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第25ターン目 水上歩行に 切り替えた

 ザッパァァァァァン!


 なにが起きたのだろうか?

 突如(とつじょ)水中で乱戦に巻き込まれると、眩しい光が海底を覆い尽くした。

 そして気がついたらボクは小島に打ち上げられていた。


 「う、ぅう……一体なにが、クロ?」

 「にゃああああん……主人無事にゃあね」


 気がつくと、クロはボクの顔をペロペロとザラザラの舌で心配そうに舐めている。

 全身ずぶ濡れのクロはボクのすぐ傍にいた。

 ただその表情は酷く倦怠感(けんたいかん)があって、いつものクロの活発さが失われている。


 「ブルルルルルルルルルルルルル!」

 「うわっ、クロ水が跳ねて!」


 クロは(まと)わりつく海水を払うと、どっしり腰を降ろして毛繕いを始める。

 なんていうかマイペースだな、クロらしいけれど。


 「そういえば皆は?」

 「うー」


 丁度真後ろこっちも濡鼠(ぬれねずみ)のキョンシーさんが立っていた。

 一瞬船幽霊かと思って心臓が飛び出るかと思ったのは内緒だ。


 「キョ、キョンシーさんも無事だったんですね、後は」


 その時、波がせり上がり、波の中からトンガリ帽子が飛び出してきた。

 魔女さんだ、魔女さんは必死に薄汚れた鎧を引っ張り上げていた。


 「ああもう! こいつ重いー!」

 「魔女さん、それに勇者さんも!」


 ボクは急いで、魔女さんの加勢に加わる。

 勇者さんの身体は空洞だから水を含んですさまじい重量だ。

 ドパドパ海水は隙間から溢れるが、結局は彼の自立の方が早かった。


 「皆、ありがとうー、助かったー!」

 「はぁ、はぁ本当にご無事で何よりです勇者さん」


 冗談抜きに、あのままでは海の藻屑(もくず)だった。

 偶然何かが助けてくれたのか、皆無事で本当に良かったよ。


 「マール、早速だけどミーティングするわよ!」

 「アッハイ、て……ミーティング?」


 魔女さんは小島の中央まで歩くと、杖で白砂の地面を小突いて注目を集める。


 「はい、集合!」

 「勇者さん、集合です」

 「おっけー」


 魔女さんを取り囲むように集まると、彼女は渋い顔でまず言った。


 「海底を進むのははっきり言って失策だったわ」

 「まぁ、あんなに魔物がいるとは思いませんでしたからね」

 「魔物もだけど身体が動かないんだよねー」


 海底を歩いて階段まで向かうという作戦そのものは悪くなかったと思う。

 問題はこのエリアの大半が水面(みなも)であり、魔物はその下にいるということだ。


 「でもそうなるとどうするんです? 流石にヨットは持ち合わせていませんよ?」


 この【海上】エリア、冒険者には()(かく)人気が無い。

 ヨットを持ち込んで一気に攻略する猛者もいるらしいけれど、ヨットは流石に重量が(かさ)むよね。


 「《水上歩行》の魔法で行きましょう」


 魔女さんは新しいプランを提示する。


 「《水上歩行》ですか?」

 「ええ、飛行魔法の下位でね、そこそこ神経を使うんだけど」

 「……質問にゃあ、水上で戦闘は可能かにゃ?」

 「えぇ足元から来る魔物は注意だけど、サハギン程度なら引き揚げるくらいの浮力は与えられるわ」


 それは凄いな。


 「でもそれなら最初からそうしてくれれば良かったのでは?」

 「うぐ……! 精神力(マインド)の消費量が違うのよ……!」


 おそらくケチったのだろう。

 今更ケチった分損を踏んだことに、魔女さんは頭を抱えて首を振った。

 基本的に頭は良いんだけど、短気だったり、向こう見ずだったり、ケチだったり、魔女さんって。


 「面白(おもしろ)い女性ですね」

 「……うぅマールの笑顔の方が素敵、だけど今はその笑顔が辛いわ」

 「うー?」


 頬を赤くして、魔女さんはトンガリ帽子を深く被って表情を隠した。

 キョンシーさんは気になるのか、ボクの手を引っ張る。


 「アハハ、笑ったらキョンシーさんの笑顔も素敵だと思いますよ」

 「うー」


 喜んでいるのか、気持ち嬉しそうだった。


 「うーん」

 「勇者さん、どうかしました?」


 勇者さんはさっきからミーティングでは殆ど発言しない。

 魔女さんと直接意思疎通出来ないのが原因だろうけれど、静かな時は本当に物静かだよね。

 一度でも喋り出すと、ちょっと鬱陶しいのが難点か。


 「いやさー、《水上歩行》が行けるなら、いっそもう《飛行魔法》で良いんじゃないかなーって」

 「……む? マール翻訳」

 「勇者さんは、《飛行魔法》の方が手っ取り早いのでは、と」


 ピシッと、案の定魔女さんのプライドを傷つけたようだ。

 彼女は前のめりになると、勇者さんを指差し反撃するように捲し立てる。


 「どんだけ広いか分かんないダンジョンで、そんな精神力(マインド)消費高い魔法人数分掛けたら直ぐにガス欠するわよ、ちょっとは考えろバーカ!」

 「え、えーと。ダンジョンの広さが分らないので飛行魔法は使えないと」

 「ねぇマル君ー?」

 「あっはい、なんでしょう?」

 「どう考えてもカム君の言葉省略してるよねー? 本当はなんて言っているのー?」

 「……知らない方が良いことって、あると思いますよ?」


 勇者さんをなるべく優しく諭すと、ボクは苦笑いを浮かべた。

 今も魔女さんはあらん限りの罵倒(ばとう)を繰り返すが、やがて疲れたのか肩で息をしながら、打ち止めとなる。


 「はぁ駄目よ私、こんなド低能に噛み付くなんて」

 「それもどうかと」

 「じゃあクサレ脳ミソね」


 やっぱり口が悪い、ボクじゃ一生思いつかないような罵倒がスラスラ出てくるあたり、悪い女性なのかも。


 「ともかく、《水上歩行》で行くわよ? 異議は無いわね?」

 「任せるにゃあ」

 「ボクも同意します」

 「うー」


 皆問題ない様子だ。

 まぁヨットも無い以上、(ほか)に取れる選択肢もないしね。


 「それじゃあ《水上歩行》を付与(エンチャント)するわよ」


 魔女さんは杖をそれぞれの頭部に載せる。

 それだけで《水上歩行》の魔法は付与されたようだ。

 ボクは早速水面に向かう。

 恐る恐る足を水面に近づけると。


 「うわ、まるで硬い床みたい!」

 「おしっ、これだけでも安全性はグッと上がるでしょう」


 確かに問題はないようだ。

 ボク達は頷くと、移動を開始した。

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