五円玉の別れ
神社の賽銭箱に五円玉を投げ入れようとしたとき、ふと手の中の硬貨に違和感を覚えた。
縁の穴のそばに、小さく文字が刻まれている。
「さよなら」
なんとなく投げ入れる気になれず、そのまま持ち帰った夜——夢を見た。
夢の中で、小さな男の子が「もういいんだ」と笑っていた。
目が覚めると、机の上に置いたはずの五円玉が消えており、代わりに百円玉が一枚置かれていた。
裏には、あの有名な刻印。
「ぼくをさがして」
この瞬間、理解した。
“さよなら”は終わりではなく、始まりなのだと。
五円玉は別れを告げ、次の旅人に使命を渡したのだ。