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第33ターン目 階層主ゴーストシャークが 現れた!

 階段を上ると雰囲気が変わったのを、魔女は肌でひしひしと感じ取っていた。

 邪悪な気配が増している……【ポルターガイスト】よりも強大な邪気だ。

 階段を上り終えると、見えたのは巨大な柱と(マスト)だった。

 船外、甲板に出たのだ。


 「これでゴール?」

 「何用カ、魔物共ヨ」


 鎧の悪魔は無言で剣を構えた。

 魔女は杖を(かざ)しながら、声の正体を見定める。

 彼女達の目の前、圧倒的な瘴気が集合すると、一匹の巨大な亡霊サメが顕現したのだ。


 「お前がこの幽霊船の(ボス)ね! マールの魂を返して貰うわよ!」

 「如何ニモ、我コソ【幽霊船】ノ主、【ゴーストシャーク】!」


 ゴーストシャークは半分肉が削ぎ落ち、サメの骨格が剥き出しだった。

 一見するとゾンビ系にも見えるが、周囲を取り囲む霊魂や、宙を自由自在に飛び回る姿はむしろ霊体系か。

 ともかくだ、ボスであるなら容赦はいらない。

 魔女はすぐさま魔法を詠唱する。


 「燃え上がれ! 《火球(ファイアーボール)》!」

 「嘆ケ! 《黒い雨(ダークレイン)》!」


 魔女の火球がゴーストシャークに直撃する。

 だが直後に黒い雨が打ち付け、炎は鎮火した。

 どころか黒い雨はゴーストシャークの傷を癒やしだす。


 「この雨……生者にはダメージ、死者には再生を付与するのか」


 鎧の悪魔はそう分析した。

 マールなら、今頃痛みに苦しんでいたかもしれない。

 でも、彼なら出合い(がしら)に《魂返し(ターンアンデット)》で一撃必殺出来たかも知れないなと、思うと彼は苦笑した。


 「やぁあ!」


 鎧の悪魔はゴーストシャークに接近すると、剣で切り裂く。

 だがゴーストシャークの巨体には、踏み込みが足りない。


 「ガァァァア!」


 ゴーストシャークは尾を振ると、鎧の勇者を弾き飛ばした。

 そのままゴーストシャークはさらなる魔法を唱える。


 「闇ヨ、総テヲ穿(ウガ)テ、《闇の弾丸(ダークブリッド)》!」


 無数の闇の弾丸が魔女を狙う。

 魔女は舌打ちすると、魔法戦に応じた。


 「大地よ、聳え立て雄々しくも《岩石の壁(ストーンウォール)》!」


 ズゾゾゾゾゾ、魔女の前にはオベリスクめいた巨大な壁が聳え立つ。

 壁の表面には怪しげな呪文が描かれているが、それは全て【古代聖文字】と呼ばれる。

 ゴーストシャークよりも旧き魔法を扱う魔女は、魔法戦を制した。


 ガガガ。闇の弾丸は岩石の壁に突き刺さるが、貫くことは出来なかった。

 逆に魔女は反撃に転ずる。


 「砕けて降り注げ、《石の雨(ストーンシャワー)》!」


 壁は砕け散ると、闇の雨を打ち消し、ゴーストシャークに降り注ぐ。

 ゴーストシャークは全身にダメージを受け、のたうち回った。


 「グオオオオオ! 眷属ヨ!」


 パラリラパラリラ、と甲高い楽器の奏でる音が響いた。

 【ゴースト音楽隊】が戦の太鼓を鳴らすように、甲板に魔物を呼ぶ。


 「キキキキキ!」


 【死神クラウン】に【スケルトン】が集まりだした。

 魔女は舌打ちする、ゴーストシャークはその場から消え去っていた。


 「ゴーストシャークはどこに?」


 探しても見つからない? あの巨体が?

 だがそうしている間にもゴースト音楽隊が楽器を鳴らし魔物を呼び込んでいる?

 とにかく考えている暇はなさそうだ。


 「雑魚をけしかけたって!」


 死神クラウンが素早く魔女に襲いかかるが、魔女は冷静に死神クラウンを杖で打ち付ける。

 スケルトンは鎧の悪魔が相手をしていた。


 「パッパパパパー!」


 だが、ゴースト音楽隊は次々と魔物を呼び集める。

 このままではジリ貧の可能性もあると、危惧し始めるが。


 「鎧の悪魔、は……!」


 鎧の悪魔にはゴースト音楽隊を始末してもらいたい。

 だが戦いながらでは意思疎通が出来ない、彼は迫る敵の撃破で手一杯だ。

 なら必然的に魔女が踏ん張らなければ、彼女は一層決意を固めると、ゴースト音楽隊に向かって魔法を唱えた。


 「魔導神よ、時の魔女たるカムアジーフが命じる、我らに仇なす者を灰燼と化せ! 《浄滅の炎(インドラの矢)》!」


 魔女の描く七色の魔法陣は、ゴースト音楽隊の頭上に展開される。

 魔法陣からは巨大な青白い光が矢のように放たれると、ゴースト音楽隊は一撃で蒸発した。


 「よし、これで援軍は止ま――」


 喜びの一瞬、後悔も一瞬だろうか。

 それまで姿の無かったゴーストシャークは突如、魔女の真下から強襲する。


 「グオオオオオ!!」

 「アアアアアアアアーッ!?!?!?」


 魔女は腹部に噛みつかれると絶叫した。

 ゴーストシャークは暴れ、噛み砕こうとギザギザの牙を食い込ませる。


 「カム君!?」


 鎧の悪魔はゴーストシャークに切り込んだ。

 だが、ゴーストシャークは魔女を荒っぽく投げ飛ばすと、再び虚空へと『潜水(ダイブ)』する。


 「あ、ぐうううう……アイツ、よくも……!」

 「大丈夫ー? カム君?」


 鎧の悪魔は魔女に駆け寄る。

 魔女は杖を支えに、なんとか立ち上がろうとするが、それは不可能だった。

 腹部からは酷い出血、足はありえない方向に曲がっている。

 どう見ても戦闘不能の大ダメージだ。

 もう少し食い込みが深ければ、魔女は全身をバラバラに噛み砕かれ、惨殺死体(スプラッター)は間違いなかったろう。

 そんな姿マールには、いや鎧の悪魔には絶対に見せたくない。


 「はぁ、はぁ……私は何をやっている……?」


 血を大量に失った性か、視界が揺れている。

 だが魔女は不思議と意識ははっきりしていた。

 (たぐい)まれなる精神力の賜物か、ただ魔女は己の行いに恥じた。

 これまでの怠慢に恥じた。

 出来ると啖呵(たんか)を切って、情けない姿を晒すことを恥じた。


 それでも、もう恥じはお終いだ。

 彼女の深紅(ルベライト)の瞳は、まだ生きている。

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