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it'sLife rock'n'roll  作者: 魔法使いの弟子スオウ
第二章 限界(リミット)の向こう

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マコトちゃんはアドバイザーだからね!

「ピンクの蝶々って、美月さんがモデルなんだよね?」

 俺がそう尋ねると、環奈は少し頬を染めて、こくんと小さく頷いた。


「これってさ……環奈の視点で、美月さんを見てる歌なのかな?」


「視点……?」

 リョウさんが不思議そうに首を傾げる。


「はい。サビの“ピンクの蝶々 はばたいていけ”ってところ、あれが“羽ばたいてほしい”っていう願いに聞こえたから」

 俺の言葉に、環奈は一瞬だけ目を伏せてから、そっと呟いた。


「……そうかもしれません」

 まるで、自分の中の何かを確かめるように。


「詞の内容は、環奈らしい可愛らしさが出ていて……とてもいいと思うよ」

 俺がそう言うと、環奈はぱっと顔を赤く染めた。


「か、可愛らしい……」

 小さく呟いたその声は、まるで湯気のように消えていきそうだった。


「うん。でもね、“はばたいていけ”って願う気持ちは、環奈にしか分からないかもしれない」

 俺の言葉に、環奈は少しだけ眉を寄せた。


「でも、それが……私の気持ちだから……」

 困ったように視線を落とす彼女を見て、俺は安心させるように微笑んだ。


「気持ちを歌詞にするのは、正解だと思うよ。伝えたいことがはっきりするから」

 そのとき、ケイタさんが穏やかな笑みを浮かべて口を開いた。


「では、マコト君はどうすれば良いと考えてるんだい?」

 俺は一呼吸おいて、はっきりと言った。


「この歌詞の視点を……美月さんに変えるんです」


「えっ、アタシ?」

 美月さんが目を丸くして驚く。けれど、俺は続けた。


「美月さんの視点で、この曲を聴いている人……特に夢を追っている女の子たちを応援するような、そんな歌にできたらって」


「でも、それってカンナの歌詞だよ?」

 戸惑いをにじませる美月さんに、環奈がそっと口を開いた。


「いえ……それ、やってみたいです」

 その声は小さかったけれど、確かな意志が宿っていた。


「では、最初からやっていきましょうか」

 俺がそう言うと、みんなの目がノートに移る。


「いつも夢に見てる 私のためのステージ」

 俺が読み上げると、美月さんが「うんうん」と頷いた。まるで、その言葉に自分の気持ちを重ねるように。


「届くはずがないって 笑う人もいるけど」


「ここ、好きだなぁ。続く“そんなこと気にしてられない”ってとこが、すごくカンナっぽい」

 美月さんがそう言って微笑む。


「じゃあ……美月さんなら、どう答えます?」

 俺がそう尋ねると、美月さんはいたずらっぽく笑って、


「アタシなら、“そんなこと気にしてないよ?”って、ちょっと煽っちゃうかも」


「なるほど。じゃあ歌詞は“そんなこと気にしてないよ? 自分が決めた夢だから”……とか?」


「ううん、アタシなら“アタシだけの夢だもん”って言っちゃうかな。特別じゃん? 自分の夢って」


「……なるほど」

 俺は頷きながら、ノートにその言葉を書き写していく。


「じゃあ、次の質問。諦めることを考えたこと、ありますか?」


「諦めるなんて、ありえないよ! 音楽が好きすぎて、毎日が楽しいんだもん!」

 眩しいくらいの笑顔でそう言い切る美月さん。その言葉に、隣の環奈の表情がふわっと明るくなった。


「じゃあ、ここまでの歌詞をまとめると……」

 俺がペンを走らせながら、もう一度口にする。


 美月さんの瞳には、確かな光が宿っていた。


 諦めるなんて、ありえない。


 音楽が好きすぎて、毎日が楽しくて仕方ない――そんな彼女の情熱が、言葉の端々から溢れていた。


 俺は手元のノートを見ながら、歌詞を読み上げる。

「いつも夢に見てる 私だけのステージ」

「届くはずがないよって 笑う人もいるけど」

「そんなこと気にしてないよ? アタシだけの夢だもん」

「諦めるなんてありえないよ 音楽が好きすぎて毎日が楽しいんだもん」

 読み終えた瞬間、美月さんの顔がぱっと輝いた。


「サビは? サビはどうなる感じ?」

 俺は少し考えてから、視線を彼女に向ける。


「“はばたけ! ピンクの蝶々”っていう出だしはどうですか?」

 期待に満ちた瞳が、俺を見つめている。その視線に応えるように、俺は続けた。


「はばたけ ピンクの蝶々 向かい風に打ち勝って」


「いいね、力強くなった! 元気が出そう」

 美月さんが笑顔でそう言った。


「じゃあ、このフレーズ繰り返しましょうか」


「はばたけ ピンクの蝶々 金の空に舞い上がれ」

 ふと、環奈に目を向けると、彼女は潤んだ瞳でこちらを見ていた。何かを感じ取ったのか、美月さんは少しだけ考えてから、静かに口を開いた。


「はばたけ! ピンクの蝶々――」


 美月さんが歌い出した瞬間、環奈の瞳がぱっと輝いた。その横で、リョウさんが静かにギターを鳴らし始める。コードの響きが、まるで美月さんの声を優しく包み込むようだった。


「――あの、2番の歌詞って、どうなるんですか?」

 環奈がこちらを見上げる。期待に満ちたその目に、思わず背筋が伸びる。


「そうだね……美月さんの日常っぽい歌詞が合いそうだな」

 そう言うと、美月さんは少しだけ目を閉じて、息を吸い込んだ。そして、即興とは思えないほど自然に、歌い始める。


「今日もバイト行かなきゃ 全ては夢のためだもん」


「暑い夏の日差しは バイク乗りにはキツイ」


 ――あ、美月さんってバイク乗るんだ。

 

 そんなことを思っていると、ヨネさんがぽつりと呟いた。


「いいね」

 その一言に背中を押されるように、美月さんはさらに声を乗せる。


「諦めるなんてありえないよ でも正直言うと時々不安になるよ」

 リョウさんのギターが、彼女の歌に寄り添うように鳴り響く。その音に導かれるように、美月さんの声はどこまでも真っ直ぐだった。


「……美月さん、すごい」

 環奈の小さなつぶやきが、静かに空気を震わせた。


「歌詞はこれで行こうよ」

 ヨネさんの一言に、誰も異を唱えなかった。

 その場にいた全員が、すでに同じ方向を向いていた。


「サビの部分は……こんな感じか?」

 リョウさんがギターを鳴らしながら、全体の流れを探るように音を重ねていく。


「いいね、アタシこれ好きだよ」

 美月さんが笑顔でそう言うと、環奈がベースを構え、そっと音を合わせ始めた。ギターとベースが絡み合い、音の輪郭が浮かび上がってくる。

 

 そこにケイタさんのドラムが加わると、バンド全体が一つの生き物のように動き出した。


 少しずつ、曲の全体像が見えてくる。


 その流れの中で、ヨネさんが俺の方を見て、にやりと笑った。


「これは俺、いらないね」

 冗談めかして言ったその言葉に、思わず笑ってしまう。


 一度、通しで演奏してみる。


 まだ粗削りだけど、確かに“何か”がそこにある。


 リョウさんがイントロのフレーズを弾きながら、曲の入りを整えていく。すると、ケイタさんがふと手を止めて言った。


「これ、サビから入るのどうかな? すごくキャッチーなフレーズだし」


「ああ、いいかもな」

 リョウさんがすぐに反応し、ギターの準備を整える。ケイタさんがスティックを軽く鳴らして、合図を送った。


 ――その瞬間。


「はばたけ! ピンクの蝶々」

 美月さんの歌声が空気を切り裂くように響き、バンドの音が一斉に広がった。音と声が絡み合い、グルーヴが生まれていく。


 俺の心は、踊っていた。


 また、すごい瞬間に立ち会えた――その喜びで、胸がいっぱいだった。


 その後も、細かい部分を何度も調整しながら、曲は少しずつ完成へと近づいていった。


 譜面を起こし、録音を重ね、確認してはまた修正する。誰ひとり「これでいいか」とは言わない。


 このバンドの集中力は、まるで一つの生き物のように研ぎ澄まされていた。


 真剣な表情で音を重ねるメンバーたちの中で、ただ一人――美月さんだけが、太陽のような笑顔で歌い続けていた。


「……あの人の体力、どうなってるんだろう」

 思わず漏れた俺のつぶやきに、隣にいたヨネさんが笑いながら答える。


「美月ちゃんはすごいヴォーカルだよ。このバンドは、もっと上に行ける」

 その言葉を裏付けるように、完成に近づいた楽曲がスタジオいっぱいに響いていた。


 音が、声が、空気を震わせるたびに、何かが確かに形になっていく。――俺は、今この瞬間に立ち会えている。


 その喜びと、あの音の輪の中に自分がいないという寂しさ。相反する感情が、胸の奥で静かに揺れていた。


 音合わせが終わり、スタジオの扉を開けて外に出ると、環奈が小走りで俺の方にやってきた。


「誠くん、本当にありがとう」

 唐突な言葉に、思わずきょとんとしてしまう。


 何かしたっけ――と首をかしげていると、環奈は少し照れたように笑って言った。


「私の歌詞が、美月さんの歌になるなんて……夢みたい」

 その顔は、まるで子どものように無邪気で、心から嬉しそうだった。こんなに喜んでもらえるなんて思っていなかった俺は、少し面食らってしまう。


 すると、すぐ横から声が飛んできた。


「でしょ? マコトちゃんはアドバイザーだからね!」

 なぜか美月さんが、誇らしげに胸を張って環奈に言う。いや、俺は別にそんな大したことは――と否定しかけたけれど、その空気がなんだか心地よくて、言葉を飲み込んだ。


 ヨネさんは仕事の都合で一足先にスタジオを後にし、残ったクリクリのメンバーたちと俺は、駅までの道をゆっくり歩いた。


 話題は自然と、さっきの曲のことになる。


 あのフレーズが良かったとか、次はこうしてみようとか――音楽の話をしていると、時間があっという間に過ぎていく。


 駅に着くと、美月さんがくるりと振り返った。


「じゃあ、次の音合わせ決まったら連絡するね。次はケイタだからね!」


「よろしくお願いします」

 ケイタさんが笑顔で応えると、美月さんが手をひらひらと振って言った。


「じゃあ、解散!」


「おつかれー」

 リョウさんがそう言って歩き出すと、それぞれが自分の乗る電車へと向かっていく。


 夜の駅前に、心地よい余韻だけが残っていた。







【須藤家】


須藤すどう まこと/17歳・都立星雲高校2年生

マックスでのメンバー登録表名はマコト。

アマチュアバンド「マックス」のヘルプギタリストとして、ライブハウス「Roots」に出演中。

人前では髪を下ろして顔を隠すほどのコンプレックス持ちだが、ギターを握ると別人のように冴える。

静かな日常と熱いステージ、そのギャップが彼の魅力。


須藤すどう 陽葵ひなた/15歳・中学3年生

誠の妹で、しっかり者の家庭担当。共働きの両親に代わって家事をこなすスーパー中学生。

兄の通う星雲高校を目指して受験勉強中。兄にはちょっぴり甘えたいけど、素直になれない年頃。



Criticalクリティカル Cliticalクリニカル 通称:クリクリ】


有栖川ありすがわ 美月みつき/18歳・ヴォーカル担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はミツキ。

ピンクのツインテールにオフショルダーの服がトレードマーク。派手に見えるが、整った顔立ちと圧倒的な存在感で観客を魅了する。

マコトを気に入っていて、何かと“お姉さんぶり”たがるが、時々天然。ステージでは圧倒的カリスマ、オフでは賑やか担当。


宮田みやた りょう/22歳・ギター担当

Critical Cliticalのメンバー表登録名はリョウ。

レスポールを愛用するギタリスト。音とテクニックで観客の心を掴む、クリクリの音楽的屋台骨。

口が悪くて天邪鬼なところがあるが、音楽に対する情熱は誰よりも熱い。ステージでは言葉よりギターが語る。


ケイタ/20歳・ドラム担当

黒髪の長髪にアルカイックスマイルが印象的な、落ち着きのある青年。

正確無比なリズムでバンドを支える縁の下の力持ち。物静かだが、時折鋭い一言で場を動かすタイプ。


水橋みずはし 環奈かんな/17歳・ベース担当/都立星雲高校2年生

Critical Cliticalのメンバー表登録名はカンナ。

年齢に似合わぬベーステクニックで“天才少女”と呼ばれる実力派。

高校では物静かで目立たないが、黒髪ロングの美人で、周囲からは羨望の眼差しを受けている。

マコトとは同級生で、淡々とした言動の中に時折見せる優しさが印象的。


ヨネ/35歳・ヘルプでキーボード担当

ミズハシ楽器の社員で、店内では“そこそこ偉い人”として知られる存在。

スーツ姿じゃなくても漂う落ち着きと余裕――その佇まいは、まさに“大人の男”。

クリクリの音に心を動かされ、自ら「手伝わせてほしい」と申し出た。

年齢も立場も違うのに、スタジオでは誰よりも柔らかく、誰よりも鋭く音を見つめる。

時に冗談を交えながらも、音楽に対する姿勢は本物。

「拗ねるとちょっと面倒」と噂されるが、それも含めて愛されている存在。



【マックス】


ヒトシ/ヴォーカル担当

マコトをバンドに誘った張本人で、明るくポジティブな兄貴分。

ライブでは観客を巻き込むパワー型フロントマン。マコトにとっては頼れる先輩であり、良き理解者。


クロ/ドラム担当

ヒトシの相棒で、落ち着いた雰囲気の大人っぽいドラマー。

言葉少なめだが、演奏ではしっかりとバンドを支える。マコトのことも静かに見守っている。


松崎(まつざき)/ベース担当

寡黙で無口なベーシスト。だが、マコトのことをよく気にかけてくれる優しい一面も。

演奏中の安定感は抜群で、マックスの土台を支える存在。



【都立星雲高校】


芝崎しばざき/誠と同じクラス

顔良し、友達多し、ノリも軽い。高校生活を全力で楽しむタイプ。

なぜか誠に絡んでくることが多く、軽薄な口調ながらも憎めない存在。


中谷なかたに/誠と同じクラス・隣の席

素朴で可愛らしい雰囲気が魅力の女の子。男子から密かに人気があるが、本人はあまり気づいていない。

誠とは隣の席で、時折交わす会話がじんわりと心に残る。



【市田楽器店】

市田いちだ/市田楽器店の店長

穏やかな笑顔と落ち着いた声がトレードマークの、街の楽器店の店長さん。

誰にでも優しく、従業員や常連からの信頼も厚い。

リョウのバンド活動を陰ながら応援してくれており、時にはアドバイスをくれることも。


戸田とだ/市田楽器店・アルバイト

高校時代から市田楽器店で働いている、元気で世話焼きな女性スタッフ。

リョウとは同い年ながら、バイト歴ではちょっぴり先輩。

Critical Clinicalの大ファンで、ライブにはほぼ毎回顔を出している。

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