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第50ターン目 隠し通路を 見つけよう

 ドンドンドンドン!

 まるで借金の取り立てのように、扉は激しく揺れている。

 一度開けば大量の魔物と連戦だ。

 そうなれば果たして生きて地上に戻れるだろうか。

 ううん、弱気になるなボク、考えるんだ、生き残る手段を。


 「魔女さん、精神力(マインド)はどうでしょう?」

 「結構疲れたけれど、まだ大丈夫よ」

 「クロは?」

 「アタシは節約したから、まだまだ平気にゃあ」


 ウチの頼れる後衛アタッカーの魔女さんは、やや顔色が悪い。

 精神力(マインド)は無限ではない以上、魔女さんもジリ貧だ。

 クロは平然、やっぱり賢く立ち回ることに長けている。

 肝心のボクはというと、もう魔法は打てて三回といったところ。

 規模次第では、一発で精神喪失(マインドダウン)に陥るだろう。

 皆、休息が必要だ……だとすると。


 「とりあえず入口の扉を封鎖しましょう」

 「私が魔法で封じましょうか?」

 「いいえ、精神力(マインド)は節約するべきです」


 精神喪失(マインドダウン)に陥った魔法使いや治癒術士ほど悲惨な存在はない。

 正にパーティのお荷物、ボクが一番気にかけていたものだ。

 まぁ実際とかげの尻尾切りのように、ボクはパーティから切り捨てられたけれど。

 ううん、あれは不可抗力、レッドドラゴンとかいう超上級魔物がいたことがイレギュラーなんだ。


 「そこら中に散らばった鎧を、入り口に敷き詰めましょう、それで多少は持ち堪えるかと」

 「うー」


 キョンシーさんは疲れ知らずのアンデット特性を活かし、一気にドロップ品を入り口に運んでいく。

 やがて、入り口が埋まるほど山積みになると、扉はうんともすんとも言わなくなった。


 「けどこれじゃあ私達も出られないわよ?」

 「そうですね、でもそれはそれでここで休憩という選択肢もあります」

 「俺が突っ込んで、しびれスライムを蹴散らすってやり方もあったと思うけどー?」

 「いえ、確かに勇者さんは痺れませんし、有効ですけど、絶対に打ち漏らすと思います。それに危険な特攻を推奨なんて出来ません」


 いくら勇者さんが強いとはいえ、特攻兵器扱いはしたくない。

 軍神や戦神なら、その雄々しさを讃えるかもしれないけれど、ボクの信仰する豊穣神の慈悲の考えには反する。

 支え、育み、繁栄を、豊穣神の教えは、個人の無力さを教えてくれる。

 男一人、女一人で、世界は成立しない。

 それは五十年そこらで終焉する、終末世界(ディストピア)でしかない。

 男が畑で汗を流し、女が家庭を守る。

 男は災害や魔物から、女と子供を守り、女は子供を健やかに育む。

 そうやって家が、村が、都市が成り立っている。

 ボクはパーティの誰一人の脱落も望んでいない。


 「えと、部屋の壁調べてみたんですけれど、隠し扉っぽいのがありません?」


 ボクはゆっくり、壁沿いを歩きながら壁を手で叩く。

 返ってくる反響音で、先を判断した。


 「このパーティ、考えてみれば盗賊がいないわね」

 「盗賊がいれば、こういう場面も回避出来たんでしょうけれど、それは無いもの強請りですよ」


 盗賊なら警戒心が強く、不意打ちもいち早く察知してくれただろう。

 更に(トラップ)の解除や、隠し扉の発見は盗賊の専売特許だ。

 このパーティ、そういう意味じゃ無意識に罠を踏み抜いている気がする……。

 よくここまで無事だったものだ。


 「うー」


 キョンシーさんが壁を叩く、唸り声を上げながら何度も。

 ボク達は気になってキョンシーさんの下に集合した。


 「この壁が気になるの?」

 「うー」


 魔女さんは杖で壁を叩いた。

 キョンシーさん、なにかそういうスキルでも持っているんだろうか?


 「ニンジャスキルでしょうか?」

 「ふにゃあ? 主人ってば、ニンジャって、あの東方の島国の神秘の戦士かにゃあ?」

 「なんとなく……そうじゃないかなって」


 遥か遠く海さえ越えた先に、神秘の戦士ニンジャがいるという。

 ニンジャは優れた運動神経に、数々の神秘的なニンポーがあるという。

 刃に心を持ち、暗殺者としても知られているが、ニンジャは主君に絶対服従だとか。


 「キョンシーは拳法家でしょー? ニンポーなんか使ってないしー」


 勇者さんの意見ももっともだ。

 ボクだって、何故かキョンシーさんがニンジャではないかと思っただけ。

 本当に不思議だけれど、キョンシーさん自体ボクらは何も知らないし。


 「まぁなんでもいいにゃ、キョンシー、気になるならこの壁ぶち破るにゃあ」

 「うー」


 キョンシーさんは確認するようにボクを見た。

 ボクも特に異論はない。

 何があるかはわからないけれど、魔物の群れに突っ込むよりマシだと思いたいし。


 「キョンシーさん、やっちゃってください」

 「うー、うー………うーっ!」


 キョンシーさんは構えると気をおへそに溜め込み、それを一気に放出すると同時にハイキックを放った。

 壁は凄まじい蹴りに一撃で粉砕された。


 「《気》を乗せた蹴りかー、凄い威力だねー」

 「やっぱり拳法家よね、《気功》が得意な辺りむしろ【モンク】かしら?」

 「モンクって、僧侶の一種ですよね?」

 「そうそう、密教僧でね。魔物さえもぶっ飛ばす【戦闘僧侶(モンク)】よ」


 キョンシーさんは小首を傾げる。意味を理解していないらしい。

 うーん、でもモンクだとすると、全然宗教的な感じがしないんだよね。

 ボクのようにお祈りしたりしないし、戒律も無さそう。

 やっぱり謎の存在だ、キョンシーさんって。


 「それよりこれって?」


 モクモクと土煙が上がる中、粉砕された壁の奥は、通路が広がっていた。

 隠し通路……一体この先に何があるのか。

 ボクは意を決すると、通路に一歩踏み込む。


 「行きましょう皆さん、今度は後ろにも注意して」

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