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第74ターン目 魔物飯レビュアーズ

 早速魔女さんは火元を用意して、勇者さんの盾兼鉄板を被せる。

 充分に鉄板が熱せられると、そこにアリゲーターの部位ごとに分けられた精肉が置かれていった。


 「まずは素材の味を試してみましょう」

 「うわぁ、脂がパチパチ鳴ってます」

 「むぅ……これが元々は魔物とは信じられん」


 ハンペイさんは徐々に焼き上がっていくアリゲーターのお肉を見て、未だ怪訝(けげん)な表情に変わりはなかった。

 ボクはこれはいけるんじゃないか、確信めいたものがあった。


 「ほい、マール味見」

 「わーい、はふはふ! 鳥肉に似ていますけれど、少し硬いでしょうか? でも脂身の美味しさは全然負けていませんねー、熱いっ!」


 ボクは供されたアリゲーターの尻尾(しっぽ)の部位をいただく。

 熱々のお肉は噛めば噛むほど旨味が染み出して、ちょっと高級なお肉を食べている気分だ。


 「ハンペイも、ほら」

 「いや、某は……」

 「うー!」


 魔物飯に拒否感の強いハンペイさんは、躊躇(ためら)うが、妹のカスミさんが「グズグズせずにいけ」と言わんばかり、背中を押す。


 「こんなに美味しいのに、食べないのは勿体ないですよ」

 「治癒術士殿、そなたの事は信じていたのに……!」

 「アタシの主人をゲテモノ食い専門みたいに言うなにゃあ、食い意地が張っているだけにゃあ」

 「うぐ、やっぱりボク悪食(あくじき)かな?」


 悪食は豊穣神の教えに反する。

 何事も食べ過ぎはよくない、豊穣神の教えは恵みを分け合うことの大切さを伝えている。

 ボクはちょっと悪食に寄っているんじゃないかと思うと、鉄板の上で踊るアリゲーターのお肉も食べちゃ駄目なんじゃないかって気がしてきた。

 あぁーでもでも、豊穣神様は、命の大切さも教えている筈!

 奪った命を粗末にしたら豊穣神様に顔向け出来ない。


 「うぅぅ、豊穣神様ボクはどうすればー!?」

 「ほい、マル君、バラ肉はどう?」

 「パクっ! ふわぁ美味しい〜」

 「治癒術士殿がどんどん毒されておる……」

 「アンタも! こっち側に落ちて来なさーい!」


 結局ボクは美味しい誘惑にはちっとも敵わなかった。

 食い意地が張っているなんて、子供みたいで恥ずかしい。

 ハンペイさんはいい加減カスミさんに取り押さえられ、魔女さんは無理矢理その口に油滴るお肉を突っ込む。

 軽く拷問みたいに見えるけれど、魔女さんはケタケタ笑っていた。


 「どーよ、毒味した気分は?」

 「ほぐ……あぁ無情、これが異種族交流なのか……」

 「良いよなぁ、俺彷徨う鎧(リビングアーマー)だから、何も食べられないんだよー?」


 ハンペイさんは世渡りの難しさに嘆いているのに、相変わらず勇者さんったら、ピントのズレたことを。

 だけど何でも真面目に考えるハンペイさんは、勇者さんの言葉に冷静さを取り戻した。


 「そうだな……某もニンジャ、堪え忍ぶのも務め。郷に入らば郷に従いましょう」

 「忍び過ぎて空気にならないように注意しなさい」

 「うー?」


 相変わらず時々意味の分からないことを言うな。

 ハンペイさんが空気になるなんて無理だと思うけれど。

 もしかしてまた【ウ=ス異本】がらみだろうか?


 「ほら、クロちゃんも」

 「にゃあ……しょうがないにゃあ」


 クロは渋々と言った顔で、熱々の焼き肉を「ふーふー」息を吹いて冷まし、パクリとかぶりついた。

 使い魔は主人と契約した時点で、実は殆ど魔力供給だけで生きているんだけど、食べることを忘れたら、猫としての自我が損なわれる恐れがある。

 だから定期的には食事が必要だ。


 「どう? クロ?」

 「まぁまぁにゃあ、これなら食堂の煮干しの方が美味しいにゃあ」


 クロお気に入りの冒険者御用達大衆酒場で廃棄される予定の出汁を取り終えた後の煮干しは、大のお気に入りだ。

 悲しいけれど、グルメを気取って、本当に美味しいお魚を食べたことがないんだよね。

 猫缶もいつも徳用の安いのばっかりだったし。

 あぁ底辺冒険者でごめんね、もっと稼ぎが良くなれば良いもの食べられるのに。


 「ふむ、概ねの評価はこんな感じかしら?」


 そう言って魔女さんは、今回のアリゲーター肉について、地面にこう書き記した。



 『マール:10点 脂身が兎に角絶品、意外と初見さんでも美味しく食べられるんじゃないかな? 食わず嫌いせずに食べて欲しいです』

 『ハンペイ:4点 魔物飯というものを初めて食した。味は申し分ないのだが、如何せん魔物……脳裏に過る姿に、正直ままならん』

 『クロ:5点 不味くはないにゃあ。ただアタシが猫舌って分かってて熱々を差し出したのかにゃあ? 猫差別反対にゃあ!』

 「カスミ:7点 うー」



 「……なにこれ?」

 「魔物飯レビューよ、貴方達の脳裏にある評価を自動で表示するの、今創ったわ」


 まーた、魔女さん、ちょっと変な魔法を開発したらしい。

 魔物飯レビューって……誰が求めているんだ、こんな情報。

 後カスミさんレビューでも『うー』だし。


 「紙にこれを転写して酒場にでも張れば、興味を持つ冒険者も増えないかしら?」

 「カムアジーフ殿正気に戻るでござる! 魔物を食べるのは常識にござらん!」

 「ふんだ、この私が魔物を食べさせられたのよ! 皆落ちてこーい!」


 結局のところ魔女さんの私怨がちょっぴり入った休憩風景。

 ポイズンフロッグの件はやっぱり尾を引いていたかー。

 まぁ、美味しいのがいけない、美味しいのがいけない!

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