第69ターン目 再結成 パーティは 問題だらけ?
ダンジョン第一層【表層エリア】、その中は明るく、魔草や魔石が至るところから生えている。
いわゆる低ランクと言われる魔物しか生息しておらず、多くの冒険者はここでレベルを上げることになる。
ボク達はダンジョンに突入すると、魔物の姿を確認しようとした。
「とりあえず……打ち止めかしら?」
ダンジョン内は不自然に静かであった。
それは魔物が皆いなくなっていたからだ。
「地上は大混乱だったねー」
「にゃあ、無理もないにゃ、その代わりダンジョン内が静かって、皮肉にゃあね」
皮肉だけど、無駄な戦闘は避けたい以上、これはありがたいことだ。
ボクは改めて皆を見る。
「皆さん、ボクはこのダンジョンを制覇します。どうかこの冒険に力を貸してください」
「俺はモチのロンだよー、マル君が下を目指すなら望むところさ」
「アタシは使い魔にゃあ、地獄だろうがダンジョンの深層だろうが付いて行くだけにゃあ」
「まっ、今更よねー。私の命、マールに預けるわ」
「うー」
ボクは拳を突き出すと、そこに勇者さん、魔女さん、カスミさん、クロと載せていく。
最後に一人、後ろで神妙な顔でこちらを見ていたクースさんがいた。
「治癒術士殿……某、治癒術士殿に教えていないことがあります」
「教えていないこと?」
「某斥候ではござらん。名前も偽名。某は主たる将軍様の命に従い、ダンジョンの調査をするニンジャであります」
「ワーオ、ニンジャって言ったよ、ニンジャってー!」
勇者さんは驚いたようにクースさんを指差す。
ボクは勇者さんを軽く諌めると、クースさんを真剣に見た。
クースさんが偽名でニンジャ?
クースさんは神妙な顔のまま、ボクに秘密を次々と暴露していく。
「某本当の名はハンペイ、クスノキ家長男ハンペイです。ニンジャとは身分を隠し影として諜報を行う者であります」
「それじゃあ、ボク達とパーティを組んでいたのは」
「身分的に怪しまれず将軍の命令と、カスミの捜索を一度に出来るとあれば、それが目的でした」
「うー……」
カスミさんは、少し複雑そうかな?
もしかしたらあまり家の事情はカスミさんによくないのかも。
「もし、許されるならば、某も仲間に加えてくださらぬか」
「なーに遠慮してんのよ、来たいならハッキリ来たいって言いなさいよ!」
「え、あ……も、申し訳ござらん! 是非ご同行お赦し下さいませ!」
「クースさん、いえハンペイさんですか。こちらこそよろしくお願いしますね」
ボクは笑顔でハンペイさんに拳を向けた。
ハンペイさんは、少し照れくさそうにボクに拳を合わせる。
これで皆仲間だね。
「それじゃあ直ぐに第二層を目指しましょう」
「よーし、改めてダンジョン攻略行っくぞー!」
パーティはいつもどおり勇者さんを先頭にボク、カスミさん、魔女さんと付いて行く。
一番後ろになったのはハンペイさんだ。
「あの、魔女殿」
「私の名前はカムアジーフよ、まぁ好きな呼び方でいいわ」
「ではカムアジーフ殿、先程は申し訳ござらん」
「なにがよ? 勿体ぶるのが趣味な訳?」
「い、いえいえ! 決してそんなことは……ただ、照れくさく」
「照れてちゃ本当の仲間って言えないでしょう? 胸を張りなさい、男でしょーが!」
「う、うむ! よろしく頼む!」
ボクは後ろをチラチラ覗きながら、クスリと微笑んだ。
「カスミさんのお兄さん、奥手なんですね」
「うーうー」
恥ずかしい兄の姿にまるで悶絶するように、頭を下げるカスミさん。
僅かに残った自我に、羞恥心は残っているのかも。
「魔女カムアジーフか、なんと素敵な女性だ」
ただ、この呟きさえ聞かなかったら。
§
ダンジョン第二層、通称【岩窟エリア】。
第一層と似た構造をしているが、こちらの方が僅かに薄暗く、時々道も狭まっていたりするエリアだ。
初心者は大抵ここで洗礼を浴びる。
【ゾーンイーター】を踏んで、痛い目にあったのは懐かしい記憶だ。
「ここまで魔物はなしだね」
「ですが、あまり動かない魔物ならいるかも知れません」
「そだねー、食料は現地調達する必要があるし」
「ん? ちょっと待て……現地調達?」
ハンペイさんは、顎に手を当てると眉を顰めて質問した。
ボクは諦めた顔で、ハンペイさんにこれから起きる地獄を説明する。
「ボクがどうやって数日もの間、ダンジョンで生き抜いたと思います?」
「な、何故だと……まさか治癒術士殿?」
「魔物を、食べてなんとか凌いだんですよ?」
その瞬間、あのハンペイさんが信じられないという絶叫の表情で沈黙してしまった。
あまりの衝撃に心ここに非ずという雰囲気、同情して魔女さんは、肩を叩いた。
「最初はそんなもんよ、なぁにその内慣れるわ」
「慣れ……! か、カムアジーフ殿ほどの方が仰るならまぁ」
まぁ魔女さんも結構食わず嫌いですけどねー、とは言えなかった。
一番の食わず嫌いは間違いなくクロだけれど、魔女さんもどちらかというと偏食だ。
「治癒術士殿、質問なのだが魔物は美味いのか?」
「……結構美味しいですよ?」
「ううむ? しかし……うーん」
ハンペイさん、物凄く難しい顔をして苦悶していた。
ボクも【ポイズンフロッグ】を食わされた時は、同じような顔をしていたのかな?
まぁなんだかんだ慣れたらあんまり気にならなくなったし、コカトリスの唐揚げは凄く美味しかったっけ。
「まぁ魔物以外も、手に入るから安心しなさい」
そう言うと魔女さんは、お手製魔法バッグから、バナナを取り出した。
あっ、バナナまだ残っていたんだ。
あれ甘くて美味しいんだよね。
ハンペイさんはバナナを見ると驚いていた。
「おお、バナナでござらんか、懐かしいですなぁ」
「やっぱりハンペイさんの出身の野菜なんですか?」
以前カスミさんが迷わずバナナを取っていた。
もし同郷ならきっと意味があるんだろう。
「いいや、故郷には自生していないが、輸入品で毎月届いていた」
「そうなんですね、羨ましいなぁ」
「こちらではバナナは流通してないですからなぁ」
こっちで近いのはリンゴかイチゴだろうか。
でもどっちも酸味があるし、バナナは酸味がないから不思議なんだよね。
「そういえばエルフ族って菜食主義って本当なの?」
ふとした疑問に、魔女さんはすぐ質問する。
菜食主義、エルフ族はしばしば肉を食べないという。
それが種族全体なのか、一地方の習慣なのか、ボクも知らない。
「あぁ、戒律もあって肉食は推奨されないが、鳥や魚なら食うぞ」
「カスミさん、【タイラントワーム】のステーキ美味しそうに食べてましたね」
ピシッとまたハンペイさんが石のように表情を固めた。
しまった、これもちょっとお兄さんには刺激が強かっただろうか。
だけどハンペイさんの反応はちょっと違った。
「カスミ……お前本当に自由な女だな、だから婿も見つからずだな」
「うー!」
ドゴッ、と嫌な音がするパンチがハンペイさんの顎を捉えた。
クリーンヒットしたパンチに、膝から崩れ落ちるハンペイさん。
クロは呆れてこう言った。
「TKOにゃあ」
「女の子の気持ちの分からない男って最低よねー」
「う、うぐ……そ、某が悪いのか……?」
「うー」
プイっと顔を背けるカスミさん。
どうやらハンペイさんは、女心が分からない人のようだ。
「女性って難しいですよ、ハンペイさん」
「うぐぐ、治癒術士殿には分かるのか?」
ボクはハンペイさんを魔法で治療しながら首を横に振った。
「いいえ、全然分かりません」
魔女さんは【ウ=ス異本】に毒されて、ボクのお○ん○んに興味津々だし、カスミさんはいつの間にかボクをイケない世界に誘い込んでくるし、まったく理解出来ないよ。
あぁ男って本当に辛いね。




