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第81ターン目 救助されたのは 竜人娘?

 全身をドラゴンの血で塗れた女性が、ドラゴンの心臓の中から出てきた。

 何を言っているのか分からないと思うけれど、ボクにもさっぱり分からない。

 一体これはなんの冗談なのか、兎も角ボクらは、その女性を川の水で洗い目覚めるのを待つのだった。

 え? どうしてかって? この女性……生きているんだよね。


 「この女、どの人間種でもござらんな。敢えて言えば【竜人種(ドラゴンニュート)】とでも言えばいいのか?」


 ドラゴンの体内から救助? した女性には驚くべきことに頭から生える角や、背中に生えた羽根など、どの種族とも微妙に違う特徴が見受けられた。

 角だけなら獣人種にも見受けられる特徴だが、翼となると別で、これは翼人種の特徴だ。

 しかし亜種が多いことで知られる翼人種でも角がある個体など聞いたことがない。

 つまり全くの新種、あるいは……。


 「魔物、でしょうか?」


 ボクは不安になりながら、そう呟く。

 まさかと、頭が否定するが、生憎(あいにく)ここにいる皆は誰もそれを否定出来なかった。


 「レッドドラゴンの心臓から出てきたんでしょ、しかも生きている」

 「そういえばまだこの子起きないねー」

 「人間か魔物かって言えば、魔物よね……人のこととやかくは言えないけれど」


 それを言えばこのパーティの過半数が魔物であるしね。

 魔女さんも勇者さんも、付き合ってみればとても魔物とは思えないけれど、それは思考の話で、生態は列記とした魔物だ。

 カスミさんは陽の光にはしっかり弱いし、強力かも知れないけれど皆なにか問題を抱えている。


 「どうしましょうか、もしこの赤竜と同一であるというならば、敵の可能性はあろう」

 「同感ね、安全性で言ったら始末するべきだわ」

 「反対ですっ! そんな理由でよく調べもせずこの人を殺めるなんて間違っています!」


 ボクは興奮して反対意見を述べた。

 だが反対された二人はむしろわかっているというように、微笑んでいた。


 「ふっ、なにも某そこまで鬼ではござらん」

 「まぁマールがそう言うのなんて目に見えていたしね」

 「にゃあ? 魔女なら『でもそれは過信(ミステイク)』とか、格好つけて言うと思ったにゃあ」

 「ちょ、ちょっとなによクロちゃん、私がいつそんなナルシストな発言したって言うの!?」

 「あ、あはは……」


 魔女さん、結構格好をつけたがるの、案外気づいていないんだ。

 格好つけたような発言、多いんだけどなぁ。


 「うーん……」

 「勇者さん、さっきからどうしたんですか?」


 一方勇者さんは、女性の(そば)でしゃがみ込みながら、女性をじっと見ていた。

 ボクはどうしたのか質問すると。


 「どこかで見た気がするんだよなー?」

 「えっ? どうしてそんなことを」

 「彼女の着ている服……」


 気絶している竜人女性は、幸いというか服を着ていた。

 だけどそれは見たこともないスーツで、赤い生地(きじ)に黒と白のラインがあしらわれ、腕には謎の腕章もあった。

 まず間違いなく言えるのは文化圏が違うということだ。

 これに関してはなんとなくボクもダンジョンの謎について、わかってきたことがある。


 「時間がバラバラ、よね」

 「カムアジーフ殿それは?」

 「多分だけど私が一番過去で、次に鎧の悪魔、一番現代に近いのがカスミでしょ?」

 「このダンジョン、死んだ人を魔物と化す。けれど時代がバラバラ過ぎる?」


 ボクの解答に、魔女さんは難しい顔をしたまま頷いた。


 「文化も言語も、常識さえ私達はバラバラだわ。なのにおなじ場所にいる……謎よね」

 「うーん、ダンジョンの謎ですね」

 「まるで地の根の伝説にゃあね」

 「あらクロちゃん、それはなんなの?」

 「アタシの元飼い主のババアが持っていた書物にあったんにゃけど、地の底で根のように世界は繋がっているんだってにゃあ」


 へぇ、クロは物知りだなぁとボクは感心した。

 それを聞いたハンペイさんは、神妙な顔をすると思い出したように呟く。


 「ヨモツヒラサカに似ているな」

 「ハンペイ、それは?」

 「いわゆる地獄でありますが、我が国では地獄は地の底に広がり、八紘一宇(はっこういちう)であるという」

 「またわかんない言葉ね……翻訳の魔法で訳しきれていないのかしら?」

 「つまり、八つの網の目のように地の底に世界は広がっているという意味であります」


 そう言えば魔女さんは現在、《自動翻訳(トランスレーション)》という魔法を使って、無理矢理言語を合わせているんでしたっけ。

 つい普通に会話出来ているから、忘れがちだけど魔女さんの使用している言語がボクらとは異なるんだよね。

 一番謎なのは、それをどうしてボクが理解出来ているかだけど。


 「なるぼどね、私の知っている知識なら、《冥界の海(ネフティスの海)》かしら」

 「こっちはこっちで、聞いたこともない言葉が出てくるにゃあね」

 「魔女さんのいた地域でも地獄の概念があるんですか?」

 「ええ、そこは凍てつくような炎の海とも喩えられる冥府よ。概ねハンペイの言っていたヨモツヒラサカと同じようにバカみたいに広いって言われているわ」


 面白いことに、彼岸の価値観は多少違っていても、似た部分は多いようだ。

 ハンペイさんの国の言葉は理解がとても難しいが、それでもこちらと親しい部分はある。

 ボク達、この地上では死んだ者は天上へ昇るが、悪いことをした人は途中で墜落すると教えられている。

 じゃあもっと邪悪な人はどうなるのか、そんな稚気地味(ちきじみ)た意地の悪い質問をかつて院長先生に問いかけると、院長先生は地の底に墜落して牢獄に収監されちゃうって教えてくれた。

 ボクは地獄で悪魔たちに拷問される牢獄が恐ろしくなると、夜も眠れず絶対に悪いことはしないと誓ったものだ。

 今に思えば、子供に道徳を説くための方便なのかも知れないけれど、そのおかげでボクは道を踏み外さず済んだと思うと、聞けて良かったと思う。


 「うーん、それじゃあさー。ダンジョンは世界中で繋がっているのー?」

 「そんな話は冒険者ギルドでも聞いたことはありませんね」

 「馬鹿げているにゃ、そんなに地底で繋がっていたら地上は陥没しちゃうにゃ」

 「それもそうね。ていうか街の下にこんな広大なダンジョンがあるのに、よく崩落しないわよね」


 学者の説では、ダンジョン内の高濃度の魔素が力場を形成し、崩落から免れているんじゃないかって言っていたっけ。

 実際ダンジョン街が崩落しない理由は謎だ。

 そもそもダンジョン自体が理解の及ばないものなのだから、考えても無駄なんだろう。


 「話を戻しましょう、この竜人娘だけど」

 「ううん……?」


 言っている側から竜人女性がうめき声をあげた。

 ボク達は竜人女性を取り囲むと、彼女はゆっくりと重い瞼を持ち上げた。

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