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第196ターン目 治癒術士に 悪夢が 襲いかかる!

 闇の暗黒空間の中、突如ボクは一人ぼっちになってしまった。

 まさか罠? ボクは錫杖を握って警戒する。

 勇者さんはどこか、クロは、魔女さんは?

 誰の気配ももはやない。

 完全に孤立した。


 「大魔王……こんな小細工を」

 「……マールさん?」


 後ろ、ボクは咄嗟に振り返る。

 闇の中からある見慣れた女性が現れたのだ。

 大きな胸、赤紫色の瞳、そのサキュバスは。


 「リリーさん!? どうしてリリーさんが?」

 「やっぱりマールさんです! 会いたかった!」


 リッチキングに人間爆弾にされた筈のリリーさんは、嬉しそうにボクに抱きつく。

 ボクもまた喜びのあまり、涙をこぼした。


 「うわーん! 本当にリリーさんなんですね! 本当に!」

 「そうです、私はサキュバスのリリーです」

 「私もそう」

 「私も」


 ボクは一瞬で、頭が混乱した。

 闇の中から次々とリリーさんが現れてくる。

 皆同じ姿、まるで三つ子や四つ子のような姿でボクを取り囲んでいく。


 「な、なんの冗談です? なんでリリーさんがこんなに」

 「私たちは771(リリー)


 思わず目の前のリリーさんをボクは突き飛ばしてしまう。

 目の前の彼女は倒れると、(うつ)ろな瞳で僕の顔を見る。


 「だ、大魔王! これはなんの冗談だよ! どうしてリリーさんがこんなに! 本当にリリーさんなのか!」


 しかし闇は答えない。

 ボクはどうしていいかわからず、ただ困惑のまま固まってしまう。

 その間にもリリーさんたちが、ボクへと迫る。

 リリーさんたちの赤紫の瞳が恐ろしく感じてしまう。

 こんなの、こんなのっておかしいよ!


 「マールさん」「マールさん」「マールさん」「マールさん」「マールさん」

 「うわああああああああああああああ!?」


 ボクは頭を抱えてしまう。

 周囲からリリーさんの声でボクの名前を呼ぶ声。

 頭がどうにかなってしまいそうだ、リリーさんに一体なにがあったのか。


 「来ないで……お願いだから近寄らないでください!」

 「……どうして、ぁ」


 その時目の前のリリーさんが口から血を吐いた。

 意味が分からない、ただ胸から()()な血に塗れた剣が生えていた。


 「……ぇ?」

 

 リリーさんの後ろ、背後から剣を突き刺したのは、古ぼけた全身鎧だった。


 「勇者、さん……?」

 「やっぱりこうだと思ったよ」


 勇者さんは血塗れの剣を構える。

 周囲にいたリリーさんは一斉に勇者さんを見る。


 「鎧の悪魔」

 「どうして邪魔(じゃま)するの?」

 「うるさいよ」


 電光石火、勇者さんが手近にいたリリーさんに斬りかかった。

 リリーさんは回避が間に合わず、腕が跳ね跳ぶ。

 他のリリーさんは一斉に勇者さんへ飛び掛かる。

 ボクは顔を真っ青にした、リリーさん達は襲いかかるも、勇者さんは冷静で的確に切り裂き、仕留める。

 鮮血が舞う、ボクの顔にもまだ温かい血が降ってきた。

 ボクはワナワナ恐怖で震える、けれど黙っていられない。


 「お願いやめてください勇者さん! もうこんな戦いは!」

 「マー、ル、さん……」


 下半身を無くしたリリーさんがボクに手を伸ばした。

 勇者さんは無慈悲にそんな彼女に上から剣を突き刺す。


 「あ、ぁぁあ、止めろって言っているだろうー!!」


 ボクは居ても立っても居られず、勇者さんに全力で錫杖を振るった。

 ガコンと、錫杖が勇者さんの兜を叩く。

 ボクは大粒の涙を流しながら、彼に訴えた。


 「どうしてリリーさんを傷つけるんですか?」

 「マル君、これはリリ君じゃない」

 「……え?」

 「マル君も分かっているだろう? リリ君はもういないって」

 「ぁ、あ……そんな」


 そんなことは頭で理解している。

 でもこれはあんまりだ。

 勇者さんが鎧さえ真っ赤に染めて、リリーさんを殺戮する。

 こんなの勇者じゃない、殺戮者だ。


 「ぐすっ! ボクはそれでもリリーさんの願いを、叶えなくちゃならないんです」


 彼女の願い、地上へと連れて行くこと。

 もう絶対に不可能だと思っていた。

 けれどまだ終わっちゃいないんだ。


 「マール、さん……」

 「お願いリリーさん、もう争わないで」

 「マ、ル、さ――」


 突然声を発していたリリーさんが光り輝く。

 直後光爆、勇者さんもろとも爆風に吹き飛ばされた。


 「ケホケホッ! こ、こんなことって……」

 「クハハハ、実に滑稽」


 顔を上げると、玉座に腰掛けた巨大な魔神が極悪な瞳でボクを見下ろしていた。

 周囲にはリリーさんも、勇者さんも消えている。

 まさか幻術?


 「だ、大魔王エンデ……!」

 「クハハ、そんなにあの娘が恋しいか?」


 大魔王は嘲笑うと、大魔王の腕に寄り添うように一人のサキュバスが顕現した。


 「り、リリーさん」

 「サキュバスに恋するとは、実に愚かしい……だが」


 大魔王はいやらしく目を細める。

 ボクは錫杖に縋りながら、震える目で大魔王を睨んだ。


 「このサキュバスをお前にやろう」

 「なん……だと? どういう意味ですか」

 「簡単なこと、魔物など我にかかれば、いくらでも生み出せる。サキュバスの一匹造作もない」


 一匹? 大魔王はサキュバスを一匹と言ったのか?

 魔物さえも生み出す造物主(ダンジョンメイカー)、しかしその価値観は魔物も道具でしかない。

 決定的に相容れない、魔王にとって魔物は便利な駒だ。

 ボクには絶対にそんな風には扱えない。


 「魔王! リリーさんの尊厳を踏みにじるのもいい加減にしろ!」

 「尊厳? 魔物に尊厳などあるものか、あるのは憎悪のみ!」


 サキュバスはクスリと妖艶に微笑むと、ボクの前に飛来する。

 そのままサキュバスはボクを力任せに押し倒した。


 「(つーか)まえたっ、アハッ」

 「う、く、離してください!」

 「ダーメ、童貞臭いお○ん○ん、ヌキヌキしちゃおうねー?」


 サキュバスはボクの下腹部に触れる。

 ボクは耳まで赤くすると、サキュバスを必死に押し返す。

 けれどサキュバスは力がある、ボクが貧弱なのもあるが。


 「駄目です、魔王の前でそんな!」

 「アハハッ、二人っきりがいいの? ならー」


 サキュバスは上半身を持ち上げると、掌を掲げた。

 闇がサキュバスの手から(あふ)れる。

 大魔王エンデはニヤニヤと悪辣に微笑む。


 「クハハ、苦痛には耐えられよう、だが快樂にはどれだけ耐えられるかな?」

 「や、やめろ……やめてください、うわあああああ!?」

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