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二十話 説得

「どうにかなるかもって具体的にどうするんだ?」

「それはこれからのお楽しみ。」

 

その後俺らは学校まで行った。


 今日は放課後からずっと憧也君と一緒だったから宿題やってない。今後はいつ任務入るかわからないから今から今週分はやっておこうかな。

 コーヒーを用意し眠気を殺す準備はバッチリだ。


3時間が経過し、今は深夜1時をすぎている。あと2時間くらいはしておきたいな……でももし憧也君がループしたらもう一回同じことしないとな……その時は次の僕が何とかしてくれるよね。

長期戦を覚悟してコーヒーをおかわりした。


 

「よし、包帯の用意はいいか?」

「おう!保健室からパクってきてやった!!」

「へへっ、最高だぜブラザー」

「でこれを何に使うんだ?」

「あいつの喉を……この村正で刺す。」

「はあ!?」

「この世の悪魔は全てケイルシールから出来てるんだろ?それなら陽に取り憑いてる悪魔も村正に付着してるあいつの心臓の邪気に引き寄せられるはずだ。仮に血管がちぎれた場合は応急処置頼む。あとは包帯をまいとけば治るだろ。」

「それ大丈夫なのか?」

「刺すと言っても喉仏までだ。皮膚をちょっと切るだけだよ、2ミリ程度の誤差だよ。あとはあいつを説得するだけだ。一つ注意するべきはおそらく盗聴されてるから筆談でしないとな。」

 

午前の授業が終わり文化祭の準備が始まった。

俺と陽は相変わらず窓拭きを命じられた。

 

「なあ、憧也。今日時間あるか?」

 

きた、こいつまた拷問するつもりかよ。

 

「ああ、あるぜ。ただちょっといいか?」

「なんだよ、告白でもする気か?」

「ははっ、まあそんなとこだよ。」

 

俺たちは屋上まで向かった。

 

「で、話ってなんだ?」

「それなんだけどよ、おれルイのことが好きなんだよね。」

と同時に『この会話は続けてくれ。お前、今から俺を拷問する気だろ。』と書いた紙を見せた。

「なっ!?おまっ……」

 

急いでジェスチャーで静かにと合図を送る。ペンと紙を陽に渡して会話を続ける。

 

「確かにあいつ可愛いしな」

『ループしたな』

 

とりあえず第一段階は成功。顔が全く笑っていないが。

 

「昨日一緒に帰ったんだけど、すごい優しくてさ、なんというかいいところの執事みたいな振る舞いなんだけどお茶目なところもあって可愛いんだよね。」

『あまり長引かせたくないから単刀直入に、お前の悪魔をはらってやる。』

「っっ!……そうか…………」

 

こいつ書くことに夢中で話が止まってるじゃねえか。

 

「どうした?話聞いてるか?」

「ああ、すまんちょっと考え事してた。」

『グレイス様に歯向かえば俺の家族が殺される。悪魔をはらってもそれじゃ意味がない。』

「トウヤの言うことも分かるよ、俺も何回か可愛いとは思ったよ。ただな、あいつ男じゃねえか。その、悪いとは言わねえけど、子供とか将来のこと考えたらな……」

 

先ほどから拳を握りしめている。お願いだから我慢してくれよ……。

 

『大丈夫だ。みんなでなんとかする。』

「っ!!なんとかする!?ふざけんじゃねぇよ!!そんな軽々しく言うんじゃねえよ!!だいいち俺たちみたいな人間がグレイス様に敵うわけないだろ!!今お前がここにいるのも、死んだからなんだろ!!」

 

くそっ、この野郎……!くそ脳筋が!!

 

「涼!!頼む!!」

「おう!」

 

陽を重力魔法で陽を地面に貼り付けた。

 

「なにっ!」

「頼む!間に合ってくれよ……」

 

喉に手を当てると中で何かが動き始めているのがわかる。

慎重に喉に剣先をあて少し差し込む。

 

「痛っ!」

 

これか!!ぐんぐんと吸い込んでいる手応えを感じる。

 

「よしっ!全部吸い込んだぞ!」

「トウヤ!剣を投げろ!!」

「っっ!!」

 

高く剣を投げる、とすぐに剣が爆発した。

 

「はぁ、はぁ…………」

 

キーンッと剣が落ちてくる。爆発しても無傷ってすごいな。

 

「お゙まえぇぇぇぇぇぇぇ」

「がはっっ」

 

陽が俺の胸ぐらを掴んで地面に叩きつける。

 

「俺が、お゙れが、どんな気持ちで今まで耐えてきたのかわ゙かってんのか!!それをこんな簡単に台無しにしや゙がって!!」

「っっ……!!いい加減目覚ませ!!自分なら死んでもいいみたいに言うんじゃねぇよ!!お前が死んだら残された家族はどうなるんだ!!勝手に死ぬなんてそんなのただの自己満なんだよ!!俺だって自分が死んでみんなが助かるならそれを選ぶさ!でもな、みんながそれを許さねえんだよ!!だからこそみんなで手を取り合うじゃないのか!!」

「おまえ……」

 

陽がこんな俺はみたことないとばかりに目を見開いている。

 

「お前が悪魔に遣わされてるあいだに俺は頼れる仲間を手に入れたんだ。……お前もこっちにこい。」

「おれだってそうしたいよ……でもかぞくが……」

「泣いてたって何も始まらないぞ、自分で何ができるか、自分の役割を考えるんだ。」

 

俺が涼に教わったこと。

そこからは誰も喋らなかった。ただ陽が静かに泣いていた。

爆発音を聞いて先生が駆けつけてきたが、劇で使う音声の音量を間違えたと言い、なんとか逃れた。

 

「俺は教室に戻っとく。それと、陽には見えないと思うが俺の信用できる親友にお前の家の護衛を頼んでる。…………またあとでな。」

「…………」

 

 ここからはあいつ次第、誰にでも気持ちを整理する時間は必要だ。

教室に戻ると、女性陣にこっぴどく叱られた。要約すると窓拭きはもう代わりにやったから机の移動をやれとのこと。涼には陽の家の地図を渡しそこに向かわせてある。大丈夫だろうか。

 

「浅本君の説得できた?」

「ルイか……わからない、でもあいつならわかってくれると思う。」

「それなら大丈夫だね。そこの机場所違う。」

「ほんとだ、すまん。」

 

 文化祭の準備が終わっても陽は来なかった。実際は30分前に準備は終わって解散となったのだが、陽が来るかもと思い校内をぐるぐると回っていた。

 各クラスの出し物としては『迷路』『謎解き』『カフェ』などなど、それに加えて文化部の『演劇』『活動発表』などがあった。

「はぁ、結局来なかったな…………そうだ、典子の見舞いにでも行くか…………。」

 

30分程度歩いて大病院に到着。

 

「すみません。上藤さんのお見舞いに。」

「はい、306号室です。」


 確か爺ちゃんの見舞いもこの日のこの時間くらいだったよな。ここに到着するまでの間にお見舞いの差し入れで何が喜ばれるのかわからなかったので、Google先生に質問しておいた。

 菓子や果物が良いことは流石の俺でも知っていたが、暇つぶしをするために本、漫画なども喜ばれるらしい。これは盲点だった。幸いなことにミミさんのパシリ(奢り)がループでなくなったおかげで漫画を3冊ほど買うお金はあった。

 ただ忘れてはいけないのは人のことを盗撮する女だということだ。決して気を許すな俺。

コンコンコン

 

「内貴です。」

 

中で何か騒いでる音が聞こえる。20秒ほどたってどうぞと言われた。

 

「内貴くん、ど、どうしたの?」

「どうしたのってお見舞いだよ。酷い怪我だって聞いてね。」

 

ベッドには点滴をうちながら頭にぐるぐる包帯を巻いている典子がいた。

 

「ありがとう。」

「怪我の具合はどうなんだ?」

「全然動けるんだけど、お母さんもお医者さんもまだ安静にって言うんだよ。大袈裟にしないでほしいよ……」

「ははは、でも今は安静にしといたほうがいいよ。」

「……そういえば、私たち話したことあったっけ?」

 

そうか、この世界線では初対面なのか……

 

「いつもすれ違うだろ、そのよしみだよ。……これ差し入れ。」

「……これ、読みたかった漫画!!」

「そうなのか?それはよかった。」

 

 嘘である。部屋に侵入したときに欲しいものリストとやらがあってしっかりチェックしていたのだ。

 余談だが欲しいものリストを作るやつはロクでもないやつが多いと聞いたことがある。

 

「お母さんから聞いたんだけど、内貴くんが助けてくれたんだよね、ありがとう。」

 

深々とお辞儀をしてきた。

 

「いいんだよ、困った時はお互いさまってね。」

「それと…………お母さんには言ってないんだけど、家が文字通り半壊したって聞いて、、、」

「あ、ああ、そうだな……」

 

文字通りって、随分余裕ありそうだなおい。

 

「その……辺りになんか写真とか散らばってなかった?」

 

あー、こいつ、それを心配してんのか……

 

「典子は覚えてないだろうけど、昨日大雨が降ってな、大洪水で川に全部流れてたらしいぞ。写真らしきものはあったけど原型をとどめてないとか。」

「ほっ…………そう…………」

 

なんだこの表情は、嬉しそうな悲しそうな。

 

「大事な写真だったのか?」

「うん、…………とっても」

 

なにこれ、キュンとしちゃうんだけど。

 

「それはそうと入院ははじめてなのか?」

「入院というより、事故がはじめて。」

「そうか、記念に写真撮っておこうぜ!」

「え?」

 

 わかっている。なんの記念だよ、と。そのまま俺はめちゃくちゃ顔を赤らめたまま典子に近寄りインカメでツーショットをとってやった。そして、メールで典子に送る。言わなくてもわかるだろうが、だいぶ無理をした。

 

「…………」

 

明らかに様子がおかしい。ぷるぷる震えている。

 

「嫌だった?」

「…………ふふふ……むふふふふ……むふふふふ」

 

あ、これアカンやつや。

 

「じゃ、じゃあ、俺また時間があったら来るから。」

 

早く去らねば!!

足早に退出すると同時にありがとねと言う声が聞こえたきがした。

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