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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 限界(リミット)の向こう

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お待たせ!『Pink♡Butterfly』です!

 観客側の入り口から足を踏み入れると、照明がすっと落ちた。


 暗闇の中で、観客は息を潜めながら「Critical Clinical」の登場を待っている。空いたスペースを探していると、後から入ってきたヒトシさんが肩を軽く叩いた。


「出来るだけ前で見たいだろ?」

 そう言って笑いながら前へと導いてくれる。一人では少しも前に行けそうになかったから、ただただありがたかった。


「マコト君も手伝ったんだよね。楽しみだね」

 クロさんが隣に並び、声をかけてくれる。その言葉に少し緊張した。


 後ろを振り返ると、松崎さんと小松さんの姿。小松さんはステージに釘づけで、視線を逸らさない。松崎さんは俺の視線に気づくと、にやりと笑ってみせた。


 ――仲間と並んで待つこの時間も、もうすぐ始まる音楽の一部のようだった。


 スポットライトが走り、ステージに「Critical Clinical」のメンバーが姿を現す。


 最初にヨネさんが登場し、ゆっくりとステージ奥へ進む。続いて環奈が入ってくると、二階席から「カンナー!」という声援が飛んだ。――水橋父だな。


 その声をきっかけに、会場のあちこちから声援が広がる。


「カンナー!」


「カンナちゃん、今日も頑張って!」


「頑張って」という声に、環奈は少し恥ずかしそうにお辞儀を返す。


「ケイタくーん!」


「ケイタさまー!」

 ケイタさんが登場すると、黄色い歓声が一斉に飛び交った。その後に続いてリョウさんが現れる。


「リョウさーん!」


「アニキー!」


「リョウくーん!」

 男性の声援が多く響く中、「アニキー!」の声にリョウさんが笑いながらツッコむ。


「誰が兄貴だ!」

 会場に笑いが起こる、胸が高鳴り緊張した空気を少し緩めてくれる。


 楽器隊がそれぞれの位置につき、音を確かめ始める。ざわめく観客は、今か今かと待ちわびていた――彼女の登場を。


 照明が揺れ、次の影が浮かび上がった瞬間――会場が一気に沸き立つ。


「ミツキー!」


「ミツキちゃーん!」


「みっちゃーん!」

 大歓声に包まれて、美月さんがステージへと現れる。……いや、水橋父の声も混じってるな。元気すぎる。


「声援送ってやれよ」

 ヒトシさんが肩を軽くぶつけて、耳元で囁いてくる。声援なんて慣れてない。でも、応援したい気持ちと楽しみな気持ちが背中を押した。


「美月さーん!」

 必死で叫ぶと、美月さんがこちらを振り返り――ウィンク。俺の周りで歓声が上がる。けれど、あれは俺に向けたウィンクだ。そう思いたい。


「ミツキちゃーん!」

 二階からまた大きな声。……水橋父、やっぱり元気だ。美月さんは笑いながら二階席に手を振る。その横で環奈が頭を抱え、深いため息をついていた。その姿を見て、リョウさんが楽しそうに笑っていた。


 会場が少し落ち着いた、その瞬間――ケイタさんがハイハットを三度鳴らす。


 合図と同時に、美月さんの声が響いた。


「はばたけ! ピンクの蝶々 追い風を背に受けて!」


 歌と演奏が重なり、前奏から観客が一気に湧き上がる。


「え? なにこれ、かわいい!」

 驚きの声があちこちから上がり、会場全体が揺れ始める。


「いつも夢に見てる 私のためのステージ」


 美月さんは歌いながら観客に手を振り、笑顔を届ける。


「届くはずがないって 笑う人もいるけど」


 腰に手を当て、人差し指を立ててみせる。


「そんなこと気にしてないよ? 私だけの夢だもん」


 指を振りながら“気にしてない”仕草を見せると、観客はその姿に釘付けになる。


「諦めるなんてありえないよ 音楽が好きすぎて毎日が楽しいんだもん」


 両手でマイクを握りしめる美月さん。ケイタさんのドラムが、バンド全体の音をさらに盛り上げていく。


「はばたけ! ピンクの蝶々 向かい風に打ち勝って!」


 サビに入ると、観客が自然と手拍子を始める。


「はばたけ! ピンクの蝶々 金の空に舞い上がれ」


 美月さんが手を振り上げると、視線はその手に吸い寄せられる。


「今日もバイト行かなきゃ 全ては夢のためだもん」


 溜め息をつく仕草に、観客から笑いと声援が飛ぶ。


「暑い夏の日差しは バイク乗りにはキツイ」


 汗をぬぐう仕草に、最前列から「かわいい!」と歓声が上がる。


「諦めるなんてありえないよ でも正直言うと、時々不安になるよ」


 曲の空気が再び高まり、観客は次のサビを待ち構える。


「はばたけ! ピンクの蝶々 追い風を背に受けて」


 手拍子が大きくなり、会場がひとつになる。


「はばたけ! ピンクの蝶々 虹の橋を越えていけ」


 美月さんが少し下がると、リョウさんがギターを抱えて中央へ。「Pink♡Butterfly」に合わせたギターソロが始まり、その音色に観客は魅了される。


 ソロを終えたリョウさんと入れ替わるように、美月さんが前へ。


「はばたけ! ピンクの蝶々 向かい風に打ち勝って!」


 慣れた観客からコールと手拍子が巻き起こる。


「はばたけ! ピンクの蝶々 金の空に舞い上がれ」


 ケイタさんのシンバルがリズムを刻み、熱気をさらに煽る。


「はばたけ! ピンクの蝶々 追い風を背に受けて!」


「ゴーゴー!」美月さんの声に、観客が一斉に応える。


「はばたけ! ピンクの蝶々 虹の橋を越えていけ」


 最後の音が鳴り響くまで、手拍子は止まらない。そして――演奏が終わると同時に、拍手と喝采が爆発した。


「お待たせ! ――『Pink♡Butterfly』です!」


「いや、ちげーだろ!」

 美月さんが明るく声を張り上げると、すかさずリョウさんがツッコミを入れる。


「待ってたよー!」


「クリクリー!」

 観客席から歓声が飛び交い、会場の空気が一気に熱を帯びる。その瞬間、美月さんがふとこちらを見たような気がした。胸が少しだけ高鳴る。


「『マックス』、カッコよかったよね。『Limit』? あれはやられちゃったな」

 隣でヒトシさんがふふんと得意げに鼻を鳴らす。ほんと、わかりやすい人だ……。


「だから――一曲目から新曲、やってみた!」

 美月さんの宣言に、観客はさらに大きな歓声を上げる。


「かわいかったー!」

 最前列から声が飛ぶと、美月さんは嬉しそうに笑った。


「でしょー? かわいいよね。環奈発なんだよ」

 美月さんの隣で環奈が、顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。


「クリクリも負けてらんないからね!最後まで――大いに盛り上がって行こ?」

 美月さんが振り返り、ケイタさんに合図を送る。


 カウントが始まる。


 そして――音が、音楽となって押し寄せてきた。グルーヴが観客の体を、心を揺さぶる。

その瞬間、俺は改めて思う。


 ――ああ、『Critical Clinical』の音楽が、本当に好きだ。


 盛り上がる会場の中で――俺は、美月さんから目を離せなかった。


 リョウさんのギターも、環奈のベースも。ケイタさんのドラムも、ヨネさんのキーボードも、どれも最高の演奏だ。それでも、俺の視線はただ一人、美月さんに釘付けだった。


 彼女の動き、仕草、そして表情。


 そのすべてが音楽そのもののようで、俺はただ見蕩れるしかなかった。


 時間はあっという間に過ぎていく。――いや、もしかするともっと長い時間だったのかもしれない。


「じゃあ、次が最後の曲ね!」

 美月さんの声に、観客から惜しむ声が上がる。彼女はそれを軽く手で制して、にこりと笑った。


「『マックス』が我慢してくれたから、アンコールしてもいいよ」

 その一言に歓声が爆発する。「おまっ!」とリョウさんが思わず声を上げ、会場は笑いに包まれた。


「次の曲はリョウくん発だからね。ちょい感動しちゃうよ」

 その言葉にまた歓声が重なり、観客の鼓動がさらに速くなる。


「――『美しい月』」

 美月さんが曲名をコールすると、ヨネさんの指がキーボードを叩き始める。そこに他の楽器が重なり、まるで映画音楽のような壮大なイントロが広がっていった。


「贅沢言うと、ストリングスを加えたいくらいだよね」

 ヨネさんが以前口にしていた言葉が、ふと脳裏に蘇る。


「静かな夜に浮かぶ月よ 柔らかな光で道を照らす」


 ヨネさんの静かな伴奏に合わせて歌う美月さん。その姿に、観客たちが一瞬で引き込まれていくのを感じた。


「夢の中へ導いてくれる 君の笑顔がここにあるようで」

 

 曲が少しずつ盛り上がり、会場全体がこれから訪れる感動に備えるように息を呑む。


「美しい月 君に捧げる歌」


 他の楽器が重なり、音は一気に広がる。壮大なサウンドが胸を震わせ、心を揺さぶる。


「星たちも踊る 夜空の下で 願いを込めて 心を開いて」


 周囲から思わず漏れた「え」という短い声が耳に届く。誰もが言葉を失い、ただ音に飲み込まれていた。


「この瞬間を永遠に感じたい」


 二番に入ると、観客は自然に体を揺らし始め、肩を抱き合う姿も見える。


 その向こうで歌う美月さんは、まるで光そのもののように輝き、すべてを照らしていた。


「これは……すごいな」

 ヒトシさんが思わず零した言葉。俺はそれに反応したわけじゃない。

 ただ、口から自然に言葉が漏れた。


「美しい……月だ」

 その瞬間、ヒトシさんがポンと俺の背中を叩いた。


「深い青の海に浮かぶ 君と僕の影が重なる」


 ヨネさんの伴奏に合わせ、美月さんの歌声が静かに流れ込む。


 感動の頂点に達した観客は、両手で口を覆ったり、祈るように両手を合わせたりして、ただひたすら聞き入っていた。


「光と影で描く未来 永遠に続くこのメロディ」


 再び楽器が重なり、音は少しずつ厚みを増していく。リョウさんのレスポールが重厚な響きを放ち、ソロを奏でる。しかし、歓声は上がらない。


 観客はみんな――曲そのものに呑み込まれていた。


 ギターソロの後のサビ――曲の終盤が近いことを誰もが感じていた。


 それでも観客は、まだこの感動の中に留まっていたいと願うように、微動だにしない。


「美しい月よ いつまでも」

 

 アウトロが始まり、音は最高潮へと駆け上がる。


「君を見つめて歌い続ける 夜が明けるまで 夢の中で」


 熱唱する美月さんの顔は、光そのもののように美しく、俺はまた見蕩れてしまう。


「君と共に 時を超えて」


 伸ばされた彼女の手。その先に、スポットライトが集まり、視線が吸い寄せられる。


 そして――曲が終わった。静寂。誰も動かない。息を呑んだまま、ただその余韻に浸っている。観客の心はまだ揺れている。


 その揺れが、次の動きを生み出す予感となって、会場全体を包み込んでいた。

【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


ヨネ/35歳・ヘルプでキーボード担当

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【マックス】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。



【市田楽器店】

市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】

小松こまつ 里菜りな/ミズハシ楽器・アルバイト

キーボード奏者で、決まったバンドに所属せず活動している。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしており、ヨネさんとは面識がある。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多い。


【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。

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