第22ターン目 メガゾンビ討伐
「とにかく、コイツを倒さなくちゃ!」
「うー!」
勇者さんとキョンシーさんはメガゾンビに挑むが、圧倒的体格差から二人の攻撃は有効ではない。
特にキョンシーさんは徒手空拳だから余計に通じ難い。
メガゾンビも痛みがないからだ。
だとすると、広範囲攻撃力で焼き払える魔女さんが優先だろうか。
ボクはすかさず魔女さんの下に向かう。
「今、回復を!」
「ケホケホッ! わ、私より先ずアンタでしょ! 治癒術士が一番大切なのよ、ケホ!」
「でも……ケホケホケホ!」
「マールが終わったら私! 自分の役割を忘れちゃ駄目よ!」
役割、ボクはいつだって足を引っ張るばかりだった。
戦闘の華はいつも戦士や魔法使いに奪われて、パーティのお荷物なんて罵られるのが日常茶飯事だった。
そんなボクの役割?
ボクに出来ることは、この危険な呪い状態を回復することだ。
残念ながらこれは一人ずつ、つまり順番を考えないといけない。
順番……?
そうか、魔女さんがボクに言っているのは、【視野】だ。
状況から治癒術士は臨機応変に動かなければならない。
ボクに求められているのは、戦況の把握なんだ。
「豊穣神様、どうか穢れをお清め下さい!《解呪》」
自身に《解呪》の魔法を行使する。
天から捧げられる優しき豊穣神の御手がボクに触れると、ボクに掛かっていた呪いは打ち消される。
「ふぅ、次は……!」
「ケホケホッ! まだよ! マール!」
魔女さんが手で制す、ボクは咄嗟に視線をメガゾンビに向けた。
「グオオオオオオオオオッ!」
メガゾンビが再び口元に瘴気を溜め込む。
もう一度、呪いの息吹を放つつもりだ!
どうする、もう一度受ければそれこそ二度手間だ。
折角自身を回復した意味がなくなる。
妨害ならクロの得意分野だ、けれどクロも呪い状態で苦しんでいる。
あの状態だと《咆哮》さえまともに放てないかも知れない。
だとすると、魔法に頼らない勇者さんとキョンシーさんだけれど。
「キョンシーさん! メガゾンビの顎を狙ってください!」
ボクはキョンシーさんが最適解だと判断する。
キョンシーさんは、「うー!」と唸り声をあげると、相手の身体を駆け上がった。
メガゾンビは激しく身体を振るう、しかしキョンシーさんはお構いなしに突っ込み、胸部付近まで辿り着くと、渾身の《バク転宙返り蹴》がメガゾンビの顎を大きく跳ね上げる。
「ゴゴゴオオオオオオオ!?」
見た目に合わない膂力はキョンシーさんも肉体のリミッターが外れている証拠だろう。
本能的に体術を心得ているのか、キョンシーさんの技は華麗で無駄がない。
皮肉なことにキョンシーの力を十全に扱えている。
キョンシーさんがすとんとネコのように地面に着地すると、呪いの息吹は天井へと放たれた。
ナイスファンブル! ボクは小さくガッツポーズすると直ぐに魔女さんの治療に向かう。
「魔女さん、大魔法スタンバイお願いします」
「ケホッ! 心得たっ!」
再び解呪の魔法、魔女さんに優しき御手が触れると、彼女の呪いは打ち消される。
「魔導神よ、時の魔女たるカムアジーフが命じる、我らに仇なす者を灰燼と化せ!」
メガゾンビの頭上に現れる巨大な魔法陣、そこから青白いスパークが放たれる。
魔法陣はゆっくりと、しかし確実に構築され、鈍重なメガゾンビはその範囲から動こうとしない。
徐々に威圧感が増す中、魔女さんの最後の口上が放たれた。
「《浄滅の炎》!」
ズドォォォン!
それは雷に思えた。
魔法陣から青白い光の柱がメガゾンビを飲み込むと、メガゾンビは一瞬で大炎上。
メガゾンビは炎に苦しめられながら藻掻いた。
「まだ倒れないの!?」
改めてゾンビ系のタフさには驚かされる。
やっぱりボクがやるしかないんだろうか。
「メガゾンビ、こんなボクですが貴方の昇天をお手伝いさせてください」
「お、お、オ?」
炎上する手がボクに迫る。
皆はボクを守ろうと集まってきた。
ボクは借り物の錫杖を両手に持つと、祝詞を紡ぐ。
「彷徨える魂よ、どうか寂しがらないでください。神は貴方の帰りを待っていますから……《魂返し》」
魂返しの魔法、アンデットを天へと還す僧侶系の魔法だ。
メガゾンビは全身を灰に変えると、そのまま崩れ去った。
ボクは最後まで祈りを捧げ、このダンジョンで死した者達に鎮魂を捧げる。
「ケホッ! やったにゃ主人」
「ああっ、クロ、直ぐに治療するから」
「マール、アンタ上出来よ」
「魔女さん?」
魔女さんはボクの肩を叩くとニンマリ笑った。
ボクは少し照れ臭くて頬を赤く染めてしまう。
「適材適所って分かるかしら?」
「必要な人材を必要な場所にってことですよね?」
「このメンバーで、最も視野が必要なのがマールなの」
「ボクですか?」
「私なら火力、鎧の悪魔は遊撃、クロは妨害……そんな感じで私達は戦っているでしょう?」
なるほど、確かに出来ることと出来ないことはある。
ボクに攻撃職は無理があるように、ボクじゃないと回復は出来ない。
魔女さんがボクに求めているのは、ボクの成長なんだ。
「マール、貴方はこれからもっと経験を積んでいくわ、頭首としての経験だって、今のうち覚えておきなさい」
「……はい、わかりました魔女さん」
ボクははっきり頷く。
まだまだ冒険者として経験の浅いボクは、覚えないといけないことも多いだろう。
それでも焦る必要はないと思えた。
それはきっと、この頼れる仲間達がいるお陰だろう。
ボクは微笑すると、すぐにクロの下に駆け寄った。




