第52ターン目 大蛇が 現れた クロは 恐怖で 動けない!
松明の飾られた小さな小部屋には、足元に大量の乾燥した藁が敷かれていた。
部屋の広さは少しボクには狭いくらい、けれどまるでアリの巣のように細い通路が部屋から伸びていた。
「なんでしょうここ、バニー種の巣でしょうか?」
「可能性はあるわね」
「ならまだバニーがいるかも、警戒しないとねー」
勇者さんは松明の火を消すと、いつでも抜刀出来るように剣の柄に手を掛けた。
ボクはなるべく音を聞き逃さないよう注意を払いながら、部屋を調べる。
「うわー、藁の中に人骨が」
顎の無くした頭蓋骨が出てくると、流石のボクも顔を青くする。
とりあえず祈ろう、ボクはその場で跪くと錫杖を両手に持ち、魂が天へと還ることを祈った。
「こっち行ってみようー、他にも部屋あるみたい」
勇者さんは既に他の部屋へ渡ったようだ。
ボクは慌てて立ち上がると、勇者さんを追いかけた。
「ねぇねぇマル君見て見てー」
「短剣、ですか?」
「この部屋に飾られていたよー、呪われているのかなー?」
「どうでしょうか?」
勇者さんが手に取った短剣には青い宝石が埋め込まれていた。
ちょっと珍しい短剣かな?
「キョン君なら、短剣くらい使えるかな」
「うー?」
「そういえば幽霊船では、【スケルトン】の剣で大暴れでしたね」
「なにそれ、そんなことあったの?」
丁度勇者さんと魔女さんがボクの魂の奪還に行っていた時、ボクの方にも魔物はやってきた。
キョンシーさんって、ただの拳法家ではないよね。
「キョンシーさん、良かったらどうぞ」
「うー」
ボクは勇者さんから短剣を受け取るとそれをキョンシーさんに手渡した。
キョンシーさんは短剣をぷらぷらさせており、興味があるのかないのか。
「ちょっと不格好ね、鞘を作ってあげる」
「魔女さん本当に器用ですねー」
「まったく、変な才能にばっかり恵まれているにゃあ」
「変とはなによ、変とは! 生活の知恵と言いなさい!」
本当に、とても危険な魔物とは思えないなぁ。
魔女さんは魔物としては間違いなく最上位だと思う、だけど彼女には来歴があり、ちょっと面白い変なお姉さんみたいだ。
どうして魔女さんは魔物に転生したのだろう。
「ほい、キョンシー、鞘を作ってあげたわよ」
「うー」
即席で木製の鞘を作った魔女さんは、寸法も計らず完璧に仕上げてみせる。
魔法が万能なのか、魔女さんが天才なのか。
いや、両方だろうか。
キョンシーさんは短剣を鞘に仕舞うと、それを武闘着の帯に挟み込んだ。
そこそこ気に入ってくれたんだろうか。
「それにしたって見事にもぬけの殻にゃあね、静かすぎるくらいかしらにゃあ」
「確かに……なぜでしょう?」
まるでこれはバニー達が一斉に住処から逃げ出したみたいだ。
松明の状態、調度品の状態、いずれもまるで急がなければ間に合わないという雰囲気がある。
でも何故、魔物であるバニーに、それを程危急を迫ったのは?
「時計バニー……もしかして仲間を先導して逃げていたのか?」
時計バニーとの遭遇がもしかしたら、お互い想像しない突発的遭遇だったのかも知れない。
だとしたら、好戦的なバニー達がボク達を無視して一斉に逃げ出したのも頷ける。
「うー……!」
「キョンシーさん?」
キョンシーさんが静かに唸りだす。
こういう時は大抵危険な合図だ。
「皆さん警戒して、なにかいます!」
ボクはそう指示すると、勇者さんは剣を抜き、魔女さんは杖を構えた。
どこからくる……いや、そもそもなにが?
「シュルルルルル……」
「あ、あ………」
突然肩に乗っていたクロが頭上を見上げ、顔を真っ青にした。
一体なにが、ボクは頭上を見上げた時、大きな牙の生えた口が迫っていた。
「うー!」
「うわぁ!」
すかさずキョンシーさんが割り込む。
ボクを抱きかかえたまま、横に跳んだ。
ボクはその間に見た物は、とんでもない大きさの大蛇だった。
「シュルルルルル!」
全身を緑色の鱗で覆い、枝分かれした舌をチロチロ出す魔物、確かこの種は。
「【タイラントパイソン】だーっ!」
「はん! ようするにただデカイだけの蛇でしょ、さっさと始末するわよクロちゃん!」
「…………にゃ、蛇だけは駄目にゃあ………」
クロは全身の毛を逆立て震えて竦んでいる。
「く、クロは蛇が大の苦手なんです!」
「シャァァァァ!」
「にゃあああああ! やだやだやだーっ! 主人助けてにゃあああああん!」
「あ、あのクロちゃんが助けを乞うているですって……?」
ボクはなるべく優しくクロを抱きしめる。
クロの天敵、蛇相手にはクロは戦闘も満足に行えない。
「クロ抜きでやるしかありません!」
「とりあえず斬ってみる!」
勇者さんは冷静にタイラントパイソンに斬りかかる。
しかしタイラントパイソンは巨体に見合わず俊敏で、勇者さんの一撃を回避した。
「シャアアアア!」
「おっと!」
反撃と言わんばかりにタイラントパイソンは勇者さんに噛みつこうとする、がそれは盾によって防がれた。
「鎧の悪魔なんか食べたらお腹壊すわよ! 《炎の矢》!」
数発、赤い燐を飛ばす炎の矢が、タイラントパイソンに突き刺さる。
タイラントパイソンは悲鳴をあげ、のたうち回った。
「うわっ、なんか揺れ……!」
「うー!」
キョンシーさんは追い打ちするように、タイラントパイソンの頭部に蹴りを加える。
あまりの巨体、それが暴れるだけで部屋は大振動だった。
「もしかして……天井が崩落するんじゃ……!」
そのまさかだった。
タイラントパイソンの尾が天井を叩く。
するとガラガラと天井が崩落し、降り注いできたのだ。
ボクは急いで魔法を詠唱する。
「慈しき豊穣神の聖なる神心よ、我らに力を《聖なる壁》!」
ボクは聖なる壁を張り、天井からの落下物に備える。
やがてズシィィィンと土煙が巻き起こる、その煙の先に見えたものは。




