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第21ターン目 先制攻撃 メガゾンビは 呪いブレスを 放った!

 「ん……?」


 ボクは自然と意識が覚醒したのを感じ取った。

 ダンジョンの中は昼夜の概念が通じないから、体内時計に従うしかない。

 小腹が空いた、そんなに眠っていたのか?

 ゆっくり(まぶた)を開くと目の前に見えたのは謎の巨大な双丘だった。


 「うー?」

 「えっ? キョンシーさん?」


 突然視界を覆う双丘からキョンシーさんの顔が覗いた。

 ペラリ、キョンシーさんの額に貼られた謎の呪符が重力に負けて垂れる。

 影の掛かったエルフ族の女性の間近な顔はそれだけでドキリとするほど美しく、翠眼がじっとボクを見つめている。

 そういえば、これどういうこと?

 ボクは改めて自分に何が起きているのか理解しようとした。

 たぷんと揺れる双丘、後頭部は柔らかいのに冷たい。

 これは間違いなく………。


 「うわぁぁぁぁあっ!?」

 「わっ! ビックリした! どうしたのマル君!?」

 「にゃっ!? 主人!?」

 「……さい、わねぇ。今何時だと思ってんのよぉ?」


 ボクはズサササと後ろに滑り込み、キョンシーさんを見た。

 キョンシーさんは足を重ねて、ボクの膝枕になっていたんだ。

 全く気づかなかった……キョンシーさんは「うー」と唸る。


 「なに? なにかドッキリー? ねぇねぇー!」

 「お、おはようございます勇者さん、アハハ……なんでもないです」


 そうどうってことはない。

 きっとキョンシーさんが気を利かせてくれたのだ。

 命令した覚えはないし、きっと自発的に。


 でも、おっぱいって天井が半分も見えなくなるものなんですね……。

 ごめんなさい豊穣神様、ボクイケないことに目覚めてしまいそうです。


 「にゃああん! ほぼ全回復したにゃあ」

 「おはようクロ、本当に良かったよ」

 「ふふん、けど無理はしちゃ駄目にゃ、敵わないと思ったらその時点で逃げるにゃあ」

 「……ふわぁ、マール、クロちゃんの言うとおりよ。(もっと)もそうさせない為に私はいるんだけど」


 クロと魔女さんの言葉は嫌でも身に()みた。

 もしあの時、もっと逃げる判断が早ければ、【レッドドラゴン】から逃げ切れていれば、今頃地上の宿屋に宿泊していただろう。

 せっかく拾った命だ。無駄にすることなく、地上へ戻ろう。


 「起きたなら直ぐ行こうか」

 「はい!」

 「元気ねぇ、マールったら」


 せめて元気を出さねば、なるべく足を引っ張りたくはないし。

 皆も準備万端のようでボク達は再び地上を目指して歩き出す。




          §




 「あった、あれだあれー!」


 勇者さんが休憩前にゾンビの群れに遭遇した場所にやってきた。

 元冒険者の成れの果て、先ずは鎮魂を捧げよう。


 「どうか安らかに、来世に安寧が待っておりますように」


 ボクは両手を重ねると、彷徨える魂の正しき帰還を祈った。


 「おっ、これ使えそうよマール、受け取りなさい」

 「えっ? わわっ」


 早速ゾンビから漁る罰当たり(スカベンジャー)と化した魔女さんは、元僧侶の装備品と思われる錫杖を投げ渡してきた。

 ボクは驚いて取り落しそうになるが、寸でキャッチに成功する。

 シャンシャンと、手に持った錫杖の先端には金属のリングが取り付けられており、優しく鳴り響いた。

 ボクはギュッと握ると、この錫杖が持つ無念のようなものに、両手を震わせてしまう。


 「ほ、本当にいいんでしょうか? 死体から物を取るなんて……」

 「ゾンビはもう手遅れでしょ、なら誰かが有効活用してあげた方が、無念の死に方した元人間達も嬉しいでしょうよ」


 そうなのかなぁ?

 なんだか魔女さんに言い包められた気がする。


 「あった、これだこれ」


 一方もう一人のスカベンジャーはというと、何やら重たそうな鉄板を持ち上げた。


 「これは盾かにゃ?」

 「うーん、もしかして【鉱人(ドワーフ)族】の使う盾にもなる鉄板じゃないかしら?」


 ゾンビが鉄板を持っていたという情報から、それをいただきに来たのだが、この人達本当に遠慮ないな。

 クロもクロで、ノリノリで漁っている。


 「キョンシーさんは、ああはならないでくださいね?」

 「……………うー!」

 「キョンシーさん?」


 ずっとボクの傍にいたキョンシーさんは大きく唸りだした。

 すると、突然動かなくなったゾンビ達から瘴気が溢れ出す。


 「いけない! 皆さん離れてください!」


 何が起こっているのか、皆一斉に離れると、瘴気は渦を巻きゾンビの群れを包み込む。

 ゾッと背筋が凍り付く感覚、何かがやばいと脳内に警報が鳴り響く。

 逃げよう、そう決断した瞬間、瘴気が爆発した。


 「うわわわっ!」

 「うー!」


 爆風に体勢を崩し、吹き飛ばされそうになると、キョンシーさんがボクを受け止めてくれた。

 ボクはキョンシーさんに感謝しつつ、目の前で起きている事象にパニックを起こそうとしていた。


 「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」

 「でっか! 俺の十倍はあるー?」

 「非常識にゃ! どこからこんな巨人のゾンビが現れたにゃ!?」

 「さしずめ【メガゾンビ】ってところか」


 メガゾンビは足元にいるボク達を見下すと、口から瘴気を吹き出す。


 「臭っ! まるで腐ったタマゴみたいな……ケホッ!」

 「にゃ……ケホケホッ!」


 突然ボク含め何人かが咳き込み始める。

 それだけじゃない、酷い倦怠感が襲いかかる。


 「ケホッ!【呪いの息吹(カースドブレス)】か!」

 「ちょっと皆大丈夫ーっ!」


 生身を持たない勇者さんと、アンデットであるキョンシーさんは呪いの状態異常を受けていないようだ。

 どうする? 相手は身の丈十倍の巨大なゾンビ、厄介な特殊能力も備えている。

 勝てるのか、いや勝たなければ地上には戻れない。

 その為には誰から治療が必要か、考えろボク。

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