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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 限界(リミット)の向こう

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え?お前ら付き合ってんの?

 とても長い一瞬の静寂が終わり、会場全体が震えだした。

 

 呆然としていた観客たちはようやく興奮を思い出したように、声を上げ、手を鳴らし始める。


 スポットライトがふっと落ち、「Critical Clinical」のメンバーがステージを後にすると、約束されたアンコールの声が一斉に響き渡った。


 俺もその熱の波に飲み込まれるように、必死で手を叩き続けていた。


 やがて、最前列のあたりから歓声が上がる。

 再び灯ったスポットライトに照らされ、クリクリのメンバーが姿を現した。


「ありがとう! 今日は特別大サービス! アンコールも新曲やっちゃうよ!」

 美月さんがそう宣言すると、観客たちは一転して、次の一音を逃すまいと静寂を作り出していく。張りつめた空気が、ステージの上でゆっくりと形を成していくようだった。


 ケイタさんがスティックを軽く掲げ、リズムを刻むようにカウントを入れた。その合図に合わせてキーボードとベース、そして美月さんの声が重なり、観客を一気に『よるのまち』の世界へと引き込んでいく。


「静かに幕開く 夜の帳が降りて」


 そこへドラムが加わり、イントロは一気に熱を帯びていった。


「街の光に染まる 孤独な影一つ」


 リョウさんのギターがトリルを響かせ、会場の空気を鋭く切り裂く。その音に圧倒されたのか、手拍子をしていた観客の動きがぴたりと止まり、視線が一斉にリョウさんへ吸い寄せられていくのが分かった。


「ネオンきらめく路地裏 足音響くアスファルト」


 鋭いギターがふっと消え、代わりに静かなベースラインが歌を導くように流れ出す。


「秘密を抱えた街 誰かを待ってる気がした」


 ドラムがじわりと盛り上がりを予感させる中、マイクの前に立つ美月さんは虚ろな表情のまま、メロディをなぞるように丁寧に歌い上げていく。


「夜の魅惑に囚われて 彷徨う魂はどこへ行く」


 “夜の”というフレーズが頭の中で反響する。

 美月さんはその瞬間、目を大きく見開き、両手でマイクスタンドを強く掴んだ。


「答え探す街明かり 消えない想いを抱きしめて」


 その一節を力強く歌い切った瞬間、圧倒されていた観客の心に再び火が灯り、歓声が爆発するように上がった。



 キーボードに指を落としながら前方を見る。メンバーの背中越しに、揺れる観客の顔がかすかに見えた。


「雑踏の中をすり抜けて 見知らぬ顔とすれ違う」


 美月の歌声に、観客が歓声を返す。俺は環奈のベースラインを耳で追いながら、鍵盤へ指を落としていく。


「誰にも言えない孤独 胸の奥に隠してる」


 ふとケイタを見ると、彼は気づいたようにニコッと笑った。その笑みが合図になったかのように、ドラムはサビへ向けて勢いを増していく。


「夜の魅惑に囚われて 彷徨う魂はどこへ行く」


 観客の視線が完全に美月へ釘付けになっているのが分かる。彼女の声が響くたび、会場全体が『よるのまち』そのものへと変わっていく。


「答え探す街明かり 消えない想いを抱きしめて」


 圧倒的だ。

 今までいろんなバンドのヘルプをしてきたが、こんな感覚は初めてだ。


「……俺の出番はここまでかな」

 誰にも聞こえないほど小さく呟き、そっと鍵盤へ視線を落とした。



 会場がサビの盛り上がりで沸き返る中、俺は練習で聞いたリョウさんのギターソロを待つような気持ちでステージを見つめていた。


「あれ、音が……」

 自分が本当に呟いたのかすら覚えていない。予想外の変調に、思わず目を見開いてしまう。


「夜風が囁く物語 過去と未来の交差点」


 そう来たか。

 曲の完成度は、俺の想定なんて軽々と飛び越えてくる。


「運命に導かれるまま 僕はこの街を彷徨う」


 美月さんのハイトーンが脳まで染み込んでいくようで、気づけば「うぉぉっ」と声を上げていた。歌声が途切れた瞬間、ギターが鋭く鳴り響き、ドラムが曲の骨格を再び組み立てていく。


「夜の魅惑に囚われて 彷徨う魂はどこへ行く」


 さっきも聞いたフレーズに、まるで『よるのまち』の中を自分がぐるぐる彷徨っているような感覚に襲われる。


「答え探す街明かり 消えない想いを抱きしめて」


 夜の匂いがふっと鼻先をかすめたような、そんな錯覚すら覚える。不思議な気分だった。


「夜明け前の静寂に 溶けていく街の景色」


 アウトロに入ると、急にこの“夜”の終わりが近づくのを感じて、もっと聞きたいと焦りが胸を締めつける。


「残されたのは記憶 そして」


 そこで音が止まり、静寂の中に美月さんの歌声だけが響く。


「また夜が来る」


 ギターが再び響き、最後の盛り上がりを描き出す。短く切り上げられた演奏は、まるで“また来る夜”を予告するような余韻を残した。


 観客は息をのみ、静寂の中で気持ちを整え、そして――歓声が一気に爆ぜた。


「ありがとねー! また会おう! バイバイ!」

 美月さんが元気に手を振りながらステージを後にする。


 残された観客たちは「すごかったね」「ちょっとヤバくない?」と興奮を分かち合っていた。俺も早く感想を伝えたくて、控室へ向かうため出口へ急いだ。


 控室のドアを開けた瞬間、美月さんと環奈がヨネさんを囲むようにして話し込んでいた。


「え? ヨネさん、なんで辞めちゃうの?」

 美月さんの声が聞こえ、思わず足が止まる。その拍子に、後ろから来ていた小松さんが俺の背中にぶつかった。


「おお、小松くん来たか」

 ヨネさんはそう言って、小松さんを手招きする。


「美月、俺の代わりに小松くんを加えてくれないかな?」

 その言葉に、小松さんは目を丸くした。


「わ、私ですか?」

 驚きが声にそのまま乗っている。


「小松くんは俺より才能があるよ。今回のライブで確信した。このバンドはもっと上に行ける。だから、小松くんを連れて行ってほしいんだ」

 ヨネさんの真剣な言葉に、美月さんは腕を組んで「うーん」と唸った。


「小松さんはどうなんですか?」

 環奈が問いかけると、小松さんは再び同じ言葉を繰り返した。


「わ、私ですか?」


「そうだよ! ヨネさんが良くても、本人の気持ちがあるじゃん!」

 美月さんがそう言って、小松さんの目をまっすぐ見る。


「そうですね……『Critical Clinical』の曲は好きです。でも、まだ自分がどうしたいのかよく分からなくて」

 困ったように視線を落とす小松さん。その沈黙を破ったのはリョウさんだった。


「じゃあ、ヘルプで加わってみれば?」

 ヨネさんが驚いたようにリョウさんを見る。


「リョウは、いいのか?」


「何言ってんだよ。ヨネさんの推薦なんだろ? 断る理由がねえよ」

 あっさりと言い切るその姿に、場の空気が少しだけ軽くなる。


「では、お願いします」

 小松さんが深く頭を下げると、


「これからよろしくね!」

 美月さんが柔らかく微笑んだ。その温かい空気に、逆に入りづらくなってしまい、俺はドアの前で固まっていた。すると、背中をポンと叩かれる。


「マコトも、クリクリに入りたいんじゃないか?」

 ヒトシさんの声に思わず振り返る。


 確かに、最近の俺の様子を見ていればそう思われても仕方ない。


 美月さんたちとライブをしてみたい――そんな気持ちが胸の奥にあるのも否定できなかった。


「まだ、それは考えてないです」

 そう答えたのは嘘じゃない。


 今回の『Limit』みたいに、美月さんをもっと驚かせるような曲を作ってみたい。その思いが、確かに自分の中にあったから。


「そうか」

 そう言うとヒトシさんは優しく笑い、俺の頭を軽くポンと叩いた。


 部屋の中にいた美月さんが、俺に気づいた瞬間、ぱっと表情を明るくして飛んできた。


「マコトちゃーん! 見てた? どうだった?」

 期待で目を輝かせながら、息を弾ませて感想を求めてくる。


「とてもカッコよかったです。『よるのまち』なんか、驚いちゃいました」


「でしょ? 変調入れようって言い出したの、カンナなんだよ!」

 その言葉には正直驚いた。練習中はいつだって美月さんを全肯定していた環奈が、そんな提案をするなんて。


「『Critical Clinical』、一つ前に進んだんですね」


「マコトちゃんのおかげだよ。本当にありがとう!」

 満面の笑みを向けられて、心が温かくなるのを感じた。そして、思わず「なら、俺も」と言いかけた気持ちを、ぐっと押しとどめた。


「俺も負けてられないです。今度は美月さんを驚かせる番ですね」


「『Limit』、すっごくカッコよかったよ?」

 美月さんが照れたように言った瞬間、ヒトシさんが鼻を鳴らしながら近づいてきた。


「だろ? 次はもっとカッコいい曲作って見せるぜ?」

 ニカッと笑うと、半ば強引に俺の肩を組んでくる。


「な? マコト」


「そうですね。次はもっとカッコいい曲……美月さんに聞かせたいです」


「あ、アタシに?」

 自分で言っておきながら、反応されると急に恥ずかしくなる。美月さんも、ほんのり頬を染めていた。


「え? お前ら付き合ってんの?」


「え、なんで?」

 ヒトシさんの唐突な質問に、美月さんが真っ赤になって返す。


 奥ではリョウさんと環奈の肩がピクッと動き、ヨネさんとケイタさんは顔を見合わせて吹き出していた。


「つ、付き合ってませんよ。そ、尊敬してますけど」


「ああ、ハイハイ。わかったよ」

 ヒトシさんはにやにやしながら、まるで俺の気持ちを見透かしているような顔をした。


「つ、次の曲ができたら……ライブに誘うので、見に来てください」

 そう言うと、美月さんはふわっと微笑んで「うん」と頷いた。


 今の俺には、この先どうしたいのかなんて、まだはっきり見えていない。


 クリクリに加わって本気で音楽をやっていきたいのか。それとも……ただ、美月さんを応援したいだけなのか。どちらが本音なのか、自分でもよくわからない。


 けれど――「マックス」で出来る最高の音楽を目指したい気持ちは嘘じゃない。


 だからもう少し、自分の気持ちと向き合ってみようと思った。その答えが見つかったとき、きっと俺だって一つくらい前に進めるはずだ。

【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


ヨネ/35歳・ヘルプでキーボード担当

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【マックス】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。



【市田楽器店】

市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】

小松こまつ 里菜りな/ミズハシ楽器・アルバイト

キーボード奏者で、決まったバンドに所属せず活動している。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしており、ヨネさんとは面識がある。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多い。


【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。



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