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第31ターン目 ポルターガイストは 不気味に笑っている

 散乱する色とりどりの宝石。

 魔女は屈み込むと、そんな宝石を一つ掴み上げて、目の前に持ち上げた。

 じーっと、深紅(ルベライト)の宝石を見つめた後、彼女は大きな溜息(ためいき)()く。


 「やっぱり駄目ね、全部(ぜーんぶ)呪われている」


 宝石ぶくろのドロップした宝石は残念ながら(すべ)て呪われている。

 希少な宝石もこれでは、持ち主に不幸をもたらすだろう。

 知識無い者が持てば、これほど厄介な物はない。

 市場価値についても、魔石ほどの価値も無いというのが、魔女の結論だ。


 「宝石って言ったって、玉石混交よね……まぁ期待しただけ損をするって教訓か」


 マールなら、喜んで飛びついていたかも知れない。

 そういう意味では、呪われていようと宝石には魔性が宿るのかも知れないわね。


 「まぁいいか、使い道はありそうだし」


 そう言うと、魔女は宝石をいくつか回収した。

 換金価値はなくとも、アイテムとしてなら使い道もあるという判断だ。


 「もういいー?」


 手持ち無沙汰していた鎧の悪魔は、周囲を警戒しながら魔女に視線を向けた。

 鎧の悪魔も宝石に興味が無い訳ではなかったが、一通り手元で転がし遊んだら、直ぐに飽きて放り捨てたのだ。


 「えぇ、もう用は無いわ」


 魔女が立ち上がると、鎧の悪魔は歩き出した。

 相変わらずどこに向かっているのか意味不明だが、魔女は後ろをついて行くしかない。

 どの道魔女にも、マールの魂を奪った魔物の居場所はわからないのだ。

 だが、わからないならわからないで考察することは出来る。


 「この船自体がダンジョンだとすれば、やっぱり階層支配者(エリアボス)のような魔物がいる?」


 喩えるならば船長のようなものだろうか。

 もしもマールの魂を奪うなら、(ボス)が相応しいだろう。


 「おっ、階段だ、どっち行く?」

 「階段……」


 鎧の悪魔は階段を発見する。

 しかも上りと下り、道は分岐していた。

 鎧の悪魔は階段を指差しながら、魔女の判断を待つ。

 豊満な胸を持ち上げながら、彼女が考察する判断は。


 「上よ、魂と(えら)(やつ)は昇りたがるわよね?」


 魔女に船の知識はまるで無い。

 だが、船長室があるなら、上ではないかという考察だった。

 魔女が杖を上に向けると、鎧の悪魔は階段を上る。

 二人は無言のまま進む。不気味なほどの静けさの中、奇襲に警戒した。

 なにせここは幽霊船なのだから。


 『キュキュキュキュキュ』

 「……っ」


 魔女はどこからともなく聞こえる声を無視する。

 声は反響するように木霊し、声の正確な位置はわからない。

 階段で足を止めるのは、出来れば遠慮したいところだ。

 だから、魔女は鎧の悪魔を杖で小突いて急かした。

 鎧の悪魔は意図を理解すると、上る速度を上げる。

 やがて、上階に上ると、魔女は杖を構えた。


 「ちっ、目の前の【グリーンスライム】」

 「後ろから【ゴースト】……いや、【ポルターガイスト】か」


 騒霊などと謂われる幽霊ポルターガイストは、物体に憑依する。

 更に進路を阻むように毒を持つグリーンスライムが三匹、魔女は苦虫を噛み潰すような顔をした。


 「とりあえずまずは正面突破! 燃えつきろ! 《炎破(エクスプロード)》!」


 ズガァァァン!

 緋色に視界が染まる爆発に、グリーンスライムは一瞬で蒸発した。

 魔女はそのまま通路を走る、鎧の悪魔は後ろを警戒しながら追走する。


 「ポルターガイストは!?」

 「何言っているかわかんなーい!」

 「ああっ! もどかしいわね!」


 切羽詰まると、言葉が通じないことがもどかしい。

 そんな事態でも、なんとか二人の連携は成立しているのだから、不思議だろう。

 二人の後ろからは緑の灯が灯った燭台が、襲いかかってくる。

 鎧の悪魔は燭台を剣で叩き落とすが、魔女は鎧の悪魔の手を引っ張る。


 「イチイチ構っててもキリがないわ! 足を止めるな!」

 「……走れってこと? わかった!」


 魔女は目の前に迫る扉に体当たりするように突っ込んだ。

 しかし扉は勝手に開き、魔女達を招き入れる。

 体勢を崩した魔女は、前のめりに転がる。

 軽く涙目を浮かべると、彼女はトンガリ帽子を手で押さえながら、起き上がった。


 「もうなんなのよぉ」


 ガタガタガタ。


 泣いている暇はないのか、部屋が揺れ始める。

 魔女は改めて周囲を伺う、嫌にだだっ(ぴろ)い大広間。

 さしずめダンスホールだろうか、幽霊船の中でありながら、天井にはシャンデリアがぶら下がっており、グランドピアノまで備え付けられている。


 「くるよっ!」


 勇者の声、意味はわからずとも思いは通じる。

 ポルターガイストの攻撃、額縁に憑依し、二人に高速回転して突撃する。


 「なめんな!」

 「はっ!」


 しかし、魔女は杖をフルスイングし、額縁は木っ端微塵になった。

 鎧の悪魔は正確に剣で撃ち落とす。

 魔女はポルターガイストに構っている必要はないと、扉を探した。


 「あっち、扉があったわ!」


 魔女は直ぐに扉に向かう。

 だが扉はピクリとも動かない。


 「冗談でしょ、閉じ込められたっての!?」

 「あぶなーい!」


 鎧の悪魔がなにか叫んだ。

 魔女は殺気を感じ振り返ると、ナイフが数本魔女の顔面に迫っていた。


 「あぶなっ!」


 慌てて屈むと、ナイフは扉に突き刺さる。

 彼女は「はぁぁぁ」と息を吐くと、赤い瞳をギラリと輝かせた。


 「上等じゃない、この大魔女カムアジーフに喧嘩(けんか)を売ったこと後悔させてやるっ!」

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