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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 限界(リミット)の向こう

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18/36

本番当日

 昨日は曇りで少し涼しかったのに、今日は晴れて暑い。

 ――これも「五月晴れ」って言うんだろうか。そんなことを考えながら学校へ向かっていた。


「おはようございます」

 駅を出ると、環奈が声をかけてきた。最近はいつも駅前で合流するのが習慣になっている。


「ああ、おはよう」

 俺が挨拶を返すと、環奈は自然に隣へ並んだ。もう、それが当たり前になっていた。


「『よるのまち』、出来たの?」


「出来ましたよ! 土曜日が楽しみですね」

 嬉しそうに笑う環奈。その笑顔を見ているだけで、曲の完成がますます楽しみになった。


「で、どんな風に――」

 問いかけようとした瞬間。


「まことー! と水橋さん!」

 能天気な声が響いた。芝崎だ。


「おはよー! 一緒に行ってもいいかな?」


「いいですよ」

 環奈が即答したので、俺も仕方なく頷く。

 完成した曲について聞きたかったけど……まあ、別にいいか。


「やっぱり二人っきりの方がよかった?」

 芝崎がニヤニヤしながら揶揄ってくる。


「うるさい」

 俺はそう言って歩き出した。


「あ、今日数学あるじゃん! 俺、図形苦手なんだよ」

 肩を落とす芝崎に「俺も苦手だよ」と返す。


「わかりにくいですか? 聞いてくれれば答えますよ」

 環奈が少し緊張したような顔でそう言った。


「え? 本当? さすが進学クラス!」

 芝崎が嬉しそうに声を上げる。


「それは嬉しいけど……いいのか?」

 尋ねると、環奈は嬉しそうに頷いた。


 数学の話や体育の球技の話をしながら歩いているうちに、学校へ到着。昇降口で環奈と別れるとき、彼女がふいに近づいてきて――


「曲の完成については、内緒です」

 そう言って、可愛く笑った。振り返ると、芝崎が驚いた顔で俺を見ていた。


「水橋さんって、あんな顔で笑うんだな……」


 頬を染めてぼんやりしている芝崎の肩に手を置き、「行くぞ」と声をかけた。

 

 そのまま教室に入り、席に着くと――。


「おはよう、須藤君。今日も水橋さんと一緒だったね」

 中谷さんがにこやかに話しかけてきた。


「今日は俺も一緒だったんだ」

 芝崎が嬉しそうに会話へ割り込んでくる。


「え? 三人で登校したの? どんな話したの?」

 興味津々といった様子の中谷さん。


「図形! 教えてくれるって言ってたよ」

 芝崎が得意げに胸を張る。……そんなに自慢することなのか?


「ええ! いいなあ! 私も参加したい!」

 羨ましそうに目を輝かせる中谷さん。……やっぱりそんなに自慢することなのか?


「私も参加していいよね?」

 ぐっと迫るような圧を感じて、思わず口をついてしまった。


「い、いいんじゃないでしょうか……」


 昼休み。

 恥ずかしそうに環奈が教室へ入ってくると、ざわめきが一気に広がった。


「誠くん、次の授業、数学ですよね」

 環奈が声をかけてくる。すると芝崎がすかさず教科書を広げ、俺の机へ寄ってきた。


「ここ、次はここらしいんだけど」


「ああ、ここはですね――」

 環奈が頷きながら説明を始める。


「私も参加します!」

 中谷さんが嬉しそうに声を上げ、環奈の話に耳を傾けた。


「おお、確かにわかりやすい」

 思わず呟くと、環奈はぱっと顔を輝かせる。


「でしょ? 勉強すればできますよ」

 その笑顔に、教室の空気が少し柔らかくなった気がした。


「中間テストは大丈夫だったんですか?」

 環奈の問いかけに、自信がなく思わずぎくりとする。


「全然ダメだったよー」

 芝崎が肩を落として大げさに嘆いてみせた。


「期末の時は、みんなで勉強しない?」

 中谷さんが嬉しそうに提案してくる。


「いや、でも環奈の負担になるだろ?」

 そう言って環奈の様子をうかがうと――。


「いえ、大丈夫ですよ」

 環奈は柔らかく微笑みながら答えた。


 中谷さんと芝崎は、子どものように嬉しそうにはしゃいでいた。その様子を横目に見ながら、環奈へ小さく「ごめんね」と声をかける。


 環奈は一瞬きょとんとした顔をして、首をかしげた。――何を謝られたのかわからない、とでも言いたげな、不思議そうな表情だった。


「まあ、環奈がいいならいいよ」

 そうして期末テストの時は、みんなで勉強することに決まった。放課後に少し集まってやる感じだろうか?


「休みの日にどこか集まって勉強しない?」

 芝崎が提案すると、中谷さんがすぐに賛成の声を上げる。集まるって……どこに? と考えていると。


「じゃあ、私の家でやりますか?」

 環奈が少し照れたように言った。


「え、いいの?」


「水橋さんの家? 行きたい!」

 その一言で、場所はあっさり決まってしまった。


 放課後。四人で並んで下校しながら、いつ集まるかを楽しそうに話し合う。


 夕陽に照らされた道を歩く声は、どこか期待に満ちていた。


「来週の日曜日、友達と勉強することになったよ」

 家に帰って夕ご飯を食べている時、俺は陽葵にそう告げた。


「芝崎さん? それ、勉強になるの?」

 陽葵が不審そうに目を細める。


「いや、芝崎だけじゃないよ」


「へえ、他の人も来るんだね。家でやるの?」

 珍しそうな表情で、陽葵がこちらをじっと見てくる。


「いや、友達の家だよ」


「ほほう、そういう友達ができたんですな」

 ――なんだか親と話しているような気分だ。


「なかなか失礼な奴だな」


「だって、お兄ちゃん、芝崎さん以外とあまり話さなかったじゃん」

 ぐぬぬ……痛いところを突いてくる。


「まあ、そうだけど」


「私は嬉しいんだよ? お兄ちゃんがだんだんまともになって……」

 陽葵はどこか感動しているような様子で言葉を続ける。


「じゃあ今までの俺はまともじゃなかったってこと?」


「え、お兄ちゃんまともだと思ってたの?」

 そう言われると返す言葉もなく黙り込む兄だった。


 そして土曜日――ライブハウス「Roots」本番当日。


「じゃあ、行ってくるよ」

 玄関先で声をかけると、陽葵は悪戯っぽく口元をゆるめて、ひらひらと手を振った。


「デートの人も来るんでしょ? 頑張ってね」

 からかうような笑顔に、胸の奥が少しだけ熱くなる。


 ――会場に着くと、扉の前で松崎さんと合流した。


「おつかれ、早いね」


「少し音出しておきたいと思って」


「いいね」

 軽く笑いながら、松崎さんは俺の肩をぽんっと叩き、そのまま中へ入っていった。


 控室に入ると、環奈とケイタさんがすでに準備を整えていた。


「お疲れ様。今日はよろしくね」

 ケイタさんがいつもの柔らかな笑顔で挨拶をする。


「誠くん、楽しみにしてますね」

 環奈はベースの弦を指先で軽く弾きながら、にっこりと笑った。


ギターを置いて、近くのコンビニへ飲み物を買いに出る。


「お、マコト。早いな」

 店内でおにぎりや飲み物を選んでいたヒトシさんとクロさんが、こちらに気づいて声をかけてきた。


「何飲むんだ?」

 クロさんに尋ねられ、棚から取ったドリンクを見せると――


「奢ってあげるよ」

 にっこり笑って、僕の飲み物をそのままかごに入れてくれた。


 コンビニを出て三人で「Roots」へ戻っていると、背後から声が飛んできた。


「おはようございます」

 振り返ると、小松さんが立っていた。


「ああ、おはよう。マツザーキーはもう来てるだろうし……これでそろった感じだな」

 ヒトシさんがそう言って、四人は並んで歩き始める。


 ――控室のドアを開けると、すでに「Critical Clinical」の面々が揃っていた。


「お、マコトちゃん、おはよー!」

 美月さんが元気いっぱいにこちらへ駆け寄ってくる。


「おはようございます」

 その笑顔につられて、自然と頬が緩んだ。


「ん? こちらはどちら様?」

 美月さんが小松さんに気づいて首をかしげる。


「ああ、こちらは……」

 ヒトシさんが説明しようとしたところで――


「あれ? 小松さん?」

 環奈が声を上げた。


「あっ! 環奈さん。おはようございます!」

 小松さんは慌てて深々と頭を下げる。


「知り合い?」

 美月さんが不思議そうに尋ねると、環奈は笑みを浮かべて答えた。


「うちのお店で働いてるんです。ヨネさんの弟子ですよ」


「小松くん、おはよう」

 ちょうどトイレから戻ってきたヨネさんが声をかける。


「米山マネージャー! おはようございます!」

 緊張した面持ちで小松さんが再び深々と頭を下げると――


「おいおい、ここではヨネさんなんだからさ」

 ヨネさんは柔らかく微笑んだ。


 それからしばらく、控室は和やかな談笑に包まれていた。


「小松さんはヘルプ?」

 美月さんが問いかけると、小松さんは少し緊張した面持ちで「はい」と頷いた。


「『マックス』には入んないの?」


「そうですね……まだ、この先どうするかも決められなくて」


「なるほどねー」

 美月さんと小松さんのやり取りを、環奈が隣でうんうんと頷きながら聞いている。


 奥ではクロさん、松崎さん、そしてケイタさんの三人が何やら話し込んでいた。ドラムのことか、音楽のことだろう――内容までは掴めない。ただ、ケイタさんが指先でスティックをくるくる回し続けているのが妙に目を引いた。


 一方、ヒトシさんとリョウさんは「Roots」のスタッフと打ち合わせに出ている。僕はギターを軽く触りながら、周囲の会話に耳を傾けていた。


「では、『マックス』の皆さん、リハ入ってください」

 スタッフが控室に顔を出す。ヒトシさんとリョウさんも戻ってきて、ヒトシさんが笑顔で「行くぞ」と声をかけた。


 ――ステージに立つと、マイクの調子や返しのチェックが始まる。音の響きを確かめながら、二曲ほど通しで演奏した。


 リハーサルを終えて控室へ戻る途中、入れ替わりで「Critical Clinical」がステージへ向かっていく。


「後でね」

 美月さんが笑顔で手を振りながら通り過ぎていく。その姿を見送りつつ、控室へ戻った。


 やがて、壁越しに彼らの音が響き始める。耳を澄ませていると、ヒトシさんが肩を組んできた。


「今日も思いっきりやって、クリクリを驚かせようぜ」

 そう言って笑う彼の声がやる気を掻き立てた。


リハーサルが終わり、しばらくすると会場がオープンした。


 次々と人が押し寄せ、ライブハウスの空気は一気に熱を帯びていく。


 控室の出口から覗いたフロアは、まだ照明が落ちていないにもかかわらず、ざわめきと期待で満ちていた。ドリンク片手に談笑する者、ステージを見上げてそわそわと立ち位置を探す者――その一人ひとりの鼓動が、伝わってくるようだった。


「げ、社長……」

 ヨネさんが低くつぶやいた。視線の先、二階の特別席には水橋父の姿。


「あんなところに席ありましたっけ?」

 思わず問いかけると、ヨネさんは肩を落としてため息をつく。


「いや、毎回あそこに席を作ってもらうんだよ……」

 苦笑交じりの声に、こちらも「ハハ……迷惑ですね」と心の中で呟いた。


「お、戸田さん。また来てんな」

 背後からリョウさんが覗き込みながら言う。


「戸田さん?」

 首をかしげると、リョウさんは視線を逸らしながら短く答えた。


「……バイト先の人」

 その一言だけを残し、リョウさんは黙り込む。


 時間になると、控室のドアがコンコンと叩かれた。


「『マックス』のみなさん、お願いします」

 スタッフの声が響いた瞬間、空気が一気に張り詰める。


「おおっ!」

 ヒトシさんが勢いよく声を上げ、立ち上がった。


 その背中に自然と視線が吸い寄せられる。僕らは互いに顔を見合わせ、無言のまま頷き合った。――そして、ヒトシさんの後に続いてステージへと歩み出す。


 控室のドアから出ると観客のざわめきと熱気が、直接こちらに向けられる。

 胸が高鳴り、ステージへ向かう足取りは自然と速くなった。

 いよいよ本番が始まる――。


【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


ヨネ/35歳・ヘルプでキーボード担当

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【マックス】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。



【市田楽器店】

市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】

小松こまつ 里菜りな/ミズハシ楽器・アルバイト

キーボード奏者で、決まったバンドに所属せず活動している。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしており、ヨネさんとは面識がある。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多い。


【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。



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