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第62ターン目 再会 エルフ族の兄弟

 ボク達は一目散に階段を駆け上がった。

 体力の無いボクは付いて行くのもやっとだけれど、それをキョンシーさんは後ろから支えてくれる。

 二層階段は魔物(モンスター)もおらず、ここまでの敵は全て同行する中堅冒険者の皆さんが倒したのだろう。


 「はぁ、はぁ!」

 「よし、ここまで来ればもう大丈夫だろう、ベースキャンプまで戻るぞ」


 熊のような大男はそう言うと、皆さんを鼓舞する。

 この中で息が切れているのはボクだけ、ボクは体力の無さが恨めしかった。


 「よぉ嬢ちゃん、さっきはありがとうな、中々ガッツのある嬢ちゃんだぜ」

 「はえ? い、一体なんのことでしょうか?」


 そもそもボクは嬢ちゃんなどではないのだけれど。

 兎獣人さん、たしかラビオさんだっけ。

 彼は本当に感謝しているみたい、でも一体なんの事だろう?


 「あの凶悪な魔女にやられそうになった時、年甲斐もなくビビっちまっただろ? それを叱ってくれたじゃねぇか?」

 「えっ、あぁ……」


 あれは大人の男性にしては、あまりにみっともないと思ったから。

 それと……あれだな、魔女さんと同レベルか、それよりやばい魔物と何度も戦った性だろう。

 ギガゾンビ、幽霊船、モンスターハウスにタイラントパイソン。

 皆命懸け、誰も失わなかったことが奇跡とさえ思えてくる。

 だからきっと修羅場慣れなんでしょうね。

 ボクは実力は伴わなかったけれど、ダンジョンの深層の怖さを知ることが出来た。


 「兎はよぉ、受けた恩義は必ず返せって、先祖からずっと言われているんだ」

 「そうなのですか?」

 「あぁ、嬢ちゃん、なんか困った事があれば、このラビオ様を頼りな!」


 ラビオさんはすっごいむさ苦しい笑顔で、サムズアップした。

 なんというか……頼れるような、頼れないような。

 中級ってことは実力はあるんでしょうけれど、なんでこんなに不審に思っちゃうんでしょうか。

 多分この人、いざ強敵を相手にしたら何も出来ないなという確信だろうか。


 「あっ、修正したいことがあるのですが」

 「おい旦那だ、旦那が帰ってきたぞ!」


 突然進路の先から若い男性の声があった。

 ボクは言葉を中断し、そちらを振り向くと小さなキャンプ場が築かれており、そこには三人の冒険者がいる。

 まず声をかけてきたのは若い少年冒険者で、腰に剣を差している。

 その後ろに教会の修道服を纏った少女が、こちらは治癒術士(ヒーラー)か。

 ボクのちょっと苦手な教会治癒術士だ。

 そして最後、一番後ろで腕組みしていた背の高いエルフ族の男性……え?


 「クース、さん?」


 ボクはまさかの人物との再会に驚愕した。

 どんな顔をすればいいかも分からず、ただ間抜け面をしていると。


 「その声……治癒術士殿、無事であったか!」

 「やっぱりクースさんじゃないですかっ、どうしてここに!?」

 「治癒術士殿を救助する為、(それがし)この一行に同行を志願したのです」

 「ガデスとネイはどうしたんです?」

 「あの二人は冒険者ギルドに事の詳細を伝えた後、動こうとはしなかったのだ。某は義によって治癒術士殿を見捨てる訳にはいきません」


 ボクはあれからちっとも変わっていないクースさんになんだか目頭が熱くなってきた。

 エルフ族は義に篤いと言われるけれど、この人は特別そういう義理堅い男の中の男だ。


 「にゃあ、やっぱりクースは男前にゃあね」

 「おおっ、使い魔殿も無事であったか。某などこの程度……褒められたものではない」

 「謙遜する姿も格好良いですね」


 久しく会った旧友との談笑、ボクは少しだけ楽しかった。

 魔女さん達と別れて、すごく気が重くて、ボク自身どうしていいかわからず。

 でもクースさんと再会すると、少しだけ元気が湧いてくる。

 またこの人と冒険出来るかも知れないと。


 「なんだクース、お前この嬢ちゃんと知り合いだったのか?」

 「うむ、(くだん)の赤き竜に襲われた少年だ」

 「あっ? 少年?」

 「あはは」


 とりあえず苦笑いしておく。

 大男と兎獣人の二人はともに、素っ頓狂な顔で驚いていた。

 そんなにボクは女の子に見えるのか。

 ボクもクースさんみたいな格好良い男性になりたいなぁ。


 「それにしても治癒術士殿、よくぞご無事で」

 「うん、話せば長くなるけどね」

 「どうやって生き延びたのです? 是非お聞かせを」


 クースさんの意見もわかる。

 ボクみたいな臆病で貧弱な治癒術士が生き伸びれる訳がない。

 ボクはまずレッドドラゴンの空けた穴に落ちて第七層まで墜落したこと。

 そこで【彷徨う鎧(リビングアーマー)】、の自称勇者さんに助けられたこと。

 その後【時の大魔女】カムアジーフさんと出会い、共に地上脱出を目指したこと。


 「なんと、それは誠なのか?」

 「嘘じゃありません、本当にボクは助けられたんです」

 「いや君が嘘をつく筈がない、疑って済まない。信じよう」


 にわかには疑われて当然だ。

 勇者さんや魔女さんのような魔物を探して、どれほどいる?

 冒険者としてダンジョンに潜れば嫌だって理解することだ。

 魔物とはわかりあえないと。

 それでもボクは出会ってしまった。


 「それに途中でエルフ族の女性キョンシーを保護して」

 「エルフ族の女性?」

 「えと、キョンシーさん、こっちに来てくれませんか?」

 「うー」


 ボクが呼ぶと、キョンシーさんは直ぐに駆け寄ってきた。

 クースさんとキョンシーさん、やっぱり同じ種族だからか似ているなぁ。

 どっちも高身長で美形だからかな?


 「っ!? ち、治癒術士殿! この娘はどこで!?」

 「えと、第六層で、出会った時には既にキョンシー化していて」


 ついでにボクはキョンシーについても説明する。

 キョンシーはアンデット種の一部だけど、大人しく人は襲わないことと、蘇生が可能ということだ。

 一連の話を聞くとクースさんは突然大粒の涙を流す。

 ボクはギョッとした、一体なにがあったのか。


 「治癒術士殿、誠に感謝致します……!」

 「え、えと? 意味がわかりません」

 「某冒険者となってダンジョン街に訪れたのは、先に冒険者となった妹を探す為でした。間違いありません、この娘はカスミです」

 「うー……」


 キョンシーさんが反応した。

 キョンシーさんの正体はクースさんの妹カスミさん?

 なんだかとっても不思議な縁、でも縁はこうやってクースさん兄弟を結びつけたんだ。


 「あぁ、片耳が欠けて、すまぬカスミよ」

 「うー」


 ベチン!

 突然カスミさんはお兄さんの頬を(はた)いた。それも結構強めに。

 思わず仰け反るクースさん、訳もわからず頬を擦ると、カスミさんを呆然と見た。


 「カスミ……なぜ」

 「うー」

 「クース、今のはデリカシーがなかったんじゃないかにゃあ?」

 「で、デリカシーだと!? 詳しく使い魔殿!」


 カスミさんはそっぽを向く。

 もしかして耳に触れて欲しくなかった。


 「あっ、そういえばエルフ族って、耳が性感帯って」


 どこかで聞いた話だが、エルフ族は耳に触れられたりするのが恥ずかしいと聞いたことがある。

 長耳を誇っている反面、迂闊に触れると羞恥心で取り乱すという。

 あー、さっき途中で欠けた右耳に触れようとしてた、だからか……ん?


 「ボク、初対面の時に耳触れなかったっけ? あれ……?」

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