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第38ターン目 治癒術士一行は 第四層に 到着した

 ダンジョン第四層【迷宮エリア】は、ボクがこれまで辿り着いた中では最高到達点だった。

 結果的にだけれど、ボクは第七層まで到達したことにはなる。

 ……まぁ、殆ど事故みたいなものなんだけれどね。


 「ついに帰ってきたんだ……」

 「主人、まだ気を引き締めなきゃ駄目にゃあよ?」


 足元を歩く使い魔のクロは、そうやってボクを(いさ)める。

 うん、ボクは小さく頷いて錫杖(しゃくじょう)を握りしめた。


 「まだ【レッドドラゴン】はいると思う?」

 「そもそもにゃあ、第四層にレッドドラゴンがいるって方がおかしいにゃあ」


 その通りだね。ドラゴン種が確認されたのは、これまで第六層よりも下層だと聞く。

 とても第四層に出るような魔物ではない。

 あれは不幸な遭遇(エンカウント)だったんだ。

 やっぱりそう割り切るしかないんだろうなぁ。


 「ふーん、初めて来たけど、まるでお城の中ね、ここは」


 魔女さんは理路整然と組み立てられた頑丈な石壁に触れながら、そんなことを呟いた。

 この【迷宮エリア】は全体を煉瓦(れんが)のような石材で敷き詰められている。

 確かにお城のような造りかも知れないが、ダンジョンが生成した物なせいか、材質は地上のそれ等とは異なるらしいね。

 実際ドラゴンが暴れるくらいじゃないと、まともに壊れないほど頑丈だし、並の大魔法では崩れないそうだ。


 「それでマル君、階段の位置は? わかるかなー?」

 「申し訳ありません……殆ど第四層は探索が不十分で」


 もっと言えば、第五層への階段自体、見つけたことはない。

 このエリアを完全踏破した冒険者は俗に中級冒険者と言われる。

 冒険者ギルドからは銀勲が手渡されるのだから、一定以上のステータスだろう。

 ボクもそれをこれまで目指してきた。

 結局はさ、まだまだボクなんかじゃ実力不足で、仲間の足を引っ張ってばかりなんだけど。


 「じゃあ探索しながらってことね」

 「はい、皆さんよろしくお願いします」


 ボク達はダンジョンを歩き出す。

 ダンジョンの中はとても静かで、少し前の喧騒は嘘のようだ。

 でも魔物(モンスター)はいる。

 ボクは警戒していると、早速正面から魔物は現れた。


 「ラッピー!」


 小剣を構えた二足歩行の(うさぎ)【ナイトバニー】だ。

 ナイトバニーの後ろには杖を構えたナイトバニーの亜種【マジシャンバニー】もいる。

 可愛い見た目だけど、凶暴な魔物で有名で、特に後方で守られているマジシャンバニーが危険だ。


 「後ろのマジシャンバニーに気をつけて!」

 「じゃあ速攻でいくわよ、穿(うが)て《水鉄砲(ウォーターガン)》」


 魔女さんは後方から一筋の水鉄砲を杖から放った。

 それはピンポイントにマジシャンバニーの額を打ち抜き、マジシャンバニーは一撃で倒された。

 まさかの速攻にポカーンと口を開くナイトバニー、だがすぐにナイトバニーは狂乱するように、剣を振ってきた。


 「うー!」

 「ラピッ!?」


 接近戦はキョンシーさんの舞台だ。

 キョンシーさんは素早い拳打でナイトバニーの顔面を砕く。

 もう一体のナイトバニーはキョンシーさんに斬りかかるが、そこに勇者さんの剣が飛び込んできた。


 「うわぁ」


 たった数十秒だろうか、一瞬で魔物の群れが全滅した。

 ボクとクロはなにも出来ず、戦闘が終了したぞ。


 「これは楽でいいにゃあ」

 「楽だけど……複雑」

 「おーし、今日の晩御飯ゲットー!」


 大きな耳を掴んで持ち上げる勇者さん。

 えっ、ボクは顔を青くした。


 「反対! 絶対(ぜーったい)反対! 二足歩行の生き物は食べちゃ駄目でしょうがー!!!」

 「えー? でも兎だし、魔物だよ?」

 「じゃあアンタ兎獣人の前でそれ言えるっていうの!? 倫理観仕事しろーっ!」

 

 やはりと言うか、クロと魔女さんが憤慨し、猛抗議。

 獣人族は地上には数多くいる。

 冒険者だって同様だ。

 目の前に兎獣人の新鮮な死体で落ちていて、「わぁ、美味しそう」なんて口が裂けても言えないな。


 「勇者さん、ボクこれ以上豊穣神様に背きたくないです」


 豊穣神様も、流石(さすが)にこれは容認しないだろう。

 ご飯と引き換えに、信仰心(フェイス)を犠牲にしたくはない。

 白魔法は信仰心(フェイス)が無くなると、使えなくなるから。


 「残念ー、せっかく獣肉なのにー」

 「アンタ倫理観だけはトチ狂っているわよね……次同じようなことしたら、魔法ぶっ放すわよ?」

 「……そういえば、勇者さんには申告無しで【ポイズンフロッグ】食べさせられましたね……」


 今でも、アレはちょっとトラウマだ。

 もう魔女さんなんて、子供みたいに泣き喚いて取り乱していたもんね。

 うん、ちゃんと注意しなきゃ絶対とんでもないことするよ、この魔物(ひと)


 「にゃあ、コイツその内やらかす予感しかしないにゃあ、頼むから大人しくするにゃあ」

 「でも魔物だって美味しいでしょう?」

 「魔物を食おうって発想がそもそもトチ狂ってんでしょーが!」


 魔女さんの怒りも最もだ。

 だけど、魔物でも食べなければ地上脱出は難しいのも事実である。

 というか、結構お腹空いてきたんだよね。


 「あー、やっぱり前のエリアでお魚獲っておくんだったなー」

 「お魚って、魔物ですよね……」


 ちょっと複雑だけど、毒ガエルに大ミミズと比べると、全然マシだと思える。

 早めに休める場所も見つけるべきだろう。


 「にゃああ……気になったんだけどにゃあ、ここまで冒険者と遭遇しないにゃあね?」

 「そういえば……」


 第六層でキョンシーさんを冒険者と間違えた程度で、不思議と一度も遭遇しないな。

 まぁダンジョンは広大だし、そうそう別のパーティとは出会うとは限らないけれどね。


 「冒険者と遭遇すると、下手したら一戦交えるしねー」

 「そういえば、冒険者と遭遇するの警戒していましたね」


 魔女さんは自分を魔物と思っていないから気にしていなかったけれど、勇者さんは意識していた。

 うん……考えてみれば【リビングアーマー】に、【青肌の魔女】、【キョンシー】って、見事に魔物の群れだよね。

 それも割と規格外の力を持った魔物の群れだ。

 第七層の上澄(うわず)みたいな実力者達だもんな、中堅どころのパーティなら返り討ちだろう。

 勿論(もちろん)出来れば、戦闘は避けたい。

 この人達は皆素敵な人達なんだから、誤解さえ解ければ、きっと分かり合える筈だよね。

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