第23ターン目 階段が 伸びている 第六層の終わり
メガゾンビ戦を終えて、戦利品を回収したボク達は再び階段の探索を再開する。
急いで戻らないと、冒険者資格が剥奪されちゃうから、ボクの心も焦燥しているのかも知れない。
冒険者資格があると、ギルド公共サービスが色々受けられて、特に貧乏なボクにはありがたい物なんだよね。
それが取り消されると思うと、あぁまた干し芋生活は嫌だなー。
「ねぇ、あれって階段じゃないかしら?」
そう指差したのは魔女さんだった。
ボクは薄っすら目を細めると、遠くの物を見ようとする。
ダンジョンの中は視界が悪い、けれど最悪でもない。
なんとか朧気だが見えた気がする。
「んんー、階段っぽいねー」
続いて勇者さんも気付いたようだ。
意思疎通はちっとも出来ないのに、こういうところでは不思議と意見が合致した。
「やっと第五層かぁ」
「主人、気をつけるにゃ。第五層も未到達エリアに違いはないにゃ」
うん、わかっている。
ダンジョンは不思議と下層程、魔物が強力だと言える。
一説ではダンジョン深層の方が魔素が濃いからで、入口に近いほど薄まるからとか。
つまり上れば上るほど敵は弱体化していく。
逆説的には、ここまで戦ってきた相手はどれも、ボクが相手をしていい魔物達じゃあない。
「気を引き締めないとね」
「そうにゃ、命あっての物種にゃ!」
ボクは小さく拳を握る。
ここまで来たんだ、ちゃんと地上に帰ろう。
それから魔物と何回か戦闘しながら、歩くこと数時間。
ボク達の前に現れたのは、上階へと繋がる超巨大な吹き抜けの階段だった。
「改めて大きいわね」
「はい、何段あるんでしょうか?」
「ほらほらマル君、怖じ気付いちゃったのー?」
「なっ、別に怖じ気付いてなんて……」
「うー」
突然後ろからキョンシーさんがボクを持ち上げる。
ボクは「わわっ」と悲鳴をあげるが、キョンシーさんはお構いなしに、ボクを抱き締めた。
「ちょっとキョンシーさん!?」
「運ぶってことかにゃあ? まぁ疲れ知らずのキョンシーにゃ、甘えておけば良いにゃ」
クロは呵呵と笑い、階段を上る。
皆も階段を上った。
「あの、キョンシーさん、降ろして貰えますか、ちょっと恥ずかしいですし」
「うー」
キョンシーさんは言われるがまま、ボクを降ろした。
自我は僅かだけどあるみたいなんだよねー、時々意味のわからない行動しているし。
「それにしてもこの第六層、馬鹿みたい縦に広いわね」
【メガゾンビ】や【ストーンゴーレム】でも天井には届かない。
ここまで広大なエリアはボクの知る限りこの【天井都市】エリアだけだ。
おかげで何百段あるか分らない階段を上らされるのは、肉体的にくるね。
「ふぅ、ふぅ……」
「ほら頑張りなさいマール、ほれほれっ」
このパーティだと、間違いなく一番体力が無いのはボクだろう。
魔法使いとはいえ魔女さんは魔物、ボクより体力あるのは恨めしい。
疲れ知らずといえば勇者さんだろう。
今も鼻歌を歌いながら、陽気に階段を上っている。
「にしたってアレはなに? 巨大なオベリスクに無数の窓みたいなのが付いているわよ」
丁度階段を半分上り終える頃、天井から生える巨大な柱が間近に迫り、その全容が判明すると魔女さんは驚愕する。
「あれが、天井都市の由来です。まるでアパートみたいでしょ?」
「訳わかんない……なんでそんな物がダンジョンに」
ダンジョンに理不尽な要素はいくらでもある。
到底理解できないものこそ、ダンジョンなのかも知れない。
「マル君大丈夫ー? 俺がおぶろうかー?」
「い、いえ……ボクは大丈夫ですから」
勇者さんは後ろを振り返ると、そう提案してくれた。
嬉しい申し出だけど、これは男のプライドでもある。
ちゃんと上りきるんだ。
「にゃあ……、変な意地を張って」
クロだけはそんなボクを呆れた瞳で見つめてきた。
§
階段を上りきると、ボクはもうヘロヘロだった。
錫杖を両手になんとか倒れないように踏ん張る。
それを見てクロは増々呆れ顔だった。
「それみたことかにゃ、主人は体力無いんにゃから」
「うぅ、面目ない」
「とりあえず水、飲んどきなさい」
魔女さんは魔法で水球を浮かばせた。
ボクは小さく頷くと、魔法の水球に口を付ける。
「んぐ、ゴクッゴクッ、ぷはぁ……生き返る」
「クロちゃんもね」
「にゃあああ、水はちょっと苦手にゃ」
とは言いつつも、使い魔とて水分は必要とする。
ダンジョン内では水を補充出来る機会が限られる以上、水分は取れる内に取るべきだ。
それを一番理解しているのもクロだ、クロは水球に口を付けると、ペロペロと舌で吸い上げる。
「クスッ、そうしているとやっぱりクロちゃんは可愛いわね」
「そうですね、クロは頼れるし、可愛いんです」
「ちょっと主人、余計にゃこと喋ると、爪を立てるにゃよ?」
クロは獰猛な顔をすると前足の爪を出す。
クロの攻撃の中では一番弱いが、爪で引っかかれたら、あれはあれで痛いのだ。
ツンデレのクロは、自分を高潔に見せたいのだろう。
「わぁー、ねぇねぇマル君凄いよ、ねぇ!」
一方飲み食いの必要ないリビングアーマーの自称勇者さんは、何やら興奮した様子だった。
「えと、なにがですか?」
「だーかーらー、水! 水がいーーーーーっぱい! なの!」
ガションガションと、足音を立てて第五層へと向かう勇者さん。
ボク達は後を追うと、眼下に広がったのは広大な海だった。




