表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

51/217

第48ターン目 モンスター サプライズ ア ゴー

 階段は短く、上りきると広い回廊に出た。

 落下防止用の(さく)の下には、このダンジョンの一部が垣間見える。

 とは言っても、薄暗く遠くまではとてもボクの視力じゃ見通せないけれど。


 「うーん、見覚えしかない」

 「そもそも第四層は無駄に広い上に、似た構造ばっかりにゃあ」


 ダンジョンの不思議の一つ、階層が下がるほど、構造が広くなる。

 今だこのダンジョンは最下層まで辿り着いた冒険者はいない。

 少なくとも勇者さん達と出会った第七層でさえ、最下層ではないだろう。


 「マル君、正面に敵!」

 「わわっ、皆さん警戒を!」


 ガション、ガション。

 そんな特徴的な足音を立てて、ゆっくりこちらに向かって来たのは全身鎧の騎士だった。

 ただ、その足音から、中身が無いとわかる。

 つまり……野生の【リビングアーマー】だ!


 「うわー、そっくりだなー、どっちを攻撃すればいいんだろうー?」

 「すごい棒読み……お願いですから勇者さんは攻撃しないでくださないね!?」

 「保証は出来ないわねー、あんなにそっくりだと……あばばばばば!」

 「にゃあ!? 後ろかにゃ!? にゃにゃ!?」


 後ろから現れたのは浮遊する海月(くらげ)、確か【しびれスライム】だ!

 しびれスライムは大量の数で出現し、触手を魔女さんに突き刺して、麻痺状態にしてしまう。


 「えっ? 嘘でしょう!? 数が多すぎませんか!?」

 「にゃあ、キョンシー魔女を担ぐにゃあ!」

 「うー!」


 キョンシーはしびれスライムの群れとは戦わず、魔女さんを俵めいて担ぎ上げた。

 魔女さんは、表情筋を硬直させながら、「物じゃないのよ」と愚痴(ぐち)る。


 「主人どうするにゃあ、挟み込まれたにゃあよ!」


 クロはいつでも動ける姿勢で聞いてきた。

 ボクは動悸(どうき)を速めながら、錫杖を胸元に手繰り寄せ、逡巡(しゅんじゅん)する。

 魔女さんさえ無事なら、後ろのしびれスライムは大した強敵ではない。

 ただ宙を浮遊し、音も無く近づいてくるから、こういう不意打ちを受けやすい。


 「クロ、《咆哮(ハウリング)》で蹴散らせる?」

 「ちょっと数が多いにゃあ……なんとか穴ならこじ開けられるかもにゃ」


 クロは攻撃魔法を多少使えるとはいえ、そこまで強力な魔法は使えない。

 だとすると、正面は?


 「はっ、とりゃ!」

 「……!」


 勇者さんは、リビングアーマーと剣を打ち合っている。

 コロコロ立ち位置を入れ替えると、どっちがどっちか本当に判別がつかなくなりそうだ。

 ボクは迷わず勇者さんに声をかけた。


 「勇者さん、強行突破します!」

 「オーキードーキー!」


 ボクは迷わず前進する。

 リビングアーマーの横を通る時、剣が顔面に迫るが、勇者さんは盾でそれを受け止める。

 そのまま彼は盾で、リビングアーマーを殴りつけ、後ろから迫る大量のしびれスライムの中に投げつけた。


 「あばば……あれ、なら、リビングアーマーだって、しびれ」

 「いえ、リビングアーマーは痺れないと思いますよ」


 あの数は異常だけど、【リビングアーマー】と【しびれスライム】はよく一緒に出現する組み合わせで知られている。

 一説では、リビングアーマーが何らかの方法でしびれスライムを呼んでいるのでは、なんてトンデモ学説もあったっけ。

 真相はダンジョンだけが知っている。ボクらはそんなとんでもない魔物達相手に駆け引きでどうにかするしかない。


 「こっちです、この部屋!」


 ボクは皆を誘導する。

 曲がり角にタイミング良く扉があった、ボクは迷わず扉を開く。


 「キョンシーさん、魔女さんをボクの前に」

 「うー!」


 キョンシーさんは健脚ですぐにボクに追いつくと、目の前に魔女さんを寝かした。


 「うう、【ウ=ス異本】第七章、エロトラップ編……体験、しよう、とは」

 「豊穣神様、この救いようのない子羊にもどうかお手をお触れください《解呪(ディスペル)》」


 麻痺状態の魔女さんに、光の手が触れる。

 気持ち今回はなんだか嫌々と躊躇(ためら)うようにだったけれど。

 もしかして豊穣神様、魔女さんをキモいと思ってらっしゃる!?


 「ぷはぁ、動く! 鳴る! 振動する! デラックス魔女カムアジーフ、復活!」

 「今回のアンタにゃあ、何言っても卑猥(ひわい)に聞こえるにゃあ、喪女の(くせ)に」

 「どうせ一度も出会いなんてなかったわよ! 余計なお世話だわ、べーっだ!」


 うん、やっぱり今回の魔女さんは、何もかも不運(バッドラック)に振り切れているみたい。

 後は勇者さんだけど。


 「ほえー、なーにここー?」


 既に勇者さんも扉を潜っていた。

 勇者さんは部屋の中を観察すると、感嘆の声を上げていた。

 ボクも改めて部屋の全容を見て驚く。

 大きな部屋、下には赤いカーペットも敷かれ、その両脇を全身鎧がびっしり整列している。


 「ねぇマール、第四層には【モンスターハウス】があるのよね?」


 魔女さんはトンガリ帽子を深く被ると、顔色を悪くした。

 ボクもまさかと思い、鎧を見る。

 ガション、魔女さんの予感、それは正しかった。

 軽く二十体はいるリビングアーマーが一斉に動きだす。


 「ぴやぁ!? 今すぐ部屋を――!」


 ボクは迷わず道を戻ろうと、扉に触れる。

 しかし、ドンドンと、外側から扉を開こうとする力を感じて、ボクはさぁーと血の気が引いた。


 「まさに前門の虎、後門の狼にゃあね……」


 扉を潜れば、大量の【しびれスライム】。

 部屋にいれば【リビングアーマー】のモンスターハウス。


 「あれ? これ詰んだかな?」


 ボクはもう放心状態で、扉に必死に体重をかけて、増援を防いだ。

 リビングアーマーの群れは一斉に襲いかかってくる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ