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第46ターン目 魔女の お料理マジック

 「マジッククッキング?」


 ボクは首を傾げると、魔女さんは魔法を操り、鉄板を鍋状に変形させる。


 「うわ、俺の鉄板がーっ!」

 「後で元に戻すから安心しなさい!」

 「あはは、魔女さんの魔法は本当に凄いですね」

 「命を育むマールには負けるわよ」


 ボクのはあくまで豊穣神様の奇跡の力を借りているだけだから。

 ようするに役割が違うのでしょう。それだけボクの白魔法と、魔女さんの黒魔法は性質が違う。


 「ここに採取した植物をギュッと絞るわよ?」


 魔法の力で宙に浮いた植物の束、まるで万力のような力で絞られると絞り汁が、鍋を満たしていく。


 「一体なにを?」

 「ふふふ、ここからよ」


 魔女さんは楽しそうに微笑むと、鍋に火を付け、その間に昨日の余ったコカトリスの肉の仕込みを始める。

 先ずは一口大に切り分けられるコカトリスの肉、そこに白い粉を纏わり付かせる。


 「それ、昨日の香草ですか?」

 「ううん、まぁ穀物の一種よ」


 穀物? そういえば小麦に似た植物が生えていたっけ?

 でも水場に生える小麦?

 魔女さんは扱い方を知っているみたいだ。

 様子を見る限り小麦粉に似ているけれど、なんだか目が細かい。

 魔女さんは余分な粉をふるい落とすと。


 「よし、油の用意はいいわね」

 「油?」


 気がつくと鍋の中に小さな気泡が生まれ、浮かんでは消えていた。

 間違いない、これは油だ……だけど動物油じゃない?

 これは植物油だ……植物から油がこんなに取れるんだ。

 魔女さんは一口大に切り分けたコカトリスのお肉を油に投入すると、ジュワーッという美味しい音が木霊した。

 油のいい匂いがする。

 いけないっ、思わず涎が。

 魔女さんは肉に十分な火を通すと、丈夫な木の枝にそれを突き刺していく。


 「はいっ、今日はコカトリスの唐揚げ棒よ!」

 「わあぁ……!」

 「おー、美味しそうー! 俺食えないけど」


 なんということでしょう!

 あの凶悪な魔物コカトリスが、今は黄金色の衣を纏った唐揚げになってしまいました!

 ボクはそれを受け取ると、ぱくり……あぁこれはなんと絶品なのでしょうか。

 衣は香ばしく、中は油がじゅわっと溢れ出す。

 更に衣に香辛料が一部使用されているらしく、衣だけでご飯として食べられちゃうよ。


 「ううーん美味しい! これは絶品ですね、パンと一緒に食べたいかも知れませんねー」

 「主人、こんな至福の顔は初めて見たにゃあ」

 「うふふ、たーんと食べなさい! こっちは面白い材料一杯手に入っちゃったし」


 ボクには価値がなくても、博識な魔女さんには価値があるようだ。

 しかし鉄板を鍋にされて、勇者さんは不満を漏らした。


 「ねぇ、俺の鉄板どうするのー?」

 「はいはい、一応アンタの盾だもんね、待ってな」


 そう言うと魔女さんは魔法の力で、鍋から油を浮かせ、鍋を元通り鉄板兼盾に戻してみせた。

 あれ、油はどうするのか?

 そこも魔女さんは想定済み、彼女はいつの間にか編み込んでいた長い茎の植物で作った鞄に油を投じた。


 「えっ? そんなことしたら油が漏れて」

 「この私を誰だと思っているの? 時の大魔女カムアジーフよ、そんな問題とうに解決しているわ!」


 自身満々と、胸を張る魔女さん。気持ち鼻も高々だ。

 じっと鞄を見つめるが、鞄からは一滴も油が溢れなかった。

 一体どういうことか、ボクは魔女さんの持つ鞄の中を覗くと。


 「あれ? 油がない?」

 「マールに分かりやすく言えば、この鞄はなんでも飲み込んじゃう【魔法の鞄】なのよ」

 「それって、交易神に仕える商人が持つ【無限鞄(アイテムボックス)】みたいな物ですか?」

 「うーん、神の加護ほど凄い物じゃないけど、私のは位相を弄って、《ある》と《ない》の空間的パラドックスを、量子もつれのように維持しているだけだし」

 「うーん、何を言っているのか、さっぱりわからない!」


 勇者さんはさっそく頭を爆発させていた。

 かくいうボクも目を丸くする。

 くうかんてきぱらどっくすってなんでしょう?


 「……私が片手間で開発した魔法だし、あんまり普及しなかったのかしら?」

 「そんな便利そうな魔法なら、皆喜んで使いそうにゃあ」

 「あら光栄ね、良かったら教えてあげるわよ」

 「アタシに理解出来ればいいんにゃけど」

 「なーに、クロは私の知っている弟子より聡明よ、いけるいける!」


 クロも同じ黒魔法の使い手だから、魔女さんとは相性は良いだろう。

 逆にボクは白魔法系だから、本来ならクロとは相性が悪いんだよね。

 使い魔は本来なら魔女の代名詞、魔女さんの方が主人に相応しい。


 「クロ、魔女さんから教えて貰うといいよ、ボクはなにも教えられないし」

 「にゃあ? なにか勘違いしているみたいだけどにゃあ、アタシ主人から色々教えられているにゃあよ?」

 「え? なにを?」

 「アタシがいないと何もできないってにゃ! それに意外と頑固にゃし!」

 「ズコーッ!」


 思わず後ろにずっこける。

 が、キョンシーさんは無言でボクの転倒を防いだ。

 キョンシーさんはそのままボクを抱きしめると、ボクの後頭部には彼女のおっぱいが押し付けられる。

 ボクは顔を赤くすると、キョンシーさんに指摘した。


 「あの、キョンシーさん当たってますっ、当たってますから!」

 「うー?」

 「だめだ、キョンシーさんわかっていない!」

 「キョンシーの場合、わかっていて、()()()()()可能性もあるわよね?」

 「可能性は《ある》し、《ない》かしらにゃあ」


 うぅぅ、まるで謎掛けだ。

 ボクは一体何を試されているのだろう?

 兎に角、朝ごはんを食べたら地上を目指して出発だ。

 もう地上はそこまで遠くないのだから。

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