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三十一話 真実

マグナスの背を貫いた漆黒の刃が、ぐずりと音を立てて抜けた。

鮮血が砂浜を濡らし、よろめく。

 

「……がはっ……!」

 

膝をつきながらも、マグナスはハンマーを離さなかった。

その様子を見下ろし、プーは薄ら笑う。

 

「ほぉ……急所ははずしたか。心臓を狙ったんだが...。いいねぇ、しぶとい奴は嫌いじゃない。」

 

 放たれる威圧感は先ほどの二人の悪魔をはるかに凌駕していた。

 黒い瘴気が生き物のようにうねり、砂浜に穴を穿つ。

プーは一歩踏み出す。

大地が揺れる。

マグナスは血を吐きながらも、ハンマーを構え直した。

 

「……不意打ちとは……汚ねぇな……」

「クク……その眼だ。その眼を潰す瞬間が、たまらなく好きなんだよ。」

 

プーが一瞬で目の前に迫る。残像すら残さない速度。

刃が振り下ろされる刹那、マグナスは残る力を振り絞ってハンマーを振るった。

狙いは地面。

爆音。地面が爆ぜ、砂煙が一気に舞い上がる。

 

「チッ……!」

 

プーは初めて苛立ちを見せた瞬間、マグナスは後方へ飛び退いた。

 

「今だッ!ジュン!」

「ほんと人使いが荒いんだから。痛っ……」

 

痛みに耐えながらも軽やかな身のこなしですぐさま退路へと飛ぶ。

プーは二人を追おうと一歩踏み出したが――その足を止めた。

黒い笑みを浮かべ、ゆっくりと刃を舐める。

 

「まぁいい。逃げ場なんざ、この世のどこにもねぇ。次会う時が、ほんとの終わりだ。」

 

その圧倒的な存在感を背に、ジュンは必死に闇の中を駆け去った。


 

「おーい!ケンタ!起きろ!!」

「う..ん...?……はあ!!」

 

ゴツンッ!

 

「「痛った!!」」

 

俺の顔を覗き込むようにルイ、篤男、ウォルフがいた。

 

「おい、急に起き上がるなよ!!」


涼がデコを抑えながらそう嘆く。


「なんで、みんなが?」

「なんでって、お前何時間寝てんだよ!!もう夜だぞ!」

「...…………はあ!?」

 

スマホの電源ボタンを押し時間を確認する。

 

「7月4日、22時13分....まじかよ...」


あの会話、時間めっちゃ使うんだな……


「そうだ!みんなに言うことが!奈織さんは?」

「…………ここだ。やっと起きたか。」

「奈織さん!?どうしたんですかその怪我!」

 

奈織さんは血のついた包帯を身体中にまいたまま。床で寝そべっていた。

 

「……少ししくじった。残りの2体の眷属は倒したが、プーにやられた。」

「そんな……」

「それで話とやらはなんだ?簡潔に頼む。」

「はい。」

 

俺は夢の内容を全て話した。

 

「まじかよ……!」

「それが本当ならすごいね。」

「ケンタ!でかしたぞ!」

「…………明日ケイルシールの心臓を潰しにいく。」

「ん?なあケンタ、確か明日って科学部に呼ばれてた日だろ?」

「あほか、今そんなことどうだっていいだろ。無視だ、無視。明後日にでも埋め合わせすればいい。」

「なんの話だ?」

「え、いや昨日の文化祭のときにオカルトマニアの先輩に絡まれて。どうやら幽霊をみるためのメガネを作ったけど声が聞こえないとかなんとか……」

「それで涼がみえたのか?」

「まあ一応。」

「それはすごいな…………。話を戻そう、明日ケイルシールと決着をつける。」

「でも奈織さん、その怪我……。」

「心配ない、因縁の戦いに決着がつくんだ。刺し違えても殺してやる。それと、β憧也の助言だと涼と白鷺も戦ってくれるんだろ?」

「はい、そのはずです。……あっ、それと俺がループできるのは綾香が俺の中にいるからだって。」

「本当にそう言っていたのか?」

「多分……。ノイズで聞き取りづらかったんですけど」

「再現してくれ。」

「え?えっと、『お前がループでき……は、綾……がおま……の中に……』みたいなかんじだったと思います。」

「ふむ。おそらくそれはあれだ。」

 

奈織さんが俺を指差した。

 

「俺?」

「いいや、違う。そのお守りだ。」

「なっ……!!」

「お前じゃなくて、お守りと言おうとしてたんだろう。ここからは私の想像だが、涼が神になれたのならその綾香って子も神になってる可能性は充分にあるんじゃないか?そして、彼女はお守りの中にはいって君を見守っている。ループの力は彼女の神の力を借りているに過ぎない……どうだい?」

「それなら確かに……涼が昔、もう1人神がいるらしいって言ってたし……」

「あれが、綾香だったのか!!」

「ならもし負けてもこのお守りさえ無事なら!!」

「ああ、勝機はあるだろうね。」

 

ここまでくると正直負ける未来がみえない。

完全体のケイルシールじゃなければウズだけでも倒せるだろう。


「あとは奈織さんが言ってたプーってやつだけですね!!」

「まあそう焦るな。明日の早朝、白鷺のもとを尋ねる。彼女を仲間にできれば彼女と涼をケイルシール討伐に向かわせる。それ以外のメンバーでプーと冥斬士の相手をする。」

「はい。えっと、前から気になってたんですけど、プーとはどういう関係なんですか?」

「「「!!」」」

(ちょっ!憧也!やめとけやめとけ!)

(憧也くん、、)

 

え、なんか俺まずいこと聞いちゃったかんじ?

 

「篤男、ルイ、大丈夫だ。大事な戦いの前に疑問は一つでも多く晴らしておくべきだからな。プーは私の同僚だよ。昔……10年前までバディを組んでたんだ。謙虚で誠実で本当にいいやつだった。ただ、突然あいつが冥斬士を虐殺し始めたんだ。」

「なんで……」

「プーの息子が死んだんだ。悪魔に殺されてな。……部下に命令を出すだけで自分では動かない年寄りの連中に嫌気がさしたんだとさ。まあ、わからんことはない……」

「……」

「安心したまえよ、情けをかけるつもりははい。さあ、みんな今日は休もう。明日すべてが終わる。」





7月5日a.m.7:00

「いませんね……」

 

俺達は山小屋まできていた。

 

「居場所に心当たりはあるか?」

「「…………あ。」」





「いらっしゃいませピョン♡…………ってまたお前かあああああああああ!!」

「こるあああああああ!!減給するぞ!!」

「ひいい!すみません店長!!」


『クロリチー・ライ』

ウズの職業場にしてうさぎの楽園。

今日もまた、人の姿をしたうさぎ達が楽しそうに跳ね回っていた。

ここは重要だから2回言おう。

人の姿をしたうさぎであるのだ。本質はうさぎ。

それゆえ、やましい気持ちなど抱くはずもない。

 

「また来たよ、クラ!」

「うわあ名前覚えててくれたピョンねーーー(棒読み)。」

 

血管がビキビキだ。

 

「しかも大勢で来てくれて、ありがとうピョン♡……(どういう嫌がらせだ?この野郎……)」

 

店長!この子ちっちゃい声で物騒なこといってます!!

 

「とりあえず席に案内してくれよ、クラ!」

「………………はーい、6名様ご来店ーー♡」

「「「「いらっしゃいませーー」」」」

「憧也くんってこんな所くるんだ……」

「い、いや、勘違いしないでくれよ!きょうはウズに会うからって!」

「ふーん。」


ルイが完全に誤解している。

篤男さんは…………うん、楽しんでるな。


「憧也君、私も食事をしに来たわけではないんだ。」

「まあ、まあ、そう言わずに意外と美味しいですよ?」

「注文はお決まりですかー?」

「ああ、いつものオムライス……痛てててて!痛い痛い!足!足踏んでる!!」

「あ、ごめんなさいピョン♡」

「……ウズ、急ぎの用事があるんだが、いいか?」

「今日は夜までバイトが入ってるから無理。」

「今日、ケイルシールを殺すんだ。」

「なにっ!!??」

「あいつの殺し方がわかった。そして、もう時間がないんだ。力を貸してくれ。」

「うぅ…………うん、わかった。ちょっと待ってろ。」




数分後。

「今日だけ休みにしてもらった。その話詳しく聞かせろ。」

「とりあえずオムライスだけいいか?」

「お前……」

「いや、何も頼まないわけにはいかないだろ……」

「はあ……わかったよ。」

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