第39ターン目 コカトリスの 徐々に石化!
「コッコケーッ!」
【コカトリス】が鶏冠を逆立て、激しく威嚇する。
人よりも巨大な鶏という姿だけど、その尾には蛇の長い胴と頭がある。
【キメラ】に似ているけれど、キメラとは違う特徴も多い。
ダンジョンが生み出した異形の魔物といったところか。
「うー!」
「シャーッ!」
まずキョンシーさんが正面から突撃する。
あっ、不味い……とボクは気付くもキョンシーさんは止まらない。
コカトリスは尾の蛇をキョンシーさんに向けていた。
キョンシーさんの強烈な正拳突きはコカトリスの胴に突き刺さるも、蛇の頭がキョンシーさんの腕に噛み付いた。
「うー!?」
するとどうだ、キョンシーさんの噛まれた傷痕から、肌を伝って浸食するように徐々に石化し始める。
このままではキョンシーさんは物言わぬ石像に成り果てるぞ。
「キョンシーさん、こっち! 勇者さん頼みます!」
「任されたー!」
「うー……」
勇者さんとキョンシーさんが入れ替わると、ボクは治療に入る。
コカトリスの特殊能力【徐々に石化】は、とても危険な特殊能力だ。
コカトリスの対処法は常套手段なら、先に蛇の方を始末するのだけれど、問題は鶏の方。
強烈な《コカトリスキック》はそれ自体が重装備の騎士さえも一撃で昏倒させる威力があるのだ。
よしんばそれを避けても、嘴攻撃には毒が含まれる。
唯一欠点があるとすれば、非常に攻撃的な性格が災いして、あまり友好的な魔物がいないことだろう。
つまりコカトリスは大体単体出現する訳だ。
ボクみたいな治癒術士がいるなら、むしろ狩りやすいと言えるかも知れないね。
「豊穣神様、どうか穢れをお清め下さい《解呪》」
豊穣神様の手がキョンシーさんの傷痕に触れると、石化していた腕は見る見る綺麗になっていく。
良かった、アンデットのキョンシーさんだと効果無いんじゃないかと恐れていたけれど、問題なかったね。
「これでもう大丈夫ですよ」
「うー」
キョンシーさんは嬉しそうだ、と言っても表情は固いままだけど。
勇者さんの方はどうだろうか。勇者さんは剣でコカトリスを斬りつけた。
「ケッケー!」
「はっ!」
勇者さんの動きは華麗だと思えた。
反撃を踊るように回避し、蛇の攻撃は、鉄板のような盾で防ぐ。
そのまま勇者さんはまず蛇の頭を切り落とした。
「よーし、このまま!」
「はいお疲れー、《炎の呪縛》!」
突然コカトリスはボンレスハムのように縄状の炎によってギチギチに拘束された。
そのままコカトリスは全身を炎上させ、動けないまま焼き殺される。
「あー、またカム君に倒されたー!」
「ふふっ、魔法使いってのは、高撃破者ってのは、パーティプレイの基本でしょ」
「そうですね。ボクの所属していたパーティでも、魔法使いが一番撃破数は多かったと思います」
「ほら、アンタは引き立て役ー、うぷぷーっ!」
「ですが、それを傘にマウント取るのは大人げないですよ? 魔女さん?」
「うぐっ」
「やーいやーい、怒られてやんのー!」
「勇者さんも、ですよ?」
ボクはなるべく優しく二人を諌める。
大分このパーティにも慣れてきたけれど、やっぱり勇者さんと魔女さんの仲が悪いのが気になってくる。
と言っても、本気で喧嘩している訳じゃない。
ただ罵り合いが発展しないか、ハラハラするだけだ。
クロはそんな光景を見て、本当にどうしようもないと溜息を吐いた。
「……本当に下らないにゃあ、どうして仲良くしようとしないのか」
「そういうクロだって、よく戦士と喧嘩していたよね?」
「……それはだってにゃあ、アイツ嫌いにゃし」
こうはっきり嫌いと言うんだから、言葉のキツさだけならクロが一番キツい。
まったくキョンシーさんを見習って欲しい、彼女はいつだってパーティの和を乱さない。
もっとも……自我が戻ったらどんな性格かは分らないけれど。
「それににゃ、喧嘩するほど仲が良いって言葉もあるにゃあ」
「じゃあガデスのこと好きなんだ」
「いや、アイツは生理的に無理にゃあ」
「……はぁ」
結局これだ。
まぁクロは元々警戒心が強くて、中々懐かないんだけれど。
大の猫好きだった魔法使いなんか、中々触らせてくれないと、嘆いていたっけ。
お猫様のツンデレは、眺めている分には良いんだけれどね。
「にしてもコカトリスって鶏なのかしら?」
「こんな大きな鶏は見たことないけどねー」
すっかり表面はこんがりと焼けたコカトリス。
勇者さんは、剣で表面を切り落とすと、中は蒸し焼き状態だった。
「……結構美味しそうね」
「じゃあ晩御飯はコイツで良いー?」
「ボ、ボクは異存ありません」
「うー」
「それじゃあ運ぶかー」
そう言うと勇者さんはひょいっとコカトリスを担いだ。
えっ? そんな力あるのって、驚くが勇者さんはなんてこと無さそうだ。
「馬鹿力よね、それであんな華麗な剣技を持つんだから、変な奴だわ」
「キョンシーとどちらが力持ちかにゃあ?」
「うー?」
キョンシーさんは比べられると、首を傾げた。
アンデット故か、キョンシーさんは森人の女性を素体にしながら、見た目には似合わない馬鹿力がある。
魔女さんによると、筋肉の制限が外れているかららしい。
ゾンビだと、腐敗が酷くてそんな力はないけれど、キョンシーさんなら、限界近い能力を発揮出来るそう。
それじゃあ身体が壊れるんじゃないかって思うけれど、それを制御しているのが額に貼られた呪符らしい。
外すと暴走するから、絶対に外すなと魔女さんには厳命されていた代物だ。
「うー!」
「キョン君?」
キョンシーさんは突然後ろからコカトリスをひょいっと奪った。
なんとキョンシー、自分の数倍は大きいコカトリスを片手で持ち上げちゃった。
「これはキョンシーの勝ちかにゃあ?」
「うー」
「キョン君は力持ちだねー」
「アンタも大概だけどね」
結論、どっちも凄いってことで良いんじゃないかな?
皆得意があって、苦手がある。
ボクや魔女さんは、どうしても肉弾戦は苦手だし、キョンシーさんは馬鹿正直に正面から戦うしかない。
勇者さんだって、基本は接近戦をするしかないんだもんね。
「そういえば勇者さんって、魔法は使えないんですか?」
「え? 魔法? んー、昔は出来たんだけど今はなー」
昔は出来たんだ……リビングアーマーの極一部は黒魔法を操る。
勇者さんも黒魔法を使えるんじゃないのかな。
「まっ、出来ない方が愛嬌あっていいじゃない」
「そういうものですか?」
「そういうもんよ」
「ねぇーねぇー皆、良い場所見つけたよー!」
勇者さんは少しだけ先行している。
丁度通路の分岐路、良い休憩所があったらしい。




