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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 限界(リミット)の向こう

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「Limit」

 ヒトシさんの声に応えるように、誠くんたち「マックス」のメンバーは立ち上がり、控室の出口へと向かっていった。


「頑張ってねー」

ドアの前に立っていた美月さんが、ひらひらと手を振りながら笑う。


 誠くんが近づくと、美月さんはふいに呼び止めた。


「カッコいいところ、見せてね」

 誠くんは力強く「はい!」と答え、彼女とハイタッチを交わす。


 ――その瞬間、二人の目が輝いていた。


 私は、それをただ「仲間同士のいつものやりとり」と思って二人の瞳を見つめていた。抱えたベースの音を確認しながら「マックス」を見送っていた。



 ドアの前で美月さんとハイタッチを交わす。

 美月さんの声が、手の温もりが背中を押してくれた。


 ヒトシさんの後を追い、ステージへと足を踏み入れる。軽く音を鳴らして確認すると、観客のざわめきが一層大きくなる。


「よお、待たせたな!」

 ヒトシさんの声が響いた瞬間、会場が歓声に包まれた。


「今日は最後まで楽しんで帰ってくれよ!」

 力強い言葉に応えるように、クロさんがスティックを高く掲げ――カンッ、と鳴らす。


 三度目の合図に合わせて、演奏が始まった。マックスの音楽が、嵐のように会場を駆け抜けていく。


 演奏が始まった瞬間――「マックス」はただのメンバーじゃなく、一つの音楽になった。


 重なり合う音が胸を突き抜け、熱い時間が幕を開ける。ギターをかき鳴らしながら顔を上げると、観客が音の波に揺られているのが見えた。


 その光景に息を呑む。


 ふと視線をずらすと、松崎さんと目が合う。ベースを弾きながら、彼はうんうんと頷いて見せた。その仕草が「大丈夫だ、行こうぜ」と語りかけてくるようで、胸が熱くなる。


 ヒトシさんの歌声がすべてを包み込み、クロさんのドラムがその土台を支える。そして小松さんのキーボードが、鮮やかな彩りを添えていく。


 ――今、この瞬間。俺たちは確かに、一つの音楽になっていた。


 音の中を駆け抜けるように、時間は進んでいく。


 ヒトシさんのMCが入り、メンバー紹介が始まると――ほんの少し、息継ぎをしたような気分になった。


「ヒトシー!」


「クロさーん!」

 歓声が飛び交う。クロさんは観客からも“クロさん”って呼ばれるんだよな……なんて考えていると――


「マコトくーん!」

 自分の名前が呼ばれたことに、思わず驚いてしまう。


 胸の奥が熱くなる。


 メンバー紹介が終わると、再び音の波が観客を攫っていった。その波の一部になれるように、いや、さらに大きな波になれるように――必死で食らいついていく。


「次で最後の曲だ。クリクリが控えてるからアンコールは無しな」

 ヒトシさんが観客席に笑みを向ける。「えー!」という声が一斉に上がり、彼は両手を広げて制すると、俯いていた顔を上げて言った。


「そのかわりって言っちゃなんだけどよ、次は新曲だ」

 歓声がさらに大きくなる。タイミングを見計らい、ヒトシさんがマイクに口を近づけた。


「――『Limit』」

 タイトルコールに合わせて、俺はギターを鳴らす。


 ひとつ目のフレーズが終わると、他の楽器が次々に重なり、イントロが広がっていく。観客の目が、まるで星のように輝いて見えた。


「限界の壁が高くそびえて 心の奥で叫ぶ声が響く」

 

 ヒトシさんの歌声が会場に飛び込んだ瞬間、観客から「おい!おい!」とコールが湧き上がる。


「夢を追う足取りは重いけど 諦めずに進むんだ」

 

 ヴォーカルが引っ張るように、観客の熱気がさらに膨れ上がっていく。


「そう決めた」

 

 その一言で、盛り上がりは一段階跳ね上がった。


「誰かの言葉が耳元で囁く 『無理だ、無理だ』と繰り返すけど」

  

 ヒトシさんは右手の人差し指で頭をぐりぐりと押しながら、観客を煽る。


「こいつ、うるせぇわ マジほっとけって」

 

 ぐりぐりしていた右手を払うように振り、続けて叫ぶ。


「この道を信じて来てんだ」


 親指を立てた右手を自分の胸に突き立てると、観客の歓声が爆発した。

 

 俺と松崎さんはコーラスを入れるためにマイクへ近づく。ギターだけのフレーズを弾きながら――


「Break past your limits, and you can totally fly.」


 サビに入ると、小松さんのキーボードが音を鮮やかに彩り、バンド全体をさらに盛り上げていく。


「自由な翼 今広げる」


 ヒトシさんが両腕を大きく広げ、観客を包み込むように歌う。


「批判の声も 背中押す風」


  広げた腕をそのままに、首を傾げてみせる。


「勇気を胸に 進もう、共に」


  腕を下ろし、右手で拳を作って胸に当てる。歓声が一斉に響き渡る。


  その歓声を背に、俺はギターを鳴らしながらクロさんを見る。クロさんはにやっと笑い、首を傾げて返してきた。


「時に迷い立ち止まるけど その瞬間も意味があるっしょ」


 ヒトシさんがマイクスタンドからマイクを抜き、観客へと歩み寄る。


「どんなに暗い夜が長くても 明けない夜はないって知ってる」


 片手を広げ、観客を煽るように招き寄せる仕草。


「傷だらけのその手でつかむ未来 失敗をナニソレ? 気にしてられっか」


 右手で拳を作り、力強く振り上げる。


「信じる道を突っ走るしかないわ」


 観客のコールに合わせて拳を突き上げ続ける。


「お前達(まえら)一緒に笑い合おうぜ」


 突き上げた拳に、会場の心がひとつになった。


「Break past your limits, and you can totally fly」


 松崎さんと目で合図を交わし、コーラスを重ねる。


「スタートダッシュで駆け抜ける」


 ヒトシさんが片手を上げ、最前列の観客へと近づいていく。


「ライバルなんて 突き放そうぜ」


 観客と順番にハイタッチを交わしながら進む。


「明日の空に はばたけ、共に」


 ハイタッチしていた手を天井へと突き上げ、空へ叫ぶ。


 演奏が止み、静寂の中に小松さんの伴奏とヒトシさんの歌声が響く。


「時には辛いこともあるけど その全てが力に変わる」


 クロさんのバスドラが心臓の鼓動のように響き、気持ちを逸らせる。


「この先にある最高の景色を いつかお前達(まえら)と」


 他の楽器が加わり、曲は再び盛り上がる。観客はその瞬間を待ちわびている。


「分かち合おうぜ」


 ヒトシさんの声に、観客が絶叫で応える。


「Break past your limits, and you can totally fly」


 コーラスを入れるために顔を上げると、観客の熱気が押し寄せてくる。


「非力な俺と さよならだ」


 ヒトシさんが敬礼すると、最前列の観客もそれに倣う。


「車線変更 追い抜いていこう」


 敬礼していた手を振り下ろす。


「勝利の美酒に 溺れろ、共に」


 屈みながら歌い切り、間髪入れずにコーラスを重ねる。


「Break past your limits, and you can totally fly」


「Yeah!」ヒトシさんがシャウトを放つ。


「自由な翼 今広げる」


 観客席へ向かって腕を振り上げる。


「批判の声も 背中押す風」


 頷く仕草で観客をさらに引き込んでいく。


「勇気を胸に 進もう、共に」


 胸に拳を当てて歌い切り、曲の終わりを告げるシャウト。


 演奏が止み、小松さんの伴奏に乗せて最後のフレーズが響く。


「Go beyond your limits, and you can literally touch the sky」


 歌い切った後、ギターの音で曲が閉じる。音が途絶え、わずかな静寂――そして大歓声が会場を染め上げた。「アンコール!」の声が響くが、ヒトシさんが制する。


「だから、アンコールはないって言ったろ?」

 笑い声と残念がる声が入り混じる。


「でも、次はクリクリだぜ? 楽しみだよな!」

 その言葉に観客はさらに盛り上がった。


「今日はありがとな! また来るぜ――『Roots』!」

 そう言いながら、ヒトシさんは観客に手を振っている。クロさんに続いてステージを降りると他のメンバーもそれに続いた。


 ライブが終わった。ステージを降りると、充実感と少しの寂しさが胸に広がる。


 控室の前で顔を上げると、美月さんが立っていた。


「めっちゃカッコよかったじゃん! アタシらのこともちゃんと見ててよ!」

 そう言ってハイタッチを交わすと、美月さんはステージの入り口へ歩いていく。


 続いてCritical Clinicalのメンバーが姿を見せる。俺は慌ててギターを置き、ステージを見に走った。充実感はまだ残っていた。けれど、ワクワクが胸を満たし、寂しさはどこかへ吹き飛んでいた。


【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


ヨネ/35歳・ヘルプでキーボード担当

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【マックス】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。



【市田楽器店】

市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】

小松こまつ 里菜りな/ミズハシ楽器・アルバイト

キーボード奏者で、決まったバンドに所属せず活動している。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしており、ヨネさんとは面識がある。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多い。


【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。



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