈に付き合ってもらおうと思ったけど』


『環奈、親戚の家に行くんだって』

 なるほど。じゃあ代わりに俺が行けばいいのか。


『何を買いに行くんです?』


『お、聞いちゃう? エフェクター買いに行くんだけど』


『マコトちゃん付き合ってくれない?』

 その一文を見た瞬間、胸の奥がふっと温かくなる。

 美月さんと二人で出かけられる——それだけで、頬が緩んだ。


『いいですよ。どこで待ち合わせますか?』

 ほどなくして、美月さんから待ち合わせ場所と、行きたい店の情報が送られてきた。


「お、お帰りー。先にお風呂入りなよ、風邪ひいちゃうよ?」

 玄関で出迎えた陽葵が、心配そうに俺を見上げる。その仕草に、ふと成長を感じた。


「陽葵も大きくなったよな」


「なにそれ? 気持ち悪いよ」

 わざとらしく眉をひそめて笑う陽葵に荷物を預け、俺は風呂場へ向かった。


 夕食の途中、陽葵がじーっとこちらを観察するように見つめてくる。


「今度は夜更かししちゃダメだよ?」

 まるで全部お見通しだと言わんばかりの口調。……はい、気をつけます。


「最近、何だか楽しそうですね?」


「そうかな?」

 ある日の帰り道、環奈が声をかけてきた。


「まあ、楽しいことがあるのはいいことですけど」

 俺の浮かれた気持ちが伝わったのか、環奈もどこか柔らかい表情をしていた。


「まあ、そうだね」


「私にも楽しいこと、分けてほしいです」

 そう言って環奈が微笑む。その笑顔は、どこか寂しさを含んでいるようにも見えた。


「環奈は週末、親戚の家に行くんだろ? 楽しいこととかないの?」


「え、なんで知ってるんですか……?」

 声色がわずかに変わる。親戚の家の話題は触れられたくないのかもしれない。


「いや、環奈の代わりに美月さんと買い物行くことになったんだよ」

 そう言った瞬間、環奈がぴたりと立ち止まった。


「環奈、どうしたの?」


「いえ……そうですか。楽しんできてください」

 急に距離を置くような声音。それに、なんだか素っ気ない。

 もしかして、美月さんとの買い物、環奈も楽しみにしてたのか……?


 胸の奥に小さな罪悪感が灯る。

 駅に着くと、環奈は軽くお辞儀をして、改札の向こうへ消えていった。


 環奈の寂しそうな顔が、心のどこかに罪悪感を残したまま週末に突入した。


 ──けれど、当日になってしまえばそんなものは霧散する。

 今はただ、美月さんに会いたい。それだけだ。


「昨日は、ちゃんと寝たようだね」

 朝食の席で、陽葵がじっと俺の顔を観察してくる。


「まあ、前回の反省を生かさないとな」


「ふふん、よろしい」

 妙に得意げな陽葵に、思わず苦笑いが漏れた。


 朝食を終え、待ち合わせの駅へ向かう。

 改札を抜けた瞬間、視界の端に“それらしい人影”が飛び込んできた。

 ──あ、いた。安定の存在感。


「おはようございます!」


「おはよー! 早いじゃん、どうしたの?」


「いや、まあ……楽しみだったので」


「ふ、ふーん……アタシと出かけるのが楽しみだったのか……」

 こつんと軽く肘でつつかれて、心臓が跳ねる。


「み、見に行く店は決めてるんですか?」


「いくつかね……。い、行こうか」


「了解です」

 美月さんが歩き出す。その横へ、自然と歩幅を合わせるように並んだ。


 楽器屋が何店舗も並ぶ通りを歩く。


「見て見て! このギターかわいくない?」

 店頭に並んだローズゴールドのレスポールを指さして、美月さんが子どもみたいにはしゃぐ。


「この色、ネットでは見るけど実物は初めてだよ」

「ああ〜、いいなあ! 欲しい! ……二十万円ですか〜。今は無理だなあ…」


「美月さん、エフェクター見に行きましょう」

 そんなやり取りをしながら、最初の目的地『市田(いちだ)楽器店』に到着した。


「最初はここだよー」


「市田楽器店ですか……ここは来たことないな」

 美月さんが、なぜか意地悪そうに笑っている。嫌な予感しかしないが、そのまま店内へ。


「いらっしゃいませー!」

 元気いっぱいの女性店員さんが声をかけてくれた。


「今日は何をお探し……って、ミツキちゃん?」


「はい、ミツキですー!」

 ああ、知り合いがいてもおかしくないよな……と思った次の瞬間、店員さんが奥へ向かって叫んだ。


「リョウくーん! ミツキちゃん来たよ!」


「えっ」

 リョウ……くん?

 あのリョウさん? いやいや、そんな偶然あるわけ──

 ……いや、美月さん、入るとき笑ってたよな。ということは。


「んだよ、騒がしーな」


「リョウくん! ミツキちゃんが!」


「は? ミツキ? 何言ってんだ……」

 その声とともに、奥からリョウさんが姿を現した。


「な、本当にいるじゃねーか」


「やっほ! リョウくん」

 リョウさんの鋭い視線が、俺に向く。


「マコト……。なんだ? 美月に付き合わされてんのか?」


「いえ、付き合わされてるとかじゃないですよ」


「へえ、お前いいやつだな……」

 苦笑いするリョウさんの顔には、“普段から振り回されてます”という疲労がにじんでいた。


「んで? 何買いに来たんだ?」


「いやー、エフェクターを買おうと思って」


「ああ、壊れたとか言ってたな」


「変な音するようになってさ。」


「どうせ蹴ったんだろ?」


「蹴ってないよ!」


「じゃあ、落としたか?」


「落としてない!」


「じゃあ何だよ?」


「えっと……寿命?」


「お前の扱いが寿命縮めてんじゃね?」


「ひどっ」

 漫才のような二人の掛け合いを見て、少し吹き出してしまった。


「まあ、せっかくだから使いやすいのほしいじゃん?」


「そりゃそうだ」


「だからマコトちゃんに着いてきてもらいました!」

 自信満々に紹介されたけど……ここにリョウさんいるなら、俺いらなかったんじゃ?


「エフェクターはそっちだ」

 エフェクターコーナーに向かうと、美月さんの表情が一気に真剣になる。


「マルチ買うんですか?」


「うん、持ち運びが楽な方がいい〜」

「お、これ良くない?」


「ああ、音の再現度もいいし、使いやすいって聞きましたよ」


「おおー……てか、かわいくね?」

 そこかよ、とツッコミたいのを飲み込む。


「小さいし持ち運びも楽そうじゃん! これにしようかな」

 タッチパネルを楽しそうに触っていた美月さんの手が、値札を見た瞬間止まった。


「うげ、六万円……痛いな〜。リョウくん、安くならない?」


「なっても五万八千円くらいだぞ?」


「ううう……中古とかやってないの?」


「うちは中古やってねーよ」

 美月さんが腕を組んで悩んでいる間に、中古価格を調べる。


「美月さん、中古でも五万くらいはしますよ?」


「ああ、そうなのか〜」

 POPを見ながら、何かを計算し始める美月さん。まあ、高いよな。


「これとかどうです?」


「え、うーん……こっちほど可愛くはないけど……」


「でも音もいいですし、軽いですよ?」

 渡してみると、「ほんとだね〜」と頷きつつ、まだ迷っている様子。


「しかもお値段はさっきの半分以下です」


「本当だ! リョウくん、これどう思う?」


「おう、いいんじゃね? 初心者向けとか言われてっけど、使いやすいからずっと使ってる人もいるしな」


「おお〜」

 しばらく悩んだ末、「こっちにする」と言って、俺が勧めたマルチを購入した。


「ありがとー! また来てね!」

 帰り際、最初に対応してくれた店員さんが声をかけてくれた。

 ……あれ、この人どこかで見たような。


「あ、戸田(とだ)さん!」


「え? 私のこと知ってるんですか?」


「この前のライブで、リョウさんがあなたを見つけて“戸田さん”って言ってたんで」


「ああ、なるほど。またライブ行きますからね」

 そんな会話を交わしながら店を出る。

 戸田さんは最後に美月さんと握手して、満面の笑みを浮かべていた。

 ──やっぱり、美月さんはファンが多い。


「時間余っちゃったね〜」


「最初の店で決まっちゃいましたからね」


「お茶でもしていく?」

 その言葉を待っていた。昨日のうちに、もしものためのカフェを調べておいたのだ。


「こっちに、雰囲気よさそうなカフェがあるみたいですよ」


「じゃあそこ行こー!」

 案内したカフェは、落ち着いた色のフローリングに同系色のテーブルと椅子が並ぶ、静かで居心地のいい空間だった。


「何飲みますか?」


「んーと、クリーム……いや、まて。生バナナジュースで!」

 注文を済ませ、飲み物が来るまでの間、楽器屋の話やギターの話で盛り上がる。


「おお、これおいしー!」

 美月さんが嬉しそうにバナナジュースを吸う。その無邪気な表情に、胸がじんわり温かくなる。


「マコトちゃん、一口飲む?」

 差し出されたストローに心臓が跳ねた。

 間接キスを意識しすぎて、手が少し震える。それでも、そっと口をつける。


「……本当だ、美味しいですね」

 美月さんはにっこり笑うと、今度は俺のアイスコーヒーを指さした。


「そっちもちょうだい」


「どうぞ」

 ストローを差し出すと、彼女はためらいなく一口飲んだ。


「コーヒーもうまいねー!」

 その無防備さに、また心臓が忙しくなる。

 そのとき──


 ドアの鈴が軽く鳴り、新しい客が入ってきた。

 足音が近づき、俺たちのすぐ隣で止まる。

 気配が、こちらを向いた。

 そして。


「あれ? 有栖川(ありすがわ)じゃない?」


【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


ヨネ/35歳・ヘルプでキーボード担当

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【マックス】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。



【市田楽器店】

市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】

小松こまつ 里菜りな/ミズハシ楽器・アルバイト

キーボード奏者で、決まったバンドに所属せず活動している。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしており、ヨネさんとは面識がある。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多い。


【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。



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