第6ターン目 魔女が 勝手に 仲間になった
「えっ、何を言っているのー?」
彼は呆けた(?)顔で、首を傾げた。
鎧の悪魔。正気を取り戻した魔女はそう言った。
ボクはオロオロと二人を交互に見る。
「にゃああああん、とりあえず道を通してもらいましょうにゃあ」
クロは大きな欠伸をすると、通路の先を促した。
激しい戦闘の跡が刻まれたダンジョンの通路、改めて魔女の恐ろしさを痛感する。
「そ、そうだね……勇者さん今は地上を……」
「ちょっと! この鎧の悪魔を連れて行く気!?」
ぐいっと、魔女に首根っこを掴まれる。
「ぐえっ」と首を締められたボクは悲鳴を上げた。
「いいキミ! この鎧の悪魔はこの辺り一帯を実質支配するやばい魔物なのよっ」
「だからー???」
自称勇者さんは、両腕を組むとイライラしたように足踏みした。
彼がこの階層の【支配者】?
確かに物凄く怪しいけれど、でもそれを言ったら……。
「魔女さん、その言葉ブーメランですよ」
「なっ!? この大魔導師を魔物扱いですってー!?」
「なに驚いているんだろうー?」
驚愕、上半身を仰け反らせすごい表情を貼り付けながら、彼女は更にまくしたてる。
「いい君!? 君の前にいるのは大魔女にして大魔導師カムアジーフよっ!」
「……どなた?」
さっぱり知らない名前だった。
鎧の彼なんか、もうガシャガシャ煩い音を立てて頭を掻いている。
少しは落ち着きなさいとは思っていたけれど、ここまでイライラしているとは。
魔女さんは地団駄を踏んで、上半身を仰け反らせた。
こっちも大概、鬱陶しいなぁ。
「キィィィィィィ! ど、どうなっているのよ……私が残した功績は優に数百年の魔法界の歴史を塗り替える偉業だってある筈なのに」
「ねぇマル君、彼女何を言っているのかなー?」
「えと、話が合わないですね?」
「マル君ー、ていうかさー?」
「ねぇ君! 今何年!? アルトリウス歴何年かしら!?」
なにやらブツブツ言っていたかと思うと、魔女カムアジーフさんは暦を聞いてきた。
だけど、それは聞き馴染みのない暦で。
「何を言っているにゃあ、ふにゃああああん! 今はゴリグレウス歴にゃあ」
クロは力を使い果たした反動でとても眠そうだ。
ボクはそんなクロを優しく腕に抱くと、クロは安らかに寝息を立てた。
「ゴリグレウス歴? なにそれ知らない……そうか、もう私の功績も忘れられるほど時代が過ぎたのか……けれど、それなら妙ね……私はもう死んでいる筈なのにどうしてそんな遠い未来に蘇ったの?」
「マル君マル君!」
「ど、どうしたんです勇者さん?」
もう我慢の限界というように、勇者さんはボクの肩を両手で揺らす。
馬鹿力があるのか、掴まれた肩がちょっと痛い。
このエリアの支配者っていうのも、ちょっと納得かも。
「だーかーらー、彼女の言葉全然分かんないよー! 翻訳して!」
「……はい?」
「あーもううっさいわよ! 鎧の悪魔、私に分る言語を少しは使え!」
「えっ?」
ボクはすっごい不満そうな勇者さんと、考え事を邪魔されてキレる魔女さんを交互に見る。
えと、これって……つまり。
「勇者さん、彼女の言葉分からないんですか?」
「最初からそう言っているってー、てかなんでマル君は分るの?」
なんでと言われても……どうしてなんでしょう……かね?
ううーん、駄目だ。まったく心当たりがない。
「もしかしてキミ、鎧の悪魔の言葉が理解できるの?」
一方こっちもだ。
そもそもどうして魔物の言葉がこうもはっきり理解のでしょう?
やっぱり落下の衝撃で頭をやっちゃったのかな?
それとも実はボク、もう死んで魔物に生まれ変わっちゃったんだろうか?
ダンジョンで常々怖い噂といえば、ダンジョンで死んだ者は魔物に生まれ変わるという噂がある。
まさかね、ボクは乾いた笑いを浮かべた。
「あのとりあえず自己紹介を、ボクはマール、しがない治癒術士の冒険者です」
改めてボクはペコリと魔女さんに頭を下げた。
魔女さんは一瞬キョトンとすると、姿勢を正す。
「これはご丁寧に、私は先にも言ったように大魔女カムアジーフよ」
「ねぇねぇマル君、俺はー?」
「あっ、えと鎧の彼は自称勇者さんです」
「ぷはっ! 勇者? 鎧の悪魔が? アッハッハ! へそで茶を沸かす気ぃ?」
「なんで笑われたのー?」
ボクは何も言えない。
そりゃ勇者さん、自称とはいえ勇者は死ぬほど似合っていませんよ。
それとも本当に勇者なんだろうか? いや勇者がリビングアーマーとかないよね。
「ねぇマール、貴方鎧の悪魔を従えて何をする気なの?」
「何って、地上帰還を目指しているんです」
「地上?」
魔女さんはポカンと口を開けると、ゆっくり天井を見上げる。
もしかしてこの人、ここがダンジョン内部だと気づいていない?
「……邪悪な気配が充満しているわね……正気じゃいられなさそう」
魔女さんはそう言うと、目を細めた。
魔女カムアジーフの身体は間違いなく魔物の身体そのものだ。
青白い肌、深紅の瞳、魔性という言葉がこれほど似合うものなのか。
魔人かなにか、そう思える雰囲気はあるだろう。
けれど彼女には来歴がある。
これってどういう意味があるんだろう。
「いいわ! 地上帰還ならマールだけじゃ心配だし、お姉さんが付き合ってあげる!」
彼女はそう言うと大きく身体を跳ねた。
ぷるんと縦揺れするたわわなおっぱいにボクは思わず顔を真っ赤にして背ける。
「えと、勇者さん。大魔女カムアジーフさんが付いてくるって言ってますが、大丈夫ですか?」
「オッケー、全然良いよー、むしろ大歓迎ー」
言葉が通じない事は大層不満そうだが、同行者が増えるのはむしろ喜ばしいようだ。
ボクが通訳をすれば、なんとかなるかな?
「魔女さん、彼は貴方を歓迎しています」
「鎧の悪魔に歓迎されても全然嬉しくないし……まぁいいわ。鎧の悪魔の監視も兼ねて、地上を目指しましょう」
ボクは「おーっ」とクロを落とさないように気を付けながら片手を上げる。
今ここが第何層かも不明だし、早いところ地上に出よう。
「それにしてもマールの着ている服って、変わっているわねー、なんで?」
「えっ? なんでと申されましても?」
ちょっとどころではない感覚誤差を抱えた大魔女カムアジーフを加えて、ボク達は階段を目指す。