第73ターン目 本日の メインデッシュは
「とりあえず、上流まで移動しましょう」
死屍累々の現場、流石にこのままでは血に飢えた魔物の呼び水になってしまうでしょう。
このまま魔物を寄らば斬るとはいかない訳で、ボクの意見は誰も否定しなかった。
「元はといえば魔女が悪いにゃ、ほっとけばこうはならなかったにゃのに」
「うっさいわねグチグチと、あなたお母さんかっ! ちゃんと反省しているわよ」
「どうだかにゃあ……人は何度でも同じ過ちを繰り返すにゃあ」
「どうどう、使い魔殿、もうよそうではないか」
ちょっとギスギスした雰囲気に、ハンペイさんは堪らず待ったをかける。
クロはそんなハンペイさんを睨むと言った。
「やけに魔女の肩ばかり持つにゃあね? 惚れたのかにゃあ?」
「な、そ、某はそんな不埒者では……!?」
ハンペイさんは声を裏返し、顔を真っ赤にしてしどろもどろに戸惑った。
クロは少し気分を良くしたのかケラケラ笑っている。
「もうクロ、ハンペイさんを困らせちゃ駄目だよ?」
「ち、治癒術士殿」
「ハンペイさんが色恋沙汰に興味なんてある訳ないじゃないか! そうですよね?」
「は、はは……はぁ」
ハンペイさんは何せ凄く真面目で、公正な人だ。
常に仲裁役に回って、パーティの規律にも厳しい。
なによりエルフ族の人って、寿命が長いから、ヒト族みたいな恋愛観はないって聞いたことがある。
「アタシの主人ながら、こりゃ駄目にゃあ」
「うー、うー」
あれれ? どうしてカスミさん、何度も頷くのでしょう?
ハンペイさんは苦笑していましたけれど、直ぐにコホンと咳を打つと。
「軽口はそこまでにして、補給をさっさと済ませましょう」
「そうね、その通りだわ」
「わかりました、ここまで上流にくれば大丈夫でしょう」
ある程度上流まで歩いてくると、水も綺麗になっている。
勇者さんはアリゲーターをその場に降ろすと、早速解体に入っていた。
「ふんふんふーん」
「あの、よく見るとその剣錆びているのではないか? その……大丈夫なのでござろうか?」
「ああっ、今は呪われているけど、切れ味は抜群だよー」
「聞きたいことはそうじゃないと思います……あと呪われているとか初耳なんですが」
勇者さんは相変わらずどこかピントがズレている。
包丁があれば良いんだけれど、こればかりは仕方ない。
なるべく洗浄の魔法で安全を確保するべきでしょうね。
「肉質はどう?」
「結構【コカトリス】に似ている気がするー」
「ちょっと硬そうね、火を入れたら筋が硬いかしら?」
「うーん、とりあえずやってみようかー」
「おーしっ、マールいつもの!」
勇者さんと魔女さんはアリゲーターの肉質についてアレコレ。
ボクは料理が出来ないので、黙って従うしかありません。
「豊穣神様、貴方の加護を大地にお恵みください《豊穣》」
サバンナの大地に豊穣神様の加護が巡ると、ボクの足元から変化は起きた。
色とりどりの花が咲き乱れ、辺り一面が花畑になってしまう。
「うわぁ綺麗……こんなの初めてかも」
「相変わらず治癒術士殿のその魔法は凄まじいな」
自然をこよなく愛するエルフ族には、豊穣は受けが良い。
ダンジョンでは使う度驚くような光景が多いけれど、今回は一番圧巻かも。
「うー」
「ははは、カスミも気に入ったか」
カスミさんは、その場にしゃがみ込むと優しく花々を撫でた。
キョンシーになっても、エルフ族の矜持が残っている証だろうか。
「うーん、使えそうな素材は〜」
一方、花より団子とでも言うように、魔女さんは利用できそうな素材を探している。
植物に関してはボクよりもずっと詳しく、魔女さんの薀蓄は楽しくもある。
今回は何が発見できるだろうか。
「駄目ねぇ、良いのが見当たらないわ……ん?」
「どうしたにゃあ?」
「この葉っぱ見覚えあるわ……たしかこいつは地中に出来る根っこが」
魔女さんはある植物の茎を思いっきり引っ張った。
だけど魔女さんは「うーん!」と唸っても、植物は手強い。
「これは芋か、手伝いましょう!」
「それじゃあボクも」
「うー」
ボク達は魔女さんに加勢すると、なんとか地中にあった芋を取り出す。
取り出された芋は根っこに丸くて茶色い芋がいっぱい付いていた。
「うーむ、これはバレイショか?」
「間違いないジャガイモよ」
「うーん、ボクの知っている芋とも違いますね」
今回の収穫はジャガイモというお芋くらいでしょうか。
だけど魔女さんはこれでも上出来と思っていそう。
早速ジャガイモを川の水で洗うと、綺麗な表面が現れる。
「お芋なら蒸して食べるのでしょうか?」
この周辺地域では、よく蒸かし芋が供される。
逆に言うと、あまり芋は美味しいものじゃない。
殆どは家畜の飼料として使われるくらいだし。
ボクもあんまり期待はしてないなぁ。
いわゆる貧乏食の代表だもんな。
「これは期待しても良いわよ」
「えっ?」
魔女さんはいくつかジャガイモを手元に残すと、余った大部分は魔法の鞄に仕舞った。
ボクは勇者さんを見ると、勇者さんはすでにあらかた解体を終えた後であった。
「おーし、ちょっくら用意してみるか!」
今回も料理長は魔女さんのようだ。
勇者さんはやる気だけは凄いけれど、出来るのはいつも直火焼きだもんな。
ボクやクロは論外、察するにハンペイさんも同様だろう。
「竈神の加護持ちがいれば事情は変わるのですけれどね」
「贅沢な悩みであろう治癒術士殿、竈神の加護持ちはそれこそ家庭が戦場であろう」
キッチンを司る竈の神の子らは、それぞれが高いレベルの料理スキルや清掃スキルを持つ。
だがその特性故に大半は食堂のような場所に勤務するのが常だ。
美味しい料理の店の店主が竈神の信徒なんて、ジョークに使われるレベルだ。
「よーし、じゃあちょっと気合入れますか!」




