十八話 好奇心
眠れない。
俺には一つ気になることがある。
そう、典子の部屋の壁だ。
俺は鈍感男子ではない。絶対に推しのアイドルのポスターでないことは第六感が教えてくれている。
「……よし、行くか。」
ベッドから起き上がる。涼は…………腹をぽりぽりかきながら寝ている。こいつ、、死んだこと気にしてないのか?
そそくさと着替える。こう見えて俺は気になることはとことん調べる主義なんだ。
階段を降りそっと家を出る。今は深夜0時をまわっている。
夜の外ってやっぱり怖いな。
歩きながら典子宅まで向かう。
俺はこれからどうすべきなのだろうか。最初からの進展といえば陽が悪魔と繋がっていた、ケイルシールとアエロスもループしてる、くらいか。後者は確かではないが。あっ、これ奈織さんに言うの忘れてたな。まぁいっか。
……ん?
地面に駄菓子のゴミが落ちている。懐かしいな昔これよく食べてたっけ。
ズキンッ!
(「ケンタ!俺にも1つくれ!」
「いやだ。自分で買えよ。」
「なあアヤカ、ケンタってこんなに器が狭いんだぜ?」
「まあまあいいじゃない、健太が買ったんだし。」
「それもそうだけどよ、その駄菓子3つのうち一つが超酸っぱいやつだろ?全部食うのってどうなんだ?確定で酸っぱいじゃん、楽しいか?それともドMなのか?それともぼっちなのか?」
「あ?」
「やべ、ケンタが怒った!!」)
なんだ、今のは……俺の記憶?1人は涼で、もう1人は……綾香?今まで記憶が戻るなんてなかったのに……あいつがきて何か変わったのか?
「お前、こんなところで何してんだ?」
「ぎゃーーー!!……なんだ涼かよ!あ、焦らせんなよ。」
こいつ、つけてきたのか。
「ちょっと目覚ましたらいねぇんだもん。」
「あのな、本当にしょうもないことなんだ。誰にもなにも言わずに終わらせる予定だったんだよ。」
「あっそ。何かあったらいけないから一応ついていく。俺は地蔵かなんかだと思っていてくれ。ただいるだけだ。」
「そんなこと言われても、お前の記憶にはばっちり残るだようがよ!!」
「…………オレハジゾウ。コトバ、ワカラナイ。」
「はあ、、」
もう半分以上進んだし、引き返すのはもったいないか。
「わかったよ。まじで誰にも言うなよ?」
うんうんと頷く。
それから5分程度歩く。
「おい、その鼻歌やめろ。気味が悪い。」
「失礼だな、これは神の間に伝わる民謡だぞ、歌うだけで健康祈願、恋愛成就、金運上昇、交通安全、厄除け、家内安全、商売繁盛、安産祈願の全てを一気に叶えることができる代物なんだ!」
「お守りかよ。それとなにぺちゃくちゃ喋ってんだよ。」
「すまんわすれてた。お守りって言うといつもつけてるそれなんなんだ?」
「しらん。なんとなくつけてる。」
「ちょっと見せてみろよ。」
涼が俺のお守りに手を伸ばす。
「ちょっ、やめろよ!値打ちもんかもしれねぇだろ!!」
「なわけあるかよ、どうせそこらへんのお守りなんてただのぼったくり詐欺師が作った紙切れに決まってんだろ。」
「お前、バチあたるぞ。まじで。」
「残念、バチあたえる側だ。そういえば結構前から、トウヤにバチがあたらなくなったんだよなぁ。」
「…………は?」
「いやだから、俺が死んだ直後くらいからトウヤにちょっかいだしてたんだよ。トリの糞命中させたり、転ばせたり、あとは、あとは……」
「お、お、お、」
「ん?どうした、大丈夫か?」
「お前かぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「お、落ち着け!!そんな物騒なもんしまえって!さっき死んだばっかりなんだよ!連続はきついって!!」
「どんだけ俺があれに苦しんだと思ってるんだぼけぇ!!」
「悪かった!それは本当に悪かった、ごめん!!でも、学校に毎度毎度遅刻するから、そのバツとしてだな…………痛え!!」
ゲンコツをお見舞いしてやった。
「まだひりひりする……お前限度ってもんがあるだろ。」
「はぁ……積年の謎がとけたよ。ならこのお守りももう必要ないってか。」
「むむ?このお守りそこらへんのやつとは違ういい素材でできてんな。これのせいかよ。鳥の糞あてるの結構難しいんだぜ?鳥がトウヤの上を通り過ぎる時に、鳥に便意を催させる必要があるからな、でも命中したらこれまた気持ち…………痛っ!!」
「お前、反省してないだろ。」
「ひゃい、すみませんでした。」
そんなこんなで典子宅まで着いた。正直もうどうでもいい。涼の謎でお腹いっぱいだ。
「典子の家になにしに来たんだよ。」
「地蔵になってるって話だったろ。あと、中には入ってくるなよ。」
「へい。」
奈織さんがやっていてピッキングを見よう見まねでやってみる。鍵と格闘すること30分。ガチャ。
「やった!!」
長居は禁物だ、壁だけ見て速攻で帰る。いいか俺、余計な気は起こすなよ?
慎重に入って典子の部屋まで行く。これで二回目。
失礼します。
よし、壁だ。壁……
ん?写真が所狭しと貼ってある。暗くてよく見えないな。スマホの光をつけて部屋を照らす。
…………これは、、俺!?
運動会の写真。体育の授業のハードル走の写真。授業中居眠りしている時、様々な日常のシーンが激写されていた。
…………怖!!いやいやいや、どゆこと?好きとかそういうこと??そんな次元軽々飛びこえてる、ハードル走の如く!!帰ろう!!やっぱり関わってはいけない女だった!!
そっと踵を返して扉に向かう。
不意にスマホのライトが典子側を照らす。
「ぎゃーーーーー!!の、の……典子!!」
ライトに照らされて典子が立っていた。
「…………」
「いや、これは……その……」
「トウヤ!!!そいつはもう典子じゃない!!」
「え?」
ドーン!!
凄まじ轟音と共に俺と涼は吹き飛ばされた。家は半壊し体は宙に舞っている。
なんでだ!?典子は今日、無事なはずじゃ!?
「ケイルシールだ!!」
…………ははっ、そういうことかよ……
やつの記憶の引き継ぎが確定した。




