第40ターン目 本日は コカトリスの香草焼き
勇者さんが見つけた休憩所は、丁度良い広さがあった。
何よりこの部屋には水場がある。
「これは助かるにゃあ」
水場にはクロも喜んでいた。
ダンジョンには時々、こういう休憩所が発生する。
なんでこんな都合が良い場所があるのかはさっぱりわからないけれど、ありがたく利用させていただきましょう。
「おーし、鉄板の用意おっけー」
一方で勇者さんは盾兼鉄板を使い、石を積んでその上に置いた。
「主人、ここ、植物が生えているにゃあ、もしかしたら?」
「やってみようか、《豊穣》」
ボクは豊穣神様に祈りを嘆願する。
豊穣神様の司る実りの力は、周囲を一気に緑化していく。
クロはその中から食べられる植物を探した。
「あっ、この野苺は良さそうにゃ」
「なになに? なんか凄いことなってんじゃない」
僕達が野草を摘んでいると、何事かと魔女さんが駆け寄ってきた。
魔女さんは緑化したそれを見て目を丸くしている。
「ボク、これでも豊穣神様に仕えていますから」
「だからって、ダンジョンを緑化するって、凄いわね豊穣神」
ボクは豊穣神様を褒められると、少しだけ誇らしさに鼻を伸ばした。
謙虚じゃないといけないって頭では理解しているんだけれど、やっぱり認められるって嬉しいよね。
魔女さんが信仰する魔導神も凄いと思うけれど、やっぱりボクは豊穣神様が一番だ。
「あら、これって香草じゃない!」
「香草? それって」
「言葉の通り香りの強い植物でね、ちょっと貰うわよ?」
「ええ、いくらでもどうぞ」
流石に豊穣神に仕えるボクも植物博士ではない。
こういうのは狩猟神を信仰する狩人の領分だ。
本来豊穣の魔法は、田畑に実りを齎す魔法だからなぁ。
「ふんふんふーん、今日のコックは私にお任せっ」
「えっ? カム君、料理出来るの?」
「少なくとも、アンタの男飯よりマシよ」
そりゃまぁ、今まで勇者さんって丸焼きしか出さなかったもんなぁ。
あれはあれで美味しかったけれど、全然料理とは言えない。
ボクは魔女さんがどんな調理をするのか、不安半分期待半分だった。
「先ずはコカトリスを切り分けて、そこに香草をまぶすわ」
魔女さんがいくつか摘んでいった香草、中には小さな実も含まれていた。
あれってなんだろう?
魔女さんは魔法を使い、実は粉末になるまで粉砕する。
すると、凄く香ばしいような良い匂いが部屋に充満した。
「ごくり、この香りだけでもう美味しそうですね」
「にゃあん、アタシの気持ちまで誘惑されそうにゃあ」
程よく刻まれたコカトリスの肉に刻まれた香草を揉み込まれ、火の入った鉄板に乗せられる。
ジュウウウという美味しそうな音と共に、香辛料の香りがむわっと広がっていく。
「鎧の悪魔、塩余っているかしら?」
「うん、これー」
「それじゃ、塩とこの粉末状にした胡椒を混ぜ合わせて、お肉に振り分けるとー」
熱い鉄板の上で出来た物は、ぱっと見ではもう魔物飯には見えない。
ボクは涎を垂らし、料理の完成を待ち望んだ。
「ほい、コカトリスの香草焼き、完成!」
「おー、パチパチパチー!」
魔女さんが完成させた料理はとても香ばしい匂いがする。
表面はカリッと焦げさせ、中はふんわりジューシーに、こんなのもう食べなくても美味しいって脳が理解らせられちゃう!
「マール、クロー、召し上がれ」
即席で魔女さんは石の皿を魔法で創ると、人数分それは手渡された。
ボクは思わず喉を鳴らすと、思いっきりかぶりついた。
「〜〜〜〜っ!? 美味しい〜っ!」
一口目に来たのは、塩と鼻にツンとくる胡椒という香辛料の味だった。
その後、香ばしく火の入った香辛料の辛さ、コカトリスが持つ脂身がボクの口内で暴れまわった。
これはまるで爆弾だ、味の大爆発が舌を魅了する。
「このカリカリになるまで焼かれた表面の香辛料も美味しいですねー」
「アタシの地元ではよく採れてね、保存料にもなるのよ」
ボクはこの味は初めてだ、世の中にはいろんな食材、調味料はあるんだと改めて知る。
特にこの胡椒、もしかしてとっても貴重なのでは?
確か香辛料の一部は金と同価値だって聞いたことがある。
「いやー、それもマール様々よぉ、ダンジョンって不思議ねぇ、まさか地元の植物が生えてきちゃうんだから」
「ダンジョンの特産品って、地上ではお目に掛かれないと思っていたけれど、もしかしたら遠い地では普通に生えていたりするんでしょうか?」
「俺、旅の中で黄金郷って島があるって聞いたなー」
「黄金郷ー? 胡散臭いわね?」
一人食べることが出来ない勇者さんは、天井を眺めながら思い出を話しだした。
黄金郷ですか、一体どんなところなんでしょうか?
「黄金郷ということは、金があるんでしょうか?」
「なんでも金で出来た島なんだってー、結局見つからなかったけど」
「そんな島あるとは思えないわね……所詮空想でしょう?」
金はとっても貴重な貴金属として扱われる。
通貨としてはもっとも最上位、ボクは金貨とか持ったこともないよ。
普段使いは銅貨で、時折銀貨が使われるけれど、金はそれだけ貴重だ。
魔女さんも想像はするけれど、結局はどうやっても信じらられず呆れた。
ぱくり、コカトリスの香草焼きを食べると、彼女はにっこり微笑んだ。
「うーん、我ながら成功ね!」
「水もあるしにゃ、やっとちゃんとした休憩ができそうにゃあ」
ボク達はそうやって談笑しながら、気を緩ませる。
やがて疲れた身体は、休息を欲する。
今地上は夜なのか、それとも昼だろうか。
ボクにはもう昼夜の感覚も曖昧だ。
ただ、早く地上に帰りたい……それだけを想った。




