表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

90/217

第85ターン目 竜人娘は 赤竜並?

 「それじゃあ出発しましょうか」

 「うーん、それなんだけどさー」

 「勇者さん? なにか問題が?」


 勇者さんは困った様子だった。

 彼が指差したもの、彼は困ったように言う。


 「ドラゴンを粗方解体したのはいいけど、どうやって持っていこうー?」

 

 ボクは思わずズッコケそうになる。

 昨日の夜いつも以上に静かだと思っていたけれど、まさか黙々とレッドドラゴンを解体していたのか。


 「置いていけば? その内ここらの魔物が消費するでしょう?」

 「うーん、勿体ないよー」

 「とはいえ、魔女さんの魔法の鞄に入りますか?」

 「入らなくはないけど、そんなに要らないでしょ……あっ、瞳と骨は貰っとくか」


 魔女さんの魔法の鞄はなんでも入っちゃう、商業神の加護もビックリの代物(しろもの)だ。

 だが、鞄の中は無限ではない、魔女さんの精神力(マインド)を消費しているから。

 なるべく無駄な物は省きたいようだ。


 「勇者殿、取捨選択は必要でしょう」

 「うー、仕方ないかー」

 「まっ、数日分は確保しといてやるわよっ!」


 魔女さんはある程度必要な物を魔法の鞄に仕舞うと、ボク達は再び出発する。




 「そういえば軍人さん、貴方ちゃんと戦えるの?」

 「魔法は白黒両方をある程度、基本は剣術であります」

 「えっ? 【赤魔法使い】なんですか?」

 「家系的に母方と父方で信仰する神が違った結果であります」


 大抵の結婚は同じ信仰を持つ人達で行われる。

 じゃないと、色々揉めることがあるからだ。

 近い教義が多ければいいが、もしも豊穣神と戦神の信者が結婚とかになったら、まず揉めるだろう。

 信仰が非常に親しいこの世界において、これは不文律のようなものだ。

 自由恋愛ほど苦労するものはない、なんて格言もある程である。


 「それじゃあしばらくは後衛職ね」

 「はい、カムアジーフ様、よろしくであります!」

 「いやぁ助かるなぁ、白魔法使えるのボクだけだったから」

 「赤竜戦では、治癒術士殿には世話を掛けましたな」

 「本当ー、獅子奮迅の活躍っていうのー?」

 「ボ、ボクなんて大したことは」

 「謙遜は悪い癖にゃあ、主人素直に喜びなさいにゃ」


 クロに指摘されると、ボクは(ほお)を赤くして小さく頷いた。

 あの戦いは本当に死力を尽くすものだった。

 紙一重での勝利、終わった後もやっぱり感慨深くなるのかな。


 「うー」

 「カスミ? 一体どうした?」

 「妙ね……昨日は結構いた魔物がいないわ」

 「あれ? そう言えば……」

 「治癒術士殿、警戒は忘れず、用心して階段へ急ごう」


 ハンペイさんの言うとおりですね。

 ボクは頷くと、額の汗を拭き、階段のある方角を見る。

 なんだか今日は少し暑い気がする。

 ダンジョン内の温度差はあまり変化しないと、受付嬢さんには聞いていたのにな。


 「うー」

 「カスミさん、まだ唸っている」

 「これはかなりキナ臭いにゃあねぇ、けれどにゃんだか様子がおかしいにゃあ」


 カスミさんはこのパーティでは最も気配察知能力に優れる。

 ハンペイさんでも、かなり優秀な斥候(スカウト)スキルがあるけれど、キョンシー化したことで、大きく拡張されるのだろうか。


 「マール様、彼女……ええとカスミ嬢はなにか察知能力があるので?」

 「ええご察しの通りでして、カスミさんは明確な言葉などは使えませんが、かなり高い察知能力があります」

 「アンデット系は脳が無い魔物でも、明確に生者を見つけ襲う……その能力の応用でありますか?」

 「着眼点がいいわね軍人さん。なるほどアンデットはどうやって獲物を見つけるのか、なにか霊的な能力があるのかしら?」


 基本頭の良い魔女さんは着眼点を得ると、まるで水を得た魚のように生き生きと考察しだす。

 頭を使っている時の彼女は優秀だ、とはいえ雑学レベルかな。


 「ふぅ、それにしても暑い」

 「マール様、大丈夫ですか? 汗が多いようですが」

 「逆にフラ君は全然汗かいてないねー」


 全身鎧の勇者さんや、代謝のないカスミさんはともかく、フラミーさんも暑さを感じないのだろうか。

 フラミーさんは涼しい顔で、ただボクを心配してくれた。


 「小官はさほど暑いとは感じませんが」

 「当然といえば当然よ。軍人さんは炎の竜(レッドドラゴン)の体内にいたんだから、炎さえも物ともしない筈よ」


 そう言えば、フラミーさんってレッドドラゴンと同様の耐性があるのかな?

 だったらとても頼もしい仲間なのかも。


 「にゃあ、だとしたらフラミーは冷気が弱点かにゃあ?」

 「可能性は高いわね……もっとも魔法防御力までドラゴン並みなら大した問題にはならないでしょうけど」

 「小官にはさっぱりわからないであります……自分のことなのに」

 「自分のことほどわからないものよ、私がそうだもの」


 魔女さんは諦めたように肩を竦んだ。

 自分の身体の声、それは確かにわからないもの。

 ボクだって自分の魔力の色は、魔女さんに教えられて初めて知った。

 一体ボク等はなにを知っているのだろう、この世界は問答の繰り返し。

 だからこそ、考えるんだと思う。


 「むぅ、しかし確かに【サバンナエリア】にしては暑いようですな」

 「ハンペイさんも思いますか?」

 「うむ、カスミの様子も妙ですし、急ぐべきかも知れませんな」

 「うーん、私は温度変化に鈍感なのかしら? 私も感じ難いみたいなのよね?」


 魔女さんも魔物であるからか、暑さに強いのかも。

 ボクは息を吐きながら天井を仰ぐ。

 どうしてこんなに暑いのだろう。


 「ん〜? あれ?」

 「どうしたのマール、天井を見上げて」

 「いえ、なにかいつもより光量が強いような気がして」


 天井は特に異変は感じなかった。

 ただ、まるで太陽があるように、強い光が僕等を照らしている。

 変だな、と思うけれど、ダンジョン中にそれほど詳しい訳じゃないし。

 魔女さんは、トンガリ帽子を手で抑えながら天井を見上げる。

 目を細めて魔女さんは何かを見つめた。


 「気のせいじゃないかも……なんか天井に気配が――ッ!?」


 直後、魔女さんのトンガリ帽子に穴が空いた。

 ジュウウ、魔女さんのやや後方の地面が焼き焦げた。

 何が起きた? ただボク等は緊迫感にどよめくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ