第49ターン目 しまった モンスターハウスだ!
【モンスターハウス】、初心者冒険者の誰もが恐怖するダンジョンの仕掛け。
いや、むしろ罠の一種なのかもしれない。
ボクの前にはさながら鉄人兵団が恐ろしい仮面を着けて進軍して来ている気分だった。
「ええい、今回私はマジよ、もうヘマはしないんだから! 《水鉄砲》乱れ撃ち!」
「うー!」
「にゃおう! やるだけやってやるにゃあ!」
魔女さんは杖を構えると、その周囲に大量の水泡が顕現する。
水泡は細い筋となり、リビングアーマーの群れの兜を弾き飛ばしていく。
クロは《咆哮》で、リビングアーマーの群れを攻撃。
キョンシーさんも乱戦に加わる。
「あれ、勇者さんどこ?」
やばい、リビングアーマーだらけで、勇者さんを見失った!
いや、冷静になれ、あの魔物が、第四階層のリビングアーマーと同レベルではない。
きっと瘴気のような物で見分ければ……。
「出来る訳ないよぉ! 勇者さん返事してくださーい!」
「オーハロー、ハロー」
「よし! 後は壁とでも会話していなさい!」
「えー? それ酷くね?」
「鎧のが混じると、見分けつかないにゃあ、同士討ちを食らいたくなかったら離れろにゃあ!」
「いっそここで仕留めた方が平和かもね!」
相変わらず酷い言われ方だ。
だけど本当に見分けがつかない、仕方なく勇者さんは後退する。
「勇者さん、扉を押さえてもらえますか?」
「いいよー、今回の俺、全然お呼びじゃないみたいだしー」
がっくり落ち込んでいる。
ボクは扉を勇者さんに任せると、リビングアーマーの群れの傍まで近づいた。
「リビングアーマーは痛覚が無い、だから異常に耐久力が高く、一体現れただけでも手こずる冒険者は多い」
それでも倒し方はある。
一つは粉々になるまで砕く方法。
鉄槌などの武器があれば、これは不可能じゃない。
もう一つは強力な炎で焼き切る。
リビングアーマーも金属である以上、熱で融ける。
ただ問題点はかなりの精神力を消費してしまう点だ。
並の魔法使いがこれだけの数のリビングアーマーに取れる戦術じゃない。
リビングアーマーの優れた耐久性と、魔法耐性、この第四層でももっとも恐れられる存在かも知れない。
だけど、もう一つ魔女さんはリビングアーマーの弱点を教えてくれた。
いざという時の勇者さんへの対処ということだったけれど、まさかこんなところで活きるなんて。
「主人、こいつアーマーの内側に血の呪印があるにゃあ!」
「よし、《洗浄》!」
ボクの魔法は、リビングアーマーからの内側の穢れを落としていく。
血の呪印が消滅すると、リビングアーマーはガラガラと崩れ落ちた。
「ナイスマール! この調子で数を減らすわよ!」
「はい、どんとこいです!」
その後も、魔女さんやキョンシーさんがリビングアーマーを蹴散らし、クロが血の呪印を発見すると、ボクがそれを《洗浄》の魔法で消し去る。
しかしボクの精神力は徐々に削られていく。
それでも必死に抗うしかない。
半分ほどのリビングアーマーを倒したところで、ボクは。
「……!」
「はぁ、はぁ……あ、しまっ」
突然脇からリビングアーマーが剣で襲いかかってきた。
普段なら気を付けていた筈、精神力を大きく減らした悪影響だった。
ボクはなんとか、錫杖で剣を受け止めるも、後ろに転んでしまう。
すかさず他のリビングアーマーまでボクに集まり出した。
「う、うわぁ!」
「うー!」
そこにキョンシーさんの割り込み、彼女は拳に気を集めると、それを周囲に放出した。
「うー!」
「闘技? キョンシーに使えたの?」
キョンシーさんが放った気功波のような技に、リビングアーマー達も吹き飛ぶ。
すかさずキョンシーさんはボクを持ち上げた。
「あ、ありがとうございますキョンシーさん」
「うー」
「キョンシーはマールを守って! こうなりゃ私達でケリをつけるわよクロ!」
「にゃおん! やぁってやるにゃあ!」
本当に申し訳ない、精神力不足で、意識が朦朧とし始めている。
まだ動ける。そう自分に鼓舞するけれど、流石に魔法を乱発し過ぎた。
ボクの《洗浄》が一番効率良いんだけれど。
流石にモンスターハウスの全てを洗い流せる訳はないか。
「おりゃ燃えつきろ、《炎の嵐》!」
「にゃおん! 乱れ引っ掻きにゃあ!」
魔女さんの炎の嵐は、リビングアーマー複数体を巻き込み、熱と風で苛む。
彼女ほどの魔力があるならば、リビングアーマーを融かしきるかもしれない。
クロも怯んだリビングアーマーに爪を尖らせ襲いかかる。
血の呪印を見つければ、そこに傷をつけるのだ。
それだけでリビングアーマーは身体を半壊させたり、動きを止める。
魔女さんは行動不能になったリビングアーマーに、光の玉を打ち込み、血の呪印を消していく。
あともうちょっと、ボクはせめてと彼女らの勝利を祈った。
どうか豊穣神様、ちょっぴりで構いません。皆に加護を。
「これで最後! 《光の玉》!」
最後の一体が、ついに物言わぬ鎧と成り果てた。
ボクの目の前に広がっていたのは、大量の鎧に剣。
【モンスターハウス】が冒険者に与えてくれる最大の報酬は、この大量のドロップ品だろう。
嬉しい反面、酷く疲れた……だけどまだ休めない。
「勇者さーん、扉どうですか」
「ドンドンって、全然諦めてくれない!」
「さてどうしたものかしら……?」
一難去ってまた一難、ダンジョンは変わらず冒険者に牙を剥く。
ボクはゆっくり立ち上がると部屋を一望した。




