第28ターン目 異変 迫りくる スケルトン
「ほら、しゃんとしなさい」
「うぅ、面目ありません〜」
食事の後、ボクは完全に酔っており、キョンシーさんに肩を貸してもらっていた。
現在は食堂室を出て、船室を歩き回る。
足元がおぼつかず、迂闊に恍惚感に身を委ねたのは失敗だった。
すごく眠たい……今魔女さんに休める場所を探してもらっているんだけれど。
うぅ本当に情けないなぁ、酒精に溺れるなんて。
あぁでもあの後出された食事も絶品で、あの味はきっと忘れられないだろう。
あの後、とんでもない請求額が飛んでくるんじゃないかって恐々したけれど、ボーイは「お代は必要ございません」と。
なんだか不思議だ。
ダンジョンって、一体なんなんだろう。
「この部屋なら、大丈夫かしら」
魔女さんはある船室の扉を開くと、部屋の奥にはベッドが三つあった。
キョンシーさんは真ん中のベッドに運んでくれると、ボクは重力に負けてベッドに倒れ込む。
「うぅ、久し振りのふかふかベッドだぁ、生きてて良かったぁ」
「そんな大袈裟な」
魔女さんは大袈裟だと言うけれど、ダンジョンで何日も過ごしていると、体中が痛くなるのだ。
ベッドは羽毛のようで、ボクの身体を優しく包み込む。
ボクは直ぐにでも寝落ちした。
§
ヒタ、ヒタ、ヒタ。
静かな船内、水の上に浮かんでいることさえ忘れてしまうほど静かだった。
ボクはぐっすり眠りすぎていた。
僅かに聞こえたのは、クロの寝息。
ギィィィィ。
扉が開く音がした。
ボクは薄っすら目を開く、勇者さんかな?
「やっぱり、来たか」
「うー!」
入ってきたのは、なんだろう船員?
ボーダー柄の服を着た白骨死体が入ってきた。
て、ええええ!?
「……す、【スケルトン】!?」
「うー!」
「ゴアアアアアア!」
キョンシーさんが機先を制した。
スケルトンは大きな骨を片手にキョンシーさんに振り下ろす。
キョンシーさんは大きな骨ごと蹴りを打ち込むと、肩越しからしなやかな蹴りがスケルトンに食い込む。
スケルトンは一瞬でバラバラになった。
「グゴオオオオオオ!」
「ボラアアアアアア!」
悍ましい絶叫を上げながら、部屋にドシドシとスケルトンは侵入してくる。
ボクは顔を青くし、おろおろと狼狽える。
ベッドに立て掛けてあった錫杖を見つけるとすぐに手繰り寄せた。
「うー!」
両脇から襲いかかるスケルトン、キョンシーさんは右からきた骨攻撃を右腕で受け止め、左からの攻撃は紙一重で回避。
そのまま回避動作から連動するように、回転蹴りが両脇のスケルトン二体を吹き飛ばした。
「さっさと天へと帰りなさいな《光の玉》」
魔女さんの追撃、光の玉がスケルトン二体に直撃すると、バラバラと崩れ落ち動かなくなる。
合計三体のスケルトンの侵入、ボクは転げ落ちるようにベッドから出た。
「え? な、ななな、なんで!?」
「あら、おはようマール。なんでもなにも、ここはダンジョンよ?」
「ダンジョン……す、直ぐに脱出を」
「と、言いたいところだけど、鎧の悪魔がいないのよね」
「え? 勇者さんが?」
ボクは周囲を振り返る。
ベッドにはクロが眠っている。
後は臨戦態勢のキョンシーさんと魔女さん。
本当だ、あの薄汚れた鎧の姿がない。
「と、兎に角ここを出ましょう!」
ボクは立ち上がると法衣を手で払って、出口に向かう……しかし。
「へう! 痛っ」
バチンと、突然見えない力で弾かれた。
ボクは尻もちをつくと、なにが起きたのか目を丸くする。
「で、出られない?」
「イッヒッヒ……」
突然、奇妙な笑い声をした何かが部屋に入ってきた。
キョンシーさんは直ぐにでも飛び掛かれる構え、魔女さんも杖を構える。
ボクはギュッと錫杖を握り込むと、目の前に浮かぶ【ゴースト】に息を呑みこんだ。
「これはこれはお客様、お外には出られませんよ?」
「……おい、亡霊、それはどういう意味よ?」
「どういう意味も、お客様は大切な生贄にございますから、イッヒッヒ」
「い、生贄ぇ!? まさかボクを食べちゃうんですかーっ!?」
生贄と謂われてボクは顔を真っ青にした。
当然目くじらを立てた魔女さんは、杖をゴーストに向け。
「やっぱりそういうオチか、これだからダンジョンって奴は信用出来ないわね」
「魔物に用はございません。必要なのは純粋な魂なのです」
「私は人間よっ!!」
魔物呼ばわりにブチ切れた魔女さんは、即座に火球の魔法を放つ。
火球はゴーストにぶち当たると、爆炎を撒き散らす。
「イッヒッヒ! 船は既に出航済み! その部屋で大人しくして下さいませ!」
しかし、その姿は消えても、その声は消えなかった。
魔女さんは舌打ちする。
「マール、こうなったら船を破壊してでも……マール?」
「魔女さん? ボクがどうしたんですか?」
突然、魔女さんはボクを見ると、顔を青くして後ろに後ずさった。
ボクは意味が分からず首を傾げる。
「貴方……何も気づいていないの?」
「だから一体なにに……?」
「……マール、貴方、【ゴースト】になってるのよっ!」
「……はえ?」
何を言っているんだ、この人は。
ボクは魔女さんを薄っすら睨みつける。
嘘や冗談を言う人じゃないと思っていたのに。
「大体ボクはまだ生きて……生き、て……え?」
ボクはふと自分の手が薄っすら透けていることに気がついた。
霊体化、だろうか?
だんだん魔女さんが言っていたことが真実だと頭が理解すると、ボクはワナワナと震え。
「ボク、ゴーストになっちゃっているーっ!?」
ボクは両手で頬を抑えると、大絶叫をあげた。




