十七話 回帰
俺は気づけば自室にいた。
……これは……ミミさんか?双六ゲームの時に戻ったのか……
「涼!!」
「きゃっ!ちょっと、どうしたの?トウヤ君チーズケーキ買ってきてほしいのだけど…………っ!!」
冥斬士組が揃って後ろに下がる。
「…………またループしてきた……の?」
「はい……」
「いやぁ、ビックリしたぜぇ、トウヤが急に悪魔になった気がしてなぁ、そろそろ俺らも悪魔と区別つかなくなるぜ。……次か、その次にループしたら間違えて殺してしまうかもな!」
しゃれになってねぇ……
「いきなりで申し訳ないが、何があったか話してくれ。」
「奈織さん……結果から言うと典子を拉致してもケイルシールは現れませんでした。そして明日、篤男さん、ウォルフ、涼が禁書庫に忍びこんで」
「はあ!?おいおい、奈織さん俺らそんなことさせられるのかよ!?」
「篤男今は黙って聞け。すまない続けてくれ。」
「はい、そして3人は敵に襲われながらも無事に書物を盗み出せました。」
篤男さんの処刑の件は黙っておこう。
「シャドーってやつだ!」
「シャドー……この3人が彼から逃れることができたとは考えられないが。」
「そしてルイは典子の護衛をしてました。そちらは何事もなく終わったと思います。あとは……陽が敵と繋がってました。俺は拷問されて、そこに奈織さんが助けにきてくれました。」
「何を聞かれた。」
「確か…………周りに神がいるか、典子の拉致の理由、なぜ俺はループできるか、の3つだったと思います。」
「なるほど、おそらくその後はジュンが君を祖父のもとまで連れて行ったんだろう。そしてそこに村正がある、と。」
奈織さんが村正を指差しそう言った。
「そうです。」
「これが1番肝心なんだが、何故君は死んだ?」
「明後日の文化祭の日に陽と話をしようと校舎裏まで行ったんです。涼が陽を捕まえたところで、一体の悪魔が突然やってきて陽を殺しました。ヴァンパイアのグレイスってやつでした。そして涼と俺はやつらのアジトに入って、爆破しました。そこまでは良かったんですけど、別の男に邪魔されて結局死んでしまいました。」
「ヴァンパイアのグレイス……知らんな……あとその男は誰だ?」
「確かプーと呼ばれていました。」
「っっ!!!」
「奈織さん、プーってもしかして!」
「ああ、あの野郎堕ちるところまで堕ちたな。」
「知り合いなんですか?」
「知り合いというか元同僚だよ。」
「そんな……」
「話は終わりか?」
「はい、一応……」
「一つマズったな禁書庫の書類の内容が分からん。もう一度行くとなると二度手間だしな……」
「確かに……」
「……俺中見たぞ。」
「「本当か!?」」
「うん。それで思い出したんだけど前トウヤに見せた写真のこの女の子、綾香っていうんだけど苗字が内貴だったわ。うん。漢字が難しくて忘れてた。あとやっぱりトウヤの本名はケンタだった。田中ケンタ。」
「……は?」
「恩に切る、涼。先ほどから隠し持っている本はお咎めなしとしよう。」
「えっ…………あ、ありがとう。」
「待ってください!じゃあ俺の母は……」
「おそらくその綾香とやらの母親だろう。」
「そんな……俺の本当の親は、、」
「いいか、野暮承知で一つ言っておく。血縁だけが本当の親を定義するわけではない。親子関係というものは、共に歩んできた時間や、分かち合った思い、そしてお互いを尊重し合うことによって築かれるものだ。彼女が君を育て、君の人生を共に歩んできたことは、何にも代え難い尊い事実だ。そのことをゆめゆめ忘れるな。」
「…………」
「今日の典子拉致はなしだ。篤男とウォルフは私についてこい。」
「俺達はどうすれば……」
「私はもう指示はしない。君達が独断で行動したのは首肯し難い事実だが、実際有益な情報が得られたからな。今の私は君たちを独断で動かせるほうが良いと考えた。自分ができること、やるべきことをよく考えてしろ。……死なないように行動しろと言いたいところだが、相手が相手だ、自分の命を使い切ってやったと思えるように後悔がない行いをしてくれ。」
「…………はい。」
「よし、みんな行くぞ。」
その後、全員が部屋を出ていった。
「なあトウヤ、俺たちこれからどうする?」
「…………」
「おい、聞いてんのか?」
「あ、ああすまん、ぼーっとしてた。そうだな、陽と話したいけどまたグレイスに殺されるかもだし、、」
「そうだよな、、あいつと話すならまずはこべりついてる悪魔をなんとかしないとな。う〜ん。」
*
「涼!!」
びっくりしたぁ。急に大声出すんだから…………っ!!
悪魔の気配が強まり戦闘体制に入る。
話を聞いた限りまたループしてきたらしい。今後間違えて切ってしまわないようにしないと。
涼君なんか、ぼーっとしてる……。
それとさっきから憧也くんの横にある刀からすごいオーラがでてる。なにかの業物の予感がする、触ってみたい。
僕は刀を集めるのが趣味で次元収納には選りすぐりの5本が常備されている。日常使いは愛刀の鬼丸、父さんが亡くなる直前に僕にくれたものだ。
どうやら憧也くんは養子だったらしい。僕からすれば愛してくれる親がいてくれるだけで十分だと思う。ただ憧也くんがどう感じるかは想像できない、どうか悪い方向に向かわないでほしい。
「今日の典子拉致はなしだ。篤男とウォルフは私についてこい。」
…………今日お泊まり会じゃないの?少し……というかこう見えてだいぶ楽しみにしていた。任務であっても同級生とわいわいするのは初めてだったのに。
ループ前の僕はお泊まり会したから初めてじゃないのか……。
「よし、行くぞ。」
あからさまに残念そうにするのは子供っぽいからここは冷静に表情には出さずに退出だ。また今度にでも泊まればいい。
「先ほどルイの親に泊まりの許可を貰ったてまえ、こうも早く予定変更になると申し訳ないな。」
「いえ、大丈夫です。」
「ルイちゃん、ちょっと残念そうじゃない?」
篤男さんがにやにやしながら言ってくる。
「こうみえて子供な所あるからなぁ。ルイがこんくらいちっちゃかった時、散歩に連れて行ったことがあってな、公園に行く予定だったんだが突然任務が入って行けなかったんだけどよ、その時信じられないくらい泣かれてなぁ……いやぁ、あの時は困った困った。」
「散歩って、僕は犬か何かですか。今回のも少し残念ですけどもう子供ではありませんので気にしてません。思慮分別を十分にもった立派なレディです。」
「あら、皆さんもう帰るの?」
順子さんが顔を出す。
「!!これはこれは憧也君の母君、こちらこそ夜分遅くまですみません!今日は帰らせてもらいますが、また機会があれば今度は手土産をもって伺いますのでよろしくお願いします!」
必死だ。
「あらあら篤男さん、是非またいらしてください。」
「はい!!」
「では、私達はこれで。」
「失礼しました。」
「マタクルネ。」
そして、僕は内貴家をあとにした。




