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第9ターン目 使い魔の 咆哮 敵全体にダメージ!

 クロと組んで数日が経過した。

 その間にボクも少しは強くなっただろうか。

 そんな時、あの二人をダンジョン第一層で発見したのは。


 「ちょっ、触るな! アッチいけこのっ!」

 「くそ、くそ! たかが【ゴブリン】の(くせ)に!」


 人族の魔法使いの少女と、軽装で身を包んだ戦士の青年がゴブリンの群れに囲まれていたのだ。

 多勢に無勢、いくら一匹一匹は弱くても、基本的にゴブリンは群れで行動する。

 頭も悪いし、決して無茶な相手ではないけれど、初心者冒険者が一番やられるのは、ゴブリンだという定説もある。

 実際ボクも何度ゴブリンに苦しめられたか。

 アイツら醜悪な笑みで、ボクを甚振(いたぶ)るんだ。

 ゴブリンは異種交配、つまり女性をほどほどに甚振って、自分達の慰み者にするという最悪の習性まである。

 ……まぁつまりゴブリンからすると、ボクって女の子扱いだったって事なんだよね。

 うわー、複雑な気持ちー。


 「主人、助けるかにゃあ?」

 「うん、豊穣神様に誓って、放ってはおけないよ」


 クロは頷くと、大きく息を吸い込んだ。

 《咆哮(ハウリング)》の体勢だ。


 「そこの二人、耳を塞いで!」

 「ああん!? なんだテメーは!」

 「ちょ、ちょっとガデス!? ああもうこの馬鹿!」


 魔法使いの子は耳を塞いだ。

 クロはガデスと呼ばれた男がまだ必死にゴブリン相手に剣を振っている中、容赦なく《咆哮》を放つ。


 「《にゃおおおおおおおおおおん!》」


 空間が一瞬歪む。

 後から衝撃波がゴブリンの群れとガデスに襲いかかった。

 ゴブリン達は一匹残らず痙攣(けいれん)失神しており、ボクは一匹一匹入念にゴブリンの頭を錫杖で砕いていく。

 恐る恐る魔法使いは周囲の惨状を見ると、その場にへたり込んだ。


 「た、助かった……」

 「大丈夫でしょうか、どこか怪我はありませんか?」

 「あ、貴方は?」

 「ボクは治癒術士(ヒーラー)のマールです、怪我しているなら治しますよ?」


 ボクはなるべく安心させるように、しゃがみ込み、彼女と視線を合わせる。

 彼女は周囲を(うかが)った後、大の字に倒れるガデスという人族の戦士に気が付いた。


 「あっ、彼は。お願い彼を先に治療して」

 「にゃあん……忠告も聞かなかった愚か者なんて、放っておくほうが身の為にゃあ」

 「猫が喋っている……もしかして使い魔なの?」

 「この子はクロって言うんです」


 にゃおんと、クロは身体を伸ばす。

 少しお疲れのようだ。


 「ここで助けに応じなかったら豊穣神様に顔を向けられないよ」

 「にゃあ、ちょっとは悪い子になった方がバランスが取れてきっと良いにゃあ」

 「クロは周囲の警戒をお願い」


 ボクはすぐにガデスという戦士の下に駆け寄った。

 クロの《咆哮(ハウリング)》を直撃で貰ったんだ。

 あれ、物理的にダメージを受けるから、最悪鼓膜が破れているかも。


 「豊穣神様、この哀れな子羊に救いの手を《治癒(キュア)》」


 錫杖から放たれた淡い薄緑の光がガデスを包み込む。

 ガデスは「うっ」と、声を上げると上半身を持ち上げた。


 「俺は一体……なんだこれ? 誰がやったんだ?」

 「ガデス! この馬鹿! 助けて貰ったのよ!」

 「あはは、やったのはクロですけれど」

 「人の主人テメー呼ばわりする野郎には、いい授業料にゃ」


 ガデスは目をパチクリさせている。

 見慣れない少女のような少年と人語を話す黒猫、理解が追いつくにはまだ時間が掛かっていた。


 「改めて助けてくれてありがとう。私はネイって言うの、黒魔法使い(ソーサラー)よ」

 「……俺はガデス、見ての通り戦士(ソードファイター)だ」


 友好的な態度を見せたのはネイという少女、対してガデスはまだボクを胡乱(うろん)げに(にら)みつけてくる。


 「おいネイ、こいつってアレじゃねぇか? ずっとボッチで魔草ばっかり集めているっていう」

 「うぐっ! こ、鉱石も採取対象なんですからっ」

 「ちょっとガデス! ごめんなさい、普段の彼はこんなに無愛想じゃないんだけど」


 少なくともネイもボクの噂は知っているんだろう。

 助けてもらった恩義が今は大きいのか、こっちは好感を持てる。


 「怪しいぜ、あの数のゴブリンを倒したなんて、どんな奇跡を使いやがった」

 「自分の実力不足を棚に上げてよく言うにゃあ」

 「あんだとこの猫畜生(ちくしょう)!」

 「しゃああ! ならアンタは人畜生(ちくしょう)にゃあ!」


 クロは凄い顔で威嚇(いかく)した。

 猫扱いは気にしないけれど、畜生扱いは我慢ならなかったようだ。


 「もうこんな可愛い使い魔に怖い顔しないの!」

 「クロこそ、ボクのことなら、そんなにカッカしなくてもいいよ」

 「にゃおん……主人は人が良過ぎるから、アタシが代わって言っているにゃのに」


 ボクはクロを優しく抱きかかえると、大人しくボクにしなだれる。

 それを見たネイさんは。


 「あーん可愛いー! ウチのボンクラと入れ替えたいくらい!」

 「おい聞こえてんぞネイ?」

 「残念にゃけど、主人はもう満席なのにゃ」


 というか、使い魔は契約者一人としか、使い魔契約は出来ない筈だけど。


 「ともかく、本当にありがとう。ねぇガデスやっぱり私達二人じゃ限界あるって」

 「ちっ、だが奴は豊穣神の使徒だろう? あの子宝(エロス)の――」

 「断じて! そういうエッチな神様じゃないですからっ!」


 温厚なボクでも流石に豊穣神様を侮辱されたら我慢出来なかった。

 ネイさんなんかもう耳まで()()にしており、ここでは言い表せない耽美な何かを想像しているのだろう。


 「とにかくだ! ネイ一旦地上に戻るぞ」

 「あっうん」


 二人は立ち上がる。

 うんうん、出鼻を挫かれた時は、さっさと撤収するに限る。

 命あっての物種だからね。


 「貴方達はどうするの?」

 「ボク達はもう少し第一層に留まります」

 「そう……」


 すでにダンジョンの入口に向かっているガデスが「おーい」と呼んでいた。

 ネイは顔を真っ赤にしながらあることを聞いてきた。


 「ねぇ豊穣神の使徒って、チ○ポが大きいって本当なの?」

 「〜〜〜〜〜〜っ!!!!」


 今度はボクが耳まで赤面する番だった。

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