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第199ターン目 治癒術士は 死んでしまった

 ドサリ、エンデは詰まらなさそうにマールを足元に落とした。

 バッツはすぐに駆け寄り、愛おしそうにマールを抱きしめる。

 だがマールは呼吸していない、急速に体温を失っている。


 「ククク、どうだバッツ、大切なモノを失った気分は?」

 「あああ、あああああああああ」

 「此奴はただの()()()()だ」

 「うわああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?」


 バッツの魂からくる絶叫が慟哭し、木霊する。

 誰もがマールの死を理解した。

 あの健気でちょっとおっちょこちょいで、一度決めたら超が付く頑固で、悪食で、そして誰よりも平和を願った者がいなくなる。

 マールの笑顔が、怒った顔が、豊穣神スマイルが、泣いた顔が、数多くのマールの思い出がフラッシュバックしていく。


 バッツの絶叫に我を取り戻したフラミーは直ぐにクロを確認した。

 クロはカーバンクルが身体を揺すっている。

 だがクロは反応しない、それどころか急速に顔色を青ざめさせていく。


 「あぁあ、クロ様までも……ああああ!」


 マールと魂を共有する使い魔であるクロは、主人が死んだことで、クロの生命まで終わりを()げた。

 急遽(きゅうきょ)戦死者二名、だが悲しんでばかりはいられない。

 魔女は素早く指示を出す。


 「……あの馬鹿、カスミ動けるならバッツを!」

 「うー!」


 カスミは素早くバッツの腕を掴み、後ろに引っ張った。

 バッツは訳のわからない絶叫を上げて、豊穣の剣を振り回す。


 「お前っ! お前が! ああああ!」

 「無駄だ、バッツよ、豊穣の剣はもう二度と輝かぬ」

 「くっ! ああああああっ!」


 バッツはカスミを振りほどくと、エンデに向かって斬りかかる。

 一瞬で三撃、エンデの足、腕、胴が切り裂かれる。

 だがエンデは動じない、傷口から闇が生じると、傷口を塞いでしまう。


 「クハハハ、やはり全て杞憂であった! やはりこの世は我のもの!」


 エンデの懸念、万が一にも豊穣の剣が輝きを取り戻すことであった。

 その為に治癒術士は念入りに始末した。

 もうその亡骸には興味ないが、目障りと思ったのかエンデはマールの死体に対して。


 「さて、ゴミは片付けねばな!」


 エンデは掌をマールに向ける。

 闇の力は掌に集まり、極大なまでに(あふ)れる。

 その様子にカーバンクルは直様駆け出した。


 「キューイ!」


 エンデの手から放たれる闇の閃光、カーバンクルはマールを穢させるものかと、額の紅玉(ルビー)を輝かせた。


 「ぬぅこの輝き、だがしかし」

 「キュイー!」


 エンデの力を強く跳ね除けるカーバンクル、だがエンデは赤い光を徐々に闇へと染め上げていく。

 魔女は舌打ちする、カーバンクルが押し負けているのだ。


 「ちぃどいつもこいつも! 《時空加速(ヘイスト)》!」


 魔女は一瞬で超加速(クロックアップ)すると、マールとカーバンクルを抱えて、その場から消えた。

 闇は一瞬後、その場を蹂躙するように破壊の力が吹き荒れる。

 魔女は少し離れた場所に、マールとカーバンクルを降ろすと、直ぐにバッツの兜を叩いた。


 「こんのすかぽんたん! 冷静になれ冷静に! なによっ、いつもの飄々とした余裕はどうしたの!?」

 「か、カム君……俺、マル君を、守れなかった」

 「だったらなに? アンタ敗北を認めんの! 私は絶対に()よ、そんなの!」


 マールを失って、魔女だって動揺はある。

 だがこの大魔王エンデ(クソやろう)を前にして、戦意を衰えさせるなどありえない。

 敵討ちはする、それが魔女のケジメだ。


 「バッツ! アンタ勇者でしょ! 魔王相手に弱音を吐くつもり!?」

 「俺……勇者なんかじゃない、俺は弱虫なんだ」

 「このっ! 齒ぁ食いしばれ!」


 魔女はバッツの兜を全力で殴りぬく。

 バッツが見せた弱さ、それがどうしても許せない。


 「もういい! アンタずっと泣いていれば!? 私は戦う、マールの為に!」


 魔女は毅然と杖を構えた。

 エンデはニヤケ顔のまま静観している。


 「クハハ、いつみても仲間割れは格別よのぉ、心弱き者どもよ」

 「だからなに? 言っておくけど私はバッツ程甘くないわよ?」

 「ククク、くるがいい時の大魔女よ」


 瞬間、魔女は分身する。

 エンデを包囲し、そこから無数の魔法が炸裂。

 エンデは魔法を唱える暇も、まして防御を固める余裕もない。

 いや与えはしない、与えてなるものか。


 「そらそらぁ! 余裕こいて人間舐めるんじゃないわよっ!」

 「ぬぅ、ククク……ではこれはどうだ?」


 エンデは攻撃を貰いながら、周囲に闇のオーラを放つ。

 超加速する魔女も、逃げ場を与えないこの力には悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。


 「んあーっ!」

 「いかんカムアジーフ殿!」


 ハンペイは魔女を受け止める。

 魔女は憎しげにエンデを睨みつけた。

 魔女の凄まじい魔法を前にしても、エンデは傷一つ負っていない。


 「馬鹿な、ダメージがないだと?」


 ハンペイは驚愕する。

 だが魔女は冷徹鋭利な頭脳でその謎を解いた。


 「奴が纏う【闇の衣(ダークオーラ)】が、攻撃を弾いてやがる」

 「では闇の衣をどうにかしなければ、まともなダメージも与えられないと?」

 「……そうなるわね」


 勿論他の手段も検討はしている。

 恐らく強引な一撃で闇の衣ごとぶち抜くという荒業も通用はするだろう。

 彼女には幸い必殺の【対消滅砲(イレーサーキャノン)】がある。

 だがあの魔法は使えば、問答無用で魔女の精神(マインド)精神喪失(マインドブレイク)してしまう。

 そうなればお荷物確定、おいそれと博打は打てない訳だ。


 「豊穣の剣なら闇の衣をはぎ取れるんだけど」


 魔女はバッツを見て、溜息(ためいき)()く。

 マールを守れなかったバッツは今や勇者どころか、子供のようだ。

 アレじゃ頼れる訳がない。


 「くそが……万事休すじゃない」

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