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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 限界(リミット)の向こう

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美月に聞かせたいもんな

「『She is…』みたいに、ムードのある曲にしたいんだ」

 ケイタさんがそう言った。


 俺は「She is…」を知らない。けれど“ムードのある曲”という言葉だけが頭の中でぐるぐる回っていた。どういう雰囲気なんだろう、と。


「じゃあ、入りのフレーズはこんなのどうだ?」

 リョウさんがギターを鳴らす。 


 トリルで始まる、確かにムードを感じさせる響きだった。


「いいですね。でも、もう少し……」

 ケイタさんとリョウさんが首をひねりながら音を探している。


 その横で、美月さんが難しい顔をして、もごもごと何かを呟いていた。


「なんだ? メロディできたのか?」

 リョウさんが問いかけると、美月さんは「うーん、何となく?」と曖昧に答える。

 そして少し間を置いてから、ぽつりと。


「でも、そのギターには合わないかも……」


「まあ、歌ってみろよ」

 リョウさんの言葉に、場の空気が一瞬張り詰める。みんなの視線を受けながら、美月さんは小さく息を吸い込んだ。


 そして――歌い始める。


「静かに幕開く 夜の帳が下りて」


「街の光に染まる 孤独な影ひとつ」


 その声に、リョウさんが真剣な表情でギターを合わせはじめる。

 

 ケイタさんは体でリズムを刻みながら、その音をじっと聴いていた。


 環奈も、自然にベースを鳴らし始める。


 音が重なり、場の空気が変わっていく。ああ――これぞ、クリクリの作曲風景だ。

俺はその瞬間を、ただ見つめていた。


「環奈、そのフレーズいいね」

 思わず口を出してしまった。ベースの低音が心地よく響いていたからだ。


「まだ、少しずつ音を出してる感じですけど……」

 環奈はそう言いながら、指先で弦を軽く弾く。ベースの音がまたひとつ、スタジオに響く。


「ケイタさん、今美月さんが歌った部分って、イントロに当たりますよね?」

 俺が問いかけると、ケイタさんは頷いた。


「そうだね。曲の構成的にはそうなるかな」

 その答えを聞いて、俺は少し考え込む。環奈のベースの響き、美月さんの歌声、リョウさんのギター……全体のムードは、まるで夜の街を歩いているようだった。


「歌詞を最後まで読み通してみませんか?」

 そう提案すると、美月さんがノートを広げて、読み始める。


「ネオンきらめく路地裏 足音響くアスファルト」


「秘密を抱えた街 誰かを待ってる気がした」


「夜の魅惑に囚われて 彷徨う魂はどこへ行く」


「答え探す街明かり 消えない想いを抱きしめて」

 その声に、全員が耳を傾ける。自然と曲の構成を思い描きながら。


「あ、これ……」

 気づいたことを話そうとすると、ケイタさんが先に口を開く。


「『夜の魅惑に囚われて』からがサビのつもりだよ」

 ニコニコと笑いながらも、その声には真剣さが宿っていた。なるほど……そういう構成になるのか。


「イントロ、Aメロ、サビの繰り返しですね」

 俺が言うと、ケイタさんが頷く。


「そうだね。最後はアウトロになるかな」

 イントロで美月さんが歌ったメロディを起点に、それぞれが曲全体の姿を思い描き始めていた。


「街の光に――」

 ケイタさんのドラムが鳴り響き、イントロが一気に盛り上がっていく。


「孤独な影」のところで、楽器の音がふっと止まる。「一つ」と歌う美月さんの声だけが、スタジオの空気を震わせた。


 目を閉じてタイミングを計っていたリョウさんが、トリルから入るムードたっぷりのギターを差し込む。


「ネオンきらめく路地裏」

 美月さんが次の音を探すように歌い始める。――なるほど、そうきたか。


「足音響くアスファルト」

 その声に続くように、環奈がベースの音を流し込む。


「秘密を抱えた街」

 ケイタさんがリズムを刻み始める。


「誰かを待ってる気がした」

 リョウさんがダウンストロークで曲を盛り上げながら加わる。


「夜の魅惑に囚われて 彷徨う魂はどこへ行く」

 サビに入った瞬間、胸を締め付けるようなメロディが広がった。


「答え探す街明かり 消えない想いを抱きしめて」

 その歌声に、俺の脳裏には夜の風景が次々と浮かんでくる。


 コンビニからの帰り道、ライブの後の余韻。


 環奈の家から歩いた駅。駅に残る温かさと、ほんの少しの寂しさ。

 

 ――まだまだ知らない夜の風景があるんだろう。ケイタさんの歌詞からは、俺の知らない夜の匂いが確かに漂っていた。


「よし、曲にしていくぞ」

 リョウさんの声が響くと、空気が一気に引き締まった。譜面に音を起こし、録音機材を準備し始める。


 ケイタさんは美月さんの質問に答えながら、リズムを差し込んでいく。譜面に書き起こした部分を合わせて演奏し、録音してはまた次へ――その繰り返しで、曲が少しずつ形を帯びていく。


 Critical Clinicalの集中力に押されながらも、俺も少しずつ意見を出していった。


「よし、今日はここまでだな。明日もこの曲をやって、完成させよう」

 リョウさんがそう言うと、美月さんがふと問いかける。


「この曲、何ていう名前?」

 ケイタさんはニコニコしながらノートを指さした。歌詞が書かれたページには、タイトルとして「夜の魅惑」と記されている。


 美月さんは少し難しい顔をすると、ペンを取り、そのタイトルに斜線を引いた。そして隣に、さらりと「よるのまち」と書き込む。


「よるのまち、ですか?」

 ケイタさんが首をかしげると、美月さんはうんうんと頷いた。


「このくらいの方が分かりやすくていいよ」

 そう言って、彼女はニッコリと笑った。


 その笑顔に、スタジオの空気がふっと柔らかくなる。曲の名前が決まった瞬間、みんなの中で同じイメージが共有されたように感じた。


「明日は、『マックス』の音合わせがあるので、不参加になります」

 俺がそう告げると、美月さんは少し残念そうな声で「仕方ないよね」と答えた。


「明日、もっといい曲にしてやるよ」

 リョウさんが笑いながらそう言う。その笑顔の奥に、確かな自信が見えた。


 帰りの電車の中――。


 リョウさんのギターの音が頭の中で鳴り続けていた。スタジオで聴いたあの響きが、まだ耳から離れない。


「やっぱり、すごいバンドだ」

 窓の外の夜景を見つめながら、思わず呟いた。


 翌日。マックスの練習に参加するため、スタジオへ向かう。


 到着すると、クロさんがすでに来ていて、機材の準備を始めていた。


「おは……よう。髪、切ったな」

 そう言いながら近づいてくるクロさん。俺が頷くと、彼は笑って言った。


「うん、いいね。じゃあ、準備手伝ってくれるか?」

 準備を終えた後、喫煙室でクロさんと話していると、松崎さんが入ってきた。俺の頭を見るなり、にやりと笑って親指をグッと立てて見せる。


 その後ろから「おはようございます」と声がして、小松さんが顔をのぞかせた。タバコは苦手なのか、すぐにスタジオへ戻っていった。


 時間になり、スタジオへ戻るとヒトシさんが姿を見せる。


「お、マコト。髪の毛さっぱりしたな」

 そう言って、ニカっと笑った。その笑顔に、スタジオの空気が一気に明るくなる。仲間たちと音を合わせる時間が、また始まろうとしていた。


「じゃあ、『Limit』やろうか。今日仕上げちゃわないとね」

 クロさんの声が響く。彼はみんなの準備を確認すると、スティックを三度打ち合わせた。

その合図で、俺はギターを鳴らしてイントロを奏ではじめる。

 

 演奏を終えると録音を聞き返し、細部を確認していく。


「小松さん、ここにもキーボード入れてみてください」

 俺がそう提案すると、小松さんは頷き、該当箇所を演奏する。キーボード有りと無しを聴き比べると――。


「ああ、確かにあった方がいいね」

 クロさんがそう言って譜面に書き込み、小松さんも自分のパートに音を加えていく。


 再び通して演奏し、録音を聴き返す。意見が出たところを練り直し、曲は少しずつ完成へと近づいていった。


「今日は特に熱心じゃないか?」

 ヒトシさんが笑顔でそう言う。


「『Limit』はいい曲なので、しっかり仕上げたいんです」

 俺が答えると、ヒトシさんは何かを見透かしたような顔をして――。


「美月に聞かせたいもんな?」

 そう言って笑った。


「まあ、クリクリに負けてられないですから……」

 俺が誤魔化すように返すと、ヒトシさんは笑いながら俺の背中を軽く叩いた。


「ヒトシ、青少年を……」


「いじめてねえよ?」

 クロさんとヒトシさんのいつものやり取りに、俺は思わず吹き出してしまった。


 スタジオの空気は真剣さと楽しさが入り混じり、音楽が生まれる瞬間の熱気に包まれていた。


 何時間も演奏を繰り返し、そして最後のギターが鳴り響いた瞬間――「Limit」は完成した。


「よし、次の『Roots』に向けて、当日やる曲を通しでやってみよう」

 クロさんの声を合図に、通し練習が始まる。


 全員で一気に駆け抜けるように演奏し、最後まで通したところで、その日の練習は終了となった。


「ラーメンでも食べに行くか?」

 ヒトシさんが笑いながらそう言うと、クロさんと松崎さんが頷く。


 小松さんも「行きます!」と嬉しそうな顔を見せる。――なるほど、ラーメン好きなんだな。


 俺は陽葵が待っていることを思い出し、「今日は帰ります」と告げて、みんなと別れた。


 家までの帰り道。

 胸の奥で次のライブへの期待が膨らんでいく。

 ――楽しみで仕方がなかった。


「お帰り、お兄ちゃん。今日も楽しかったんだね」

 陽葵が嬉しそうに笑いながらそう言った。


「ああ……次のライブがこんなに楽しみなのは、初めてかもしれない」

 俺がそう答えると、陽葵は「じゃあ、お風呂入ってきてよ」と言って、夕飯の支度へと戻っていった。


 浴室へ向かう前、ふと鏡に映る自分の顔を見つめる。

 ――いつの間にか、こんな表情ができるようになったんだな。

 そう思った瞬間、美月さんの笑顔が頭の中に浮かんだ。

【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

美月や環奈との出会いでコンプレックスが少しずつ解け始めて、鬱陶しい前髪も切った。

日常も少し騒がしくなってきたが、変わらず音楽への熱い想いがある。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


ヨネ/35歳・ヘルプでキーボード担当

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【マックス】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。



【市田楽器店】

市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。


【ミズハシ楽器】

小松こまつ 里菜りな/ミズハシ楽器・アルバイト

キーボード奏者で、決まったバンドに所属せず活動している。

普段はミズハシ楽器でアルバイトしており、ヨネさんとは面識がある。

落ち着いた雰囲気を持ちながらも、音楽に対しては柔軟で積極的。サポートメンバーとして呼ばれることも多い。


【陽葵の同級生】

加地かじ あかり/陽葵の同級生

陽葵の同級生で親友。大人っぽい外見をしている。



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