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第59ターン目 バナナは 甘くて 美味しいようだ

 「はあぁぁぁ……っ!」


 魔女さんの深い溜息(ためいき)、それもこれも全部魔女さんが悪い。

 ボク達はアーミーアントの大群の対処に時間を取られ、アーミーアントを全滅させる頃には、空が茜色に変わりはじめていた。

 ここ【ジャングルエリア】は昼夜の概念があるのが特徴で、天井にびっしり張り付いた魔石は急激に光を変質させていく。


 「うざい! 蟻ん子の癖にうざい!」

 「もうアーミーアントいないー? 一匹でもいたら駆除だからねー?」

 「にゃあ、お腹すいたにゃあ」


 河沿いは死屍累々のアーミーアントの残骸で埋め尽くされている。

 既に生きているアーミーアントはいないと思うけれど、あの蟻さん執念深いんだよね。

 自分達の死体の下に隠れて突然襲ってきたり、特に夜は活動を活発化させるから、すぐに離れたい。


 「元はといえばカム君がちょっかい出さなければ、こんなに時間取られなかったのに」

 「だからそれはもう謝ったじゃない! 一々過去を蒸し返さないで!」

 「失敗は成功の母と言いますが、失敗を繰り返しては愚か者でしょう、魔女さん?」

 「ひう! マールが笑顔で怒るのが一番怖いわ! もう二度としませんわーっ!」


 もう、別に怒ってないんだけどなぁ。

 そんなにボクって怒っているように見えるんでしょうか。

 魔女さん、ちょっと短絡的なところは改善しないといけないですねぇ。


 「【大地の根】を目指しましょう」

 「そだねー、そうしようー!」

 「にゃあ、今日中にはちょっと辿り着かなそうだけどにゃあ」

 「クロまで……はいはい、私が全部悪いですよーだ」

 「魔女さんの言ですが、蒸し返すのは止めましょう。ただ改善を心掛けましょうね」


 ボクはパンと手を叩いて、その話題を終わらせる。

 冒険にアクシデントなんて付き物だ。

 毎日違う魔物が現れて、予想外の難敵に苦戦したりして、順風満帆(じゅんぷうまんぱん)なんてありえない。

 そんな難敵も、罠も乗り越えてこそ、ボクらは冒険者なんだ。


 「ところでマル君ー、なんであの大きな樹を目指すのー?」

 「目印になるんです。このエリアに来た冒険者はまず【大地の根】を目指し、そこから目的地に向かいます」


 逆に言えば、【大地の根】にさえ辿り着けば、階段の位置が判明する。

 冒険の基本はまず《マッピング》であろう。

 地図があればより楽なんだけれど、地図って高価なんだよね。

 だからパーティによっては地図士(マッパー)を入れていることもある。

 交易神の加護持ちだと、【自動地図作成(オートマッピング)】っていうスキルを持っている人がいるって聞いたっけ。

 ボクは豊穣神の加護だし、流石に地図は無理だなぁ。


 「ねぇねぇマール、ここで豊穣(ハーヴェスト)使ったら、何が()るのかしら?」

 「にゃあ魔女は豊穣(ハーヴェスト)の魔法が大好きにゃあね」

 「だってー、ありえないじゃない。どこでも植物が生えてくるなんて」

 「魔女さんの魔法もボクからしたらありえないの連続ですけどね」


 結局出来ないことが羨ましいのだ。

 隣の芝生は青く見える、そういうことでしょうね。


 「まぁ暗くなる前にやっておこうか、《豊穣(ハーヴェスト)》」


 ボクは錫杖を握り、豊穣神様に祈りを捧げる。

 豊穣神様固有であり、自身の名を冠する魔法、豊穣神様の加護は密林に豊穣を(もたら)した。

 

 「うー」

 「キョンシーさん?」


 密林は元々生命力が溢れている。

 けれど、木々が栄養を奪い合っており、全体的に栄養不足のようだ。

 そこに豊穣神様の加護が齎されると、密林は一気に育ちだす。

 その中から、色取り取りの花が咲き誇り、見覚えのない植物から実が生っていく。

 キョンシーさんは、大きな葉っぱから生えたまるで釣り針のように反った黄色い実を取ってくると、ボクに差し出してきた。


 「なにこれ?」

 「うー」

 「キョンシー、食べろって言っているにゃあ?」

 「ふーむ、どう食べればいいんだろうー?」


 とりあえず手に持ってみると、そんなに硬くないね。

 あと、なんだか凄く甘い臭いがする。

 表面の皮を剥ぐと、中からは真っ白い実が出てきた。

 うーん、これは果実かな?

 とりあえず一口食べてみると。


 「甘い、街で売っているリンゴよりも甘い!」

 「へー、俺口が無いから羨ましいなぁー」

 「キョンシーさん、これなにか知っているんですか?」

 「うー」


 キョンシーさんはコクリと頷く。

 ということは、エルフの森にはこの黄色い果実が一杯生えているんでしょうか。

 一房で何十本も実が生っており、これはかなり上等な果実になるんじゃないだろうか。

 気が付くと一本まるまる食べちゃったよ。


 「あれ、そう言えば魔女さんは?」


 魔女さんは、一人だけ全く別の植物に注目していた。

 ボクは魔女さんに近寄ると、魔女さんは振り返る。


 「あらマール、口元が汚れているわ」

 「えっ? 本当ですか?」

 「ふふっ、バナナは当りね」

 「この黄色い果実を知っているんですか?」

 「熱帯……まぁ暑い地域で栽培されている筈よ」


 黄色い果実、バナナは暑い国で栽培されているのか。

 だとしたらキョンシーさんは、そういう熱帯の国出身なのかな?


 「魔女さんは何を?」

 「ふふっ、これなーんだ?」


 そう言って魔女さんが、木から生る物をブチッと千切ると、両手に持ってボクに見せた。

 大きさは丸くなったクロくらいある。

 乾燥したようなバナナとはまるで違う表皮。


 「種……ですか?」

 「種といえば種ね、貴方が食べたバナナだって種よ?」

 「えっ?」

 「そもそも植物学的にはバナナって、野菜よ?」

 「ええーっ!?」


 ボクは二度驚く。

 世の中には奇想天外な植物って一杯あるんだなぁ。


 「あのだとしたらそれは何の種ですか?」

 「カカオよ、別名神の食べ物(テロスベローナ)

 「なんだか凄い名前が付いているんですね……」

 「神といっても、どこの神だか分かんないけどね、ただとっても貴重な種よ」

 「何に使うんですか?」


 なんだか悪どく笑う魔女さんに、ボクはちょっと不安な気持ちになった。

 魔物やダンジョンの雑学以外なら、なんでも出てくる魔女さん、一体なにを考えているだろう。


 「ふふーん、あっ、ついでにサトウキビも貰っておきましょう!」


 魔女さんはボクの質問に答えることはなく、別の植物の下に向かった。

 密林ではまた、全く違う植生に、魔女さんは誰よりも楽しんでいるみたい。

 勇者さんとは違う意味で、知的好奇心の赴くままに生きる魔物(ひと)だ。


 「もぐもぐ、お願いですから変な薬作ったりしないでくださいよ? もぐもぐ」


 気がつくとボクはバナナをもう一房食べていた。

 うぅ、これ本当に美味しい、食べやすくてついつい。

 もしかしてボクって、食い意地張ってる?

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