表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

69/217

第64ターン目 詰問 なにが悪なのか

 「ふにゃああん。それであの熊は?」

 「クロ、人を熊扱いはちょっと」

 「ククク、旦那は人族だが、熊獣人にも匹敵する膂力(りょりょく)の持ち主でさぁ」


 熊扱いに笑っている兎獣人のラビオさん、やっぱり熊扱いなんだ。

 ギュータさんは若い子を連れて、ギルド併設の喫茶店の方に行っていた。


 「旦那ならギルド(マスター)のところでしょう」


 そういえばこの人達はレッドドラゴンの調査でダンジョンに(もぐ)っていたんだっけ。

 結局は確認された第四層に向かう前に、ボク達と遭遇、魔女さんの自作自演に巻き込まれて地上まで戻って来たんだ。

 多分魔女さんのことも報告されているよね。


 「ここに治癒術士のマールという人物はいるかね?」


 ふと、上から白髪の目立つ初老の男性がボクを呼んでいた。

 ボクは手を上げて、返事をする。


 「ボクがマールです!」

 「ふむ、君か」


 二階から見下ろされると、その眼光にドキリとした。

 なんだろう、あの鷹が蛇を射抜くような眼光は。


 「二階に来てもらえるかね?」

 「あっはい、直ぐに行きます」


 ボクは直ぐに階段を上り、男性の前に向かう。

 男性は二階にある部屋の扉を開くと、やんわり手を振っていた。


 「いや良かった、ちゃんと来てくれて」

 「えと?」

 「ああいや、とりあえず中に入って座り給え」


 男性の後ろをついて行く、中は貴賓室だろうか。

 窓からは陽光が程よく部屋全体を照らし、上等な絨毯に、よく磨かれた机、大きなソファーが設置されている。

 部屋の奥にはもう一人男性がいた。

 こちらも白髪の老人という雰囲気。

 眼鏡をしており、身体はそんなに(きた)えて無さそうだ。

 大人しく座ると、ボクを招いた方の男性はパンと手を叩いた。

 ボクはビックリすると、彼は話し出す。


 「まずは自己紹介が必要だね、私はギルド長ワライだ」

 「ふん、ワシはこの街の執政官イカリオじゃ」

 「ギルド長と執政官……あっ、ボクはマールと言います。冒険者で職業は治癒術士です」


 うんうん、ギルド長ワライは笑顔で頷いていた。

 この人はなんていうか優しい雰囲気だけれど、どこか凄みがある。

 一方で執政官イカリオは、あまりボクを快く思っていなさそうだ。

 ともかく、ボクは姿勢を正して次に言葉を待った。


 「君がレッドドラゴンと遭遇したのは本当だね?」

 「はい、それで仲間と逸れて」

 「うんうん、よく生きて帰ってくれた」

 「……怪しいものだな、こんな小さな子供がダンジョンでだと?」


 反応は実に対照的だ。

 ワライさんはボクの生還を喜び、イカリオさんはそもそも疑っている。


 「それでレッドドラゴンはどこにいるか分かるかな?」

 「それは……第四層で遭遇しただけで」


 崩落した穴から第七層に落ちたのだ。

 もう一度第四層に戻る頃にはレッドドラゴンの姿は見当たらなかった。


 「うーん、先に報告された情報と同じか」

 「そもそもだ、本当にレッドドラゴンだったのか? 勘違いではないのか?」


 二人は情報を精査するため、二人で論議していた。

 ボクの記憶、あの噎せ返るような硫黄(いおう)の臭い、レッドドラゴンのブレスは忘れられない。


 「第四層の構造は頑丈です。ボクはレッドドラゴンが空けた穴に落ちて難を逃れました」

 「大魔法でもそうそう傷付かないダンジョンをか」

 「むぅ、事実としてこの小僧はどうやって生還した? 運だけでは説明出来ないぞ」


 二人もドラゴンが如何(いか)に異次元な力を持つか知っているだろう。

 第四層の床を破壊するなんて、ドラゴンでもなければ出来ない。

 だけど、どうもイカリオさんの視線はまだボクを厳しく睨んでいた。

 なんだろう、疑われている?


 「もう一つ質問いいかな? 君は怪しい青肌の魔女と一緒に第三層まで上ってきたのか?」

 「っ、魔女さんは悪い魔物じゃありません! ボクを地上に帰してくれる為に一緒に冒険した仲間です!」

 「仲間だと? 貴様魔物と内通しているのか?」

 「内通だなんて、取り消してください! 魔女さんは誰も傷つけてはいません!」


 ボクはダンッと机を両手で叩いた。

 だけどボクがいくら声を荒げてもこの二人の心に波風など立つはずもない。

 むしろ胡乱(うろん)げな視線は増々強まっている。

 いけない、感情的になったって何になる。

 ここにクロがいるなら、ボクを諌めていた筈だ。


 「君は魔女に脅されて地上まで案内されたんじゃないかい?」

 「逆です、魔女さんはボクを何度も助けてくれました」

 「ふん……どうだかな、子供の話は信用出来んぞ」

 「……っ」

 「重要なのは、こいつが地上に戻って来たこと。ドラゴンが上層に出現したこと、人語を流暢に使う魔女が出現したこと」


 イカリオは指を一本ずつ持ち上げていく。

 三本指を広げると、ボクを鋭い眼光で射抜いた。

 ボクは負けじと、唇を噛む。


 「ワシはコイツが一番怪しいと思うぞ」

 「なっ、ボクを疑うんですか……どうして?」

 「理由は簡単だ、魔物を連れていたというだけで、それを怪しむのは当然であろう」

 「キョンシーと言ったか? 人は襲わんそうだが、アンデット種を地上に連れてきたそうだな?」


 既にカスミさんの事まで掴んでいるのか。

 おそらくあの熊みたいな人が教えたのだろう。


 「本当にゾンビの(たぐい)が人を襲わんのか?」

 「実際大人しいものだったと、奴も言っていたろう?」


 熊の人は、最初こそ怪しんでいたけれど、クースさんの妹と知ったし、なにより大人しかったことを、つぶさに説明してくれたみたいだ。

 このことは熊の人に感謝しないと、今度なにかお礼をしなくちゃ。


 「君は【魔物使い】か?」

 「ボクは治癒術士ですよ、豊穣神の加護を持つ信徒です」

 「であろうな、魔物を従わす方法など検討もつかんわ」

 「ですが、人に協力的な魔物もいます。魔物には人が転生した者もいるんですから」

 「おいワライ、あれは都市伝説だろう?」

 「【ゾンビ】や【ゴースト】が定番ですな」


 駄目だ、二人共信じていない。

 魔女カムアジーフは、今より(はる)か昔を生きた大魔女だという。

 ボクは彼女が泣いて、怒って、悲しんで、いっぱい笑う姿を思いだす。

 あんな魔物が(ほか)にいるものか。


 「現実、近頃ダンジョンに異変がある……」

 「それって……」

 「ダンジョンの上層でレッドドラゴンが現れたのもそうだが、上層に強力な魔物の出現が相次いでいる」

 「頭の痛いことだ、公爵様に知られればきっと哀しまれるだろう」


 ダンジョンの魔物の分布が変わってきている?

 そういえば、第五層から第四層にかけての螺旋階段で、大量の【スプライト】は珍しい光景だった。

 第四層で、激レアと言われている【時計バニー】を目撃した後、あの【タイラントパイソン】は正にイレギュラーだった。

 そもそも第四層にあんな大蛇の化け物がいるなんて聞いたこともない。

 【メガゾンビ】や【幽霊船】も、もしかしたらその前触れだったのか?


 「結論を言おう。君には魔物を地上に扇動した疑惑がある」


 ワライが席を立ち上がる。

 その顔は鋭い眼光でボクを完全に疑っていた。


 「そんな、ボクにそんなこと出来る訳がないじゃないですか!」

 「どうだかな? 魔物と一緒にいた事実、貴様が人間であるとどう証明する?」

 「証明ですって……?」

 「本当は深層から帰還した貴重な冒険者は大切にしたいんだけどさ、こっちもピリピリしているの」

 「ワライ、その子供を拘束しろ」

 「ごめんな、マール君、恨むならこの世を恨んでくれ」


 ワライさんが動く、ボクは動けなかった。

 ストン、ボクの首にワライさんの手刀が突き刺さる。

 ボクは一瞬で意識を昏倒させた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ