第37ターン目 スプライトは 一箇所に 集まりだした!
「勇者さん勇者さんっ、あの巨人は一体なんなんですか!?」
「えーと……わかんない! 初めて見る魔物ー!」
突然どこからか、サンダーバードの前に光の巨人が立ちはだかった。
光の巨人は放電しながら、サンダーバードを丸太のように太い腕で殴りつける。
「ケケーッ!」
「うわぁっ!?」
サンダーバードが頭上の壁面にぶつかり、破砕した壁材が降り注ぐ。
ボクは錫杖を握りながら、必死に階段を駆け上がる。
「あの巨人放電している……てーことは、あれはスプライトよ!」
「スプライトってなんか小さくって可愛い奴では!? どう考えてもあの光の巨人可愛くないですよっ!」
「だーかーらー! あれは小魚がやる魚群と同じ、天敵を前にしてスプライトが集合したのよ!」
目を凝らしてよく観察すると、光の粒で巨人は構成されている。
じゃあ物凄い数のスプライトが集まった姿があの巨人なの?
「言うなれば【ギガンティック・スプライト】! スプライトの究極形態!」
ギガンティック・スプライト……言い得て妙と思える姿にボクは戦慄する。
あの電撃パンチ、人が食らったら一撃でミンチにされるか、黒焦げだよ。
改めてスプライトにちょっかい掛けなくて良かった!
「ケケーッ!」
「ああでもっ、やっぱり運は悪いかも!」
サンダーバードは口から雷を放つ。
サンダーバードの名の由来、強力な電撃を放ち、冒険者を黒焦げにする危険な魔物だ。
雷はギガンティック・スプライトに直撃し、その表面は僅かに波打つ。
サンダーバードはすかさず飛び込み、嘴を突き刺した!
バチバチバチィッ!
「ケケーッ!」
「ッ!!」
ギガンティック・スプライトはサンダーバードの身体を掴むと、思いっきりぶん投げる。
パワーは圧倒的に勝っている、だがサンダーバードは手強い。
さながら大迫力の生存競争だが、それに巻き込まれたボク達は右往左往するしかなかった。
ガッシャァァァン!
サンダーバードはよりにもよって、目の前に叩きつけられる。
どうしたものか、勇者さんは剣を抜いて足を止めた。
「さて、どうするマル君!?」
「どうするって、サンダーバード倒せるんですか!?」
「ちょっと時間は掛かると思う!」
その間に三つ巴になったら最悪だな。
階段という足場の狭い中で、サンダーバードやギガンティック・スプライトと乱戦するなんて正気じゃない。
こっちは飛べないんだから、階段から落ちたら一巻の終わりだ。
「あーもう! さっきから本当に鬱陶しい!」
魔女さんが突然吠えた。
ボクはビックリして後方を見た。
魔女さんは杖を両手で持ち、魔法を詠唱する。
「魔女さん、半端な魔法は妖精相手にはっ!」
「そっちじゃないわよっ! 地の底まで落ちろクソ鳥! 《超重力》!」
サンダーバードが飛び上がった瞬間、サンダーバードはかくんと身体を折り曲げて、真っ逆さまに階段を落ちていく。
やがて、ズシィィィィィンという大きな音を立てて、なにかがグチャッと潰れたらしい。
「バチ、バチチチ」
呆然としていたのはギガンティック・スプライトの方だった。
ただ、天敵がいなくなると、ギガンティック・スプライトは再び小妖精へと、分散していく。
そのままスプライトの群れはボク達を取り囲みながら、ピカピカ光る。
「なんでしょうか? 感謝しているんでしょうかね?」
「小妖精にそんな知能は無いんじゃないのー?」
「これは私の分析だけど……スプライトは単体では大した力も知能も無いけれど、寄り集まると力を増大させたように知能も上がるんじゃないかしら?」
スプライトに限らず魔物には未知の部分は多い。
小妖精と呼ばれるスプライトには、多数が連結することで相互に作用して知能も上昇するのかもしれない。
だとすると、スプライトは人間が思うほど馬鹿でもなければ、侮るべき存在でも無いのかも。
「スプライトさん、ボクは治癒術士のマールです、えへ、えへへ」
「バチバチ」
小妖精が少しだけ集まると、クロ位の大きさの大妖精になる。
大妖精は小首を傾げた。
さしずめ【メガ・スプライト】だろうか。
「一応注意するけど、妖精ってのは悪戯好きってことは気をつけなさいよ?」
魔女さんはスプライトに集られると、鬱陶しそうに杖で追い払う。
決して害意はないけれど、悪戯は嫌だなぁ。
「バチ、バチバチィ」
「わわっ、錫杖を引っ張らないで!」
突然錫杖の先端に付いた金属のリングが、大妖精に引っ張られる。
なんだか金属のリングと大妖精の間にバチバチと青白い光が繋がっていた。
「魔女の言うとおりにゃ、結局妖精は一害あって、一理なしにゃあ」
「バチバチィ?」
大妖精は今度はクロの方に飛んでいく。
クロは全身毛を逆立てて、非常に鬱陶しそうだ。
「静電気鬱陶しいにゃあ……!」
「ほら、クロおいで」
「にゃおん!」
クロはボクに飛びつくと、ボクの服の中に入る。
ボクは優しくクロを抱きしめる。
スプライトは決して悪ではないんだろうけれど。
「勇者さんは、平気ですか?」
「身体がバラバラになりそう」
「えっ!? バラバラ!?」
「質の悪い冗談でマールを脅かすな、この馬鹿」
「いやー、でも磁力に引っ張られるんだよー」
そうか、全身が金属の鎧である勇者さんは、スプライトの放つ光の影響を受けている。
金属は磁石に引っ付くように、スプライトには磁力があるんだろうな。
「なるべく速く上りましょう」
「そだねー、急ごう急ごうー!」
スプライトは時折ちょっかいを掛けてきながら、最後までボク達の傍を離れなかった。
螺旋階段を上り終える頃、スプライト達は再び分散し、階段の方へと霧散していった。




