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第77ターン目 ドラゴンの 弱点を 探せ!

 レッドドラゴンに勝つ。

 言葉で言うならこれ程簡単なことはない。

 だが現実は途轍(とてつ)もなく巨大な壁として(そび)えていた。


 「ふっ、勝つか……乗ったぞ治癒術士殿!」

 「命を大事にお願いします、あくまで時間稼ぎですから」

 「ああっ、当主(リーダー)殿を信じよう! カスミよ、ここは任せたぞ!」


 ハンペイさんは再び疾風のように飛び出す。

 レッドドラゴンはハンペイさんに警戒して、前足を持ち上げた。

 強烈な《ドラゴンクロー》だが、ハンペイさんは当たる瞬間煙に変わった。


 「忍法、《変わり身の術》! そして見よ、月神よ我が影を映し出せ《影分身(シャドーサーパント)》!」


 神秘の技変わり身の術に、ハンペイさんの影が三体に分裂する《影分身》。

 レッドドラゴンさえも幻惑する動きで、ハンペイさんは翻弄した。

 あくまでも時間を稼ぐために。


 「にゃああ、勝つって言ったけど、本当に方法はあるのかにゃあ?」

 「ううん、わかんないよ」


 クロは思わずその場でズッコケた。

 当然だけど、ボクは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)じゃない。

 ドラゴンの弱点も知らないし、倒し方なんてまったく思いつかない。


 「やっぱりにゃあ、でもああでも言わなきゃ、ハンペイもアタシも怖くて動けなかったにゃあ」

 「神様にはなれないもんね、ボクらは」

 「とはいえ出来ませんじゃあ、ハンペイが可哀想(かわいそう)にゃあ、どうするつもりにゃあ?」


 ボクは冷静になってレッドドラゴンの動きを思い出す。

 レッドドラゴンは言わずもがな、あの圧倒的な巨体こそが武器だ。

 更に強烈な《ファイアブレス》に《ドラゴンクロー》、《ドラゴンテール》も要注意の技だ。

 そして初めて見た技、体内で《ファイアブレス》を起爆する《体内放射》。

 概ね、これらがレッドドラゴンの武器だといえる。

 羽ばたけば容易に周囲を吹き飛ばし、踏みつけも単純な質量攻撃として脅威だ。


 「でも……敏捷性はさほどでもない」


 そう、大きな魔物の多くが敏捷性を大きく削いでいる。

 レッドドラゴンは体躯から思えば、素早い方だが、それでもハンペイさんを捉えられずにいる。

 正面にさえ立たなければ、ボクでさえ逃げられるだろう。


 「でもいくら敏捷性がなくても、あの鱗はどうするにゃあ?」


 竜の鱗といえば冒険者垂涎(すいぜん)の最高級素材だ。

 優れた魔法防御力に、強力な火炎耐性。

 軽くて高強度でも知られていて、鉄製の剣が通じないほどで、鱗を割るにはハンマーのような大物が必要だ。

 それでもよく観察すると、頭に突き刺さったままのシュリケンがあるじゃないか。


 「無敵じゃないんだ、多分鱗全てが同じ強度じゃない」

 「じゃあ柔らかい部位もあるってことかにゃあ?」

 「アリゲーターはお腹の鱗は柔らかくて包丁が入るよね?」


 クロはアリゲーターを喩えに使うと呆れた。

 ボクもナンセンスかとは思うけれど、魔物って、不思議だけど、理不尽じゃないんだ。

 ポイズンフロッグでも、タイラントワームでも、スプライトでも、生きている限り弱点はある。

 死を超越した者(アンデット)でさえ、不滅ではないように。


 「武器がいるにゃあね、キョンシーの短剣じゃ駄目にゃあ」

 「うー……」


 バニー族の住処で手に入れた短剣。

 柄の部分に宝石が埋め込まれたちょっと不思議な剣。

 残念ながらドラゴン相手じゃ、切れ味は良くても皮下脂肪でまず止まる。

 これは小太刀使いのハンペイさんが、ヒポポタマスの皮下脂肪で止まったように、なんともし難い。


 「となるとにゃあ、魔法でケリをつけるか、鎧馬鹿に殺らせるかにゃあ」


 このパーティで一番大きな武器を持っているのは勇者さんだ。

 それでも普通のロングソードと同程度。

 本人の自己申告によれば、呪われていて切れ味は問題ないとのこと。

 実際【ストーンゴレーム】相手でも剣は欠けさえしなかったし、タイラントパイソンでさえ仕留めたからね。

 勇者さんならドラゴンにダメージを与えられる可能性は高い。

 後は弱点さえ突ければ。


 「うー」

 「カスミさん?」

 「キョンシーはそれならさっさと行こうって言っているにゃあ」

 「そうだね、行こう!」


 ボク達に勇者さんと合流するため動きだす。

 今はハンペイさんがレッドドラゴンのヘイトを集めてくれている。

 気を付けて後ろからなら、回り込める筈だ。


 「お願いします運命神様、これ以上の【困難(クエスト)】とか要りませんから」

 「うー」

 「まるで博打前のギャンブラーみたいにゃあ」


 運命神は気まぐれで有名だ。

 ギャンブラーが主に崇めることで有名だけれど、冒険者も結構な人が祈っている。

 だって、いきなりの大外れ(ファンブル)とか洒落にならないよ!


 「ギャオオオン!」


 レッドドラゴンが間近で吼える。

 尻尾が不規則に揺れ、ボクの頭上すれすれを横切ると、ボクは血の気が引いた。

 兎に角必死に反対側にいる勇者さんの下に向かう。

 後はなにも考えるなーっ!


 「あああああああっ、勇者さーん!」

 「マル君、どうしたの急いで?」

 「マール……貴方」


 勇者さんと魔女さんはレッドドラゴンから距離を離し、状況を見守っていた。

 手詰まりを痛感して、どうしようもないといった雰囲気だ。


 「二人共、レッドドラゴンに勝ちましょう!」

 「勝つって……簡単に言うけど、どうやって? 根性や気合でどうにかなるのは【ウ=ス異本】の世界だけよ?」

 「逆になんとかなる世界があるのかにゃあ……」

 「方法はあります……いいですか、聞いてください」


 ボクは二人にこれから行う戦術を説明する。

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