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第87ターン目 ザ・サンの 脅威!?

 正体は見た、そう叫んだ魔女さんは、杖を黒点に向けて魔法を放つ。

 水鉄砲(ウォーターガン)、杖から放たれる水の銃弾は空に大きなヒビを入れた。


 「あ、あれはなんですか!? 見たこともない魔物です」

 「もしや精霊ではありませぬか?」


 ハンペイさんは目を細め、敵の正体をよく観察する。

 誰もが注目した正体、それは空の光に擬態した輝く球体だった。

 もうそうとしか形容できない、こんな珍妙な魔物は初めてだ。


 「太陽のような魔物、さしずめ【ザ・サン】ね」

 「ザ・サン……こんな魔物が」


 魔女さんが便宜的に敵の名を命名する。

 ザ・サンは回転しながら、周囲に熱線を放つ。

 ダンジョンは縦横無尽に熱線に焼き付けられ、一部天井の魔石が崩落してきた。


 「ちぃ、あれが正体でありますか!」

 「攻撃が届かないか――よっと!」


 勇者さんは巧みにパラポラ鍋で熱線を跳ね返した。

 ザ・サンは動くのが苦手なのか、自身を反射する熱線で焼くが、こちらはダメージが薄いだろうか。

 魔物か精霊か、どちらにしても弱点はあるはず。

 やっぱり水や氷だろうか?


 「ちぃ、アイツ自己再生してやがるわ」

 「え? 再生能力?」


 回転を始めてからわかりづらかったが、ザ・サンに入ったヒビは徐々に修復している。

 まずい、このままじゃ本当にジリ貧だ。

 どうする……ボクは必死に勝ち筋はないのか考えた。

 時間が経てば経つほど敵が有利だ。

 ザ・サンの驚異的な熱線と自己再生能力、これではまるで。


 「攻防完璧(パーペキ)ってか、やってらんないわね」

 「でも……生きている限り弱点はある筈ですよね」


 ボクは冒険者として様々な魔物と戦い、理解不能な魔物でさえなんらか弱点があることを知っている。

 リビングアーマーなら、血の呪印が弱点、キョンシーなら太陽が弱点、どんな強大な力があっても、無敵な筈はない。

 魔女さんはトンガリ帽子を深く被ると、微笑を浮かべた。

 彼女もまた、あの強大な魔物への対処手段を思い付いたのだろう。


 「この中に弓を使える人はいる?」

 「弓ならば某が」

 「おしっ、すぐに作成(クラフト)するからアタッカーはハンペイね!」

 「任されたカムアジーフ殿!」


 魔法の鞄から、これまで掻き集めた材料達を取り出す。

 宝石、細い木の枝、アラクネの糸、ドラゴンの牙。

 魔女さんはその中から素材を吟味し、なにが有効か慎重の吟味した。

 ボクはザ・サンの様子を監視しながら、状況を報告する。


 「ザ・サン完全修復しました!」

 「呆れた再生力ね……まるで【トロール】みたい」

 「にゃあ……トロール以上かもしれないにゃあ」

 「ねぇクロ、ザ・サンの攻撃は妨害出来る?」


 クロはザ・サンを見上げながら、目を細める。

 妨害魔法ならクロの専売だけど。


 「《精神妨害(マインドブレイク)》ならあるいはにゃあ」


 《捕縛の糸(バインドウェブ)》は届かないだろうか。

 いや、属性の相性が悪いか。

 魔女さんの魔法なら弱点を突けるだろうけれど、ザ・サンはかなり魔法防御力が高いようだ。

 それなら物理攻撃力で、というのが魔女さんの勝ち筋。

 本当にそれでいいんだろうか、もっと最善の方法はないのか。

 焦れば焦るほど、ボクの汗も止まらなかった。

 エルフ族のハンペイさんでさえ、額に汗が浮かんでいる。


 「出し惜しみはしちゃ駄目か、《(やじり)はドラゴンの牙、コカトリスの羽根を合わせて」


 彼女は魔法(メタモルフォーゼ)を用いて、素材を弓と矢に作り変えていく。

 完成したそれを彼女は手に持つと、出来を確認した。


 「言っておくけど、あまり性能はアテにしないでよ、本職の武器職人(ウエポンスミス)じゃないんだから」

 「構いません。どんな弓であれエルフ族の末裔らしく芸術的に扱ってみせましょう」


 森人(エルフ)の一般的なイメージは魔法使いだろうか。

 けれど冒険譚に登場するエルフの中には大弓を構える雄姿もあるだろう。

 それほどエルフは弓が巧みだという。

 ハンペイさんは横穴から僅かに姿を現すと、弓を構えた。


 「この一撃で……!」


 だけど、直後――熱線がハンペイさんを襲う!

 熱線はハンペイさんの頬に赤い横筋を描いた。

 頭一つ分、射角がズレた!


 「いけないハンペイさん退避を!」

 「いいえ! これで仕留める!」


 ハンペイさんはお構いなしに矢を放った。

 それはビィィィンと音を立て、ザ・サンの身体に突き刺さる。


 「!?!?!?!!?」


 ザ・サンの身体に亀裂が大きく入る。

 そのまま狂ったように不規則回転をする。

 効いている……のか?

 駄目だ、判断がつかない。

 ハンペイさんの弓矢攻撃は直撃(クリーンヒット)、それは間違いないのだけれど。

 ただ、何故か不安が募る、これは良くない流れなのか?

 ザ・サンは徐々に亀裂を広げ、その中から凄まじい光が溢れ出した。


 「マール様! 急ぎ穴の奥に!」

 「えっ?」


 直後、ザ・サンが大爆発した。

 体内の熱エネルギーが抑えきれず、ザ・サンは跡形もなく消滅。

 その余波はボク達さえも飲み込もうとしていた。


 「公正なる秩序の神よ、正しき御心に勇気の盾を授けよ!《勇気の大盾(ビックシールド)》!」


 フラミーさんはなんとか横穴の前に飛び込むと、魔法を唱えた。

 公正神の白魔法、それは光り輝く盾となって、フラミーさんの前に聳える。

 そのまま彼女は洞穴の入口を塞いだ。


 「くう」


 ドオオオオンという轟音、フラミーさんの盾を越えて熱がボクの皮膚をチリチリ焼く。

 まるでオーブンだ、このままじゃあボク達は蒸し焼きになるんじゃないか。

 ボクは目を閉じ、必死に堪えた。

 いつまで堪えればいいのか、ただボクは炎の息吹を聞くと、目を開いた。


 「た、助かった……?」

 「ふぅ……皆さんご無事でありますか?」


 口から小さな炎の息吹を吐いたフラミーさんは、後ろを振り返り安堵した。

 帽子を手で抑えたまま、魔女さんはフラミーさんに呆れるように言った。


 「流石竜人娘ね、完璧な熱耐性」

 「とはいえ、まさか爆発するとは思わなかったであります……なんとか気づけて良かったぁ」

 「助かったにゃあ、最期の足掻きとはいえ、あやうく死ぬところにゃあ」

 「うん、ありがとうフラミーさん」

 「ハッ! 小官の働きがお役に立てて光栄であります!」


 ともかく、なんとか無事乗り切った。

 死傷者はなし、軽傷者二名、正体不明の魔物を相手にしたことを思えば、奇跡的な被害の少なさかもしれない。

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