貴族同士の政略結婚に、なぜ愛が必要なのですか?
「君を愛することはない。
俺にはヤイカという恋人がいる。
君とは仮面夫婦だ。わかったな?」
「貴族同士の政略結婚に、なぜ愛が必要なのですか?」
「え?」
「『貴族同士の政略結婚に、なぜ愛が必要なのですか?』 と申し上げたのです!!」
「そんな大声で言わなくても聞こえている」
「あ、そうでしたか。
旦那様は17も上なので、てっきりお耳が遠いのかと……。失礼いたしました」
「初夜にまさかオジサン扱いされるなんて思っていなかったよ」
「オジサン扱いと言いますか、あと18年経てば旦那様は天に召されますよね( 平均寿命50歳)
私はその頃まだ33なので再婚もできますし初産でなければ出産も可能です。
慈善事業活動なり第2の人生が歩めます。
旦那様と私は、全く違う生き物という風に考えております。
そもそも初夜にわざわざ愛人宣言する非常識な人がオジサンだって事実の指摘されたから何だと言うのですか?」
「……」
「すみません。ご用件が済んだなら、そろそろ休んでもよろしいでしょうか?
朝から忙しかったのに加え、まだ成長期なので眠くて仕方ないのです。この3ヶ月でも身長が2cm 伸びました。
旦那様はもう成長しないでしょうから、いくらでも夜更かしなさってください。
シワは増えるかもしれませんが、同世代の女性からすればハンサムに見えると思います。暗い場所ならシミも目立たず美しく見えるそうです。
では、おやすみなさい」
◇
「君は18になった」
「自分の年齢ぐらい知ってますよ。旦那様と違って痴呆まで、まだ猶予ありますから」
「いや、その、だから、つまり…… そろそろ世継ぎを作らねばならないと思う。
君の成長期も終わっただろう?」
「ああ、それですね! わかりました!」
「そうか! では今夜、夫婦の寝室に行ってもいいだろうか?」
「えっ! 夫婦の寝室に愛人を入れるのは、ちょっと非常識すぎます」
「いや、そうではない。子作りするのは君とだ」
「は? 冗談でしょ?
なんで、そんな気持ち悪いこと言うんですか? 勘弁してくださいよ。
愛人と作ればいいじゃないですか。子供は私の養子に入れてあげます」
「あーその……愛人とは別れた」
「だったら新しい愛人を作ればいいでしょう。
なんで私が阿婆擦れ盗人の後釜なんですか? 気持ち悪い」
「いや、そうじゃなくて……君との子が欲しいんだ」
「は? 理由は?」
「使用人が皆、君を気に入っていて楽しそうに働いている。館が前よりも明るくなった。調度品の趣味もいいし、料理も美味しくなった。それなのに予算は削減されている」
「それで?」
「君を好ましいと思ってる」
「恋愛対象として?」
「ああ」
「『メリット多いから今後も利用したい』の間違いだと思いますけど、恋愛感情が本当ならロリコンじゃないですか。
申し訳ないですけど私は父親と3歳しか違わない男性を、そんな目で見れないです」
「しかし年の差がある夫婦はごまんといる。
君が言ったのではないか『貴族同士の政略結婚に、なぜ愛が必要なのですか?』と」
「あ~あ、そうやって自分の都合の良いように解釈して。
何? 相手は10代の小娘だから簡単に丸め込めるよねって? 詭弁使いですか?
馬鹿にするのもいい加減にしてください。
あのですね、婚約が決まった時点で女性関係を清算して、初夜で『私たちはまだ知り合ったばかりだから、お互いに愛してはいないけど、これから夫婦として良い関係を築いていきたい』と言っていれば私も、あなたを受け入れて好きになる努力していましたよ。
でも違いますよね?
政略結婚に愛は必要なくても思いやりは必要です。
良いところ1つもない人の何を好きになるんですか?」
「良いところ……顔」
「若い頃の話でしょ」
「35歳はまだ若い」
「18歳の言う若いは15歳から22歳までです」
「俺はこれで結構モテてる」
「爵位狙いの低位貴族令嬢と資産狙いの既婚者限定でね。
モテるのとタカられるのでは正反対なのに、あなたの中で同じなのですね。浅ましい人。
そうね、私も高位を狙って大公閣下か王子殿下を狙おっと♪
元々2人からは婚約の打診が来てたもの。 今からでも側妃にしてもらえるかもしれない」
「その方達に比べて俺の方が良かったから、俺に嫁いだのだろう」
「は? 王妃や大公妃になるのが大変だから、ここ(伯爵家)に来たんじゃない」
「一目惚れじゃないのか?」
「え? 誰に? オジサンに? 何で?」
「姿絵見たろ」
「釣書と素行調査書は見たけど姿絵は見てない」
「俺の素行調査したのか?!」
「当たり前でしょう。あなたに愛人がいたから同衾しなくて済むと思って、ここに決めたの。
そうじゃなかったら瑕疵のない公爵令嬢が17上の伯爵に嫁ぐわけないじゃない。
それとも私が枯れ専だと思ってたの?」
「……」
「じゃあ、そういうことだから外で子供作って来てね!」
「ま、待ってくれ。許してくれ!
2度と浮気しないから。
君以上に家政も社交もできて美しい女性はいない。
君を手に入れないと一生後悔する」
「いや、手に入れる入れないじゃなくて、スタートラインにすら立ってないんだってば」
「どうしたら立てるんだ?」
「え? そこから? はぁ……まず床に座って」
「は?」
「あなたごときが椅子に座るなんて厚かましいでしょう。まずは床に座って立場を理解して」
「……」
「では、これから仮面夫婦会議を始めます」
□完□
閲覧ありがとうございます!
会話劇でこんなにも反響をいただけると思ってなかったので、私自身とても戸惑っています(いい意味で!)
◇
作者が20代前半の時に16歳上のクライアント男性から「今の彼女と別れたら付き合おうよ。今はまだ彼女いるからダメだけど、そのうち別れるから」と言われました(゜д゜)
その方は特にハンサムでもなく年収も当時の私より低かったです。
みんなが加藤茶さんになれるわけではありません。
こちらにも選ぶ権利はあるのです。
◇
思うのですが、私たちは日本人が故にハッキリ物を言わないことに慣れているのかもしれません。
だから特に仕事においては、反論したいことがあっても曖昧に笑って過ごすしかないことも多いと思います。
(私自身がそうです)
そういう理不尽にまみれた日常の中で、私の書く気の強いヒロイン(?)に共感してくださったり笑って貰えたなら「書いて良かったな」と思います。
読んでくださった方々に重ねてお礼申し上げます。
今後とも応援していただければ幸いです。




