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第193ターン目 大魔王を 討て

 「どうかその魂、天へと昇れ、貴方の来世に幸あらんことを……」


 リッチキング戦後、ボクは亡くなったリリーさんに祝詞(のりと)を捧げた。

 非道にも人間爆弾にされたリリーさんは、今際(いまわ)の際の言葉さえ奪われた。

 こんな邪悪な行い、絶対に許しちゃいけない。

 ボクは大魔王エンデと対決する意志をより固めていった。


 「リリ君、ごめんよ」

 「にゃあ、せめて魂は安寧をにゃ」

 「リリー殿、安らかに眠れ」

 「過ごした時は短いでありますが、せめて小官らの戦い天より見守りくださいませ」


 それぞれが、想いを固めていく。

 リリーさんへの祷りを終えると、ボクらは立ち上がった。


 「……もういいの?」


 魔女さんは魔法の煙管からピンクの煙を吹かせながら、聞いてきた。

 彼女は感傷に浸るのは嫌いらしい、それでもボクは魔女さんが人情家だと知っている。


 「はい、後は大魔王だけです、皆さん、集まってください」


 ボクの号令に、仲間たちは円陣を組む。

 皆さんの顔は真剣だ、(だれ)もがこの後を理解(わか)っている。


 「この先はおそらく大魔王エンデの間、恐ろしい相手です」

 「ふっ、なーに言ってんの、魔王なんてこの時の大魔女カムアジーフがけちょんけちょんにしてやんよっ!」


 魔女さんは「ふふんっ!」といつもの強気で鼻を鳴らす。

 ボクは微笑する、こういう時魔女さんの強がりには、何度も助けられたな。


 「小官、正直ここまで来るとは想像もしなかったであります。けれどマール様の麾下(きか)に加われて、本当に幸運だったと思うであります」


 フラミーさんは本来なら魔王と戦う義務はない。

 彼女は先史文明調査部隊(アーネンエルベ)の小隊長。

 今は彼女の祖国プローマイセン帝国も分裂し、崩壊してしまったが、祖国の跡地に帰るという選択肢もあった筈。

 それでも彼女はビシッと軍隊式の敬礼し、この戦いに参加する。

 彼女の溌剌(はつらつ)とした顔は、何度も元気を貰ったっけ。


 「某はもとより妹カスミの為、大魔王エンデの命を所望するのみ」

 「うー」


 ハンペイさんとカスミさんの兄弟は、なんだか長い付き合いに感じてしまう。

 森人(エルフ)族にしてニンジャマスターのハンペイさんには、妹を元に戻して国へ帰るという大事な使命がある。

 けれど冷徹な人かと言えば、仁義に篤い人情味のあふれる人だ。

 キョンシーのカスミさんに関しては今のままでも構わないというご様子だけれど。

 ともかく二人共気負いはしていない。


 「にゃあ、正直言えば逃げたいにゃあ、けれど主人がこれだもの、あーぁ、使い魔は辛いにゃあー」

 「ごめんね、クロ」

 「キューイキュイ!」


 半目を閉じてボクを見る黒猫クロ。

 彼女なりのツンデレなんだろうけれど、カーバンクルがボクの胸に飛び込むと、直ぐに彼女は表情を化け猫めいて豹変させた。


 「キシャー! 魔王の前に決着つけるかにゃカーバンクル!」

 「キュイー!」


 やらいでか、と興奮するカーバンクル。

 ボクはそんな二匹を一緒に抱きかかえると、二匹は大人しくなる。


 「駄目だよ、喧嘩(けんか)は」

 「にゃあ、使い魔はアタシだけにゃあ! だから主人に甘えていいのもアタシだけにゃー!」


 クロはボクの胸に顔を(うず)める。

 ネコらしい甘え方に、ボクは優しく頭を()でる。

 こんな姿を見せるけれど、彼女は戦闘では一番頼れるお姉さんだ。

 生き残ろう、ボクもクロとカーバンクルのために。


 「……俺さー、エンデと戦った後、こうなるなんて思わなかったなー」

 「そういえば勇者さん、最初は鎧の悪魔として暴れていたんですよね、それがどうして自我を取り戻したんでしょう?」

 「あっ、それ私も気になるー!」


 鎧の悪魔の恐ろしさ、それは今でも身の毛がよだつような恐ろしさだ。

 全身から(やみ)を噴出し、近寄るもの(すべ)てを破壊する存在、それがどうして今のようになったのか。


 「うんとねー、セレスの声が聞こえたんだー」

 「セレス様ですか、ボクにそっくりっていう」

 「賢者セレスでありますか、小官も絵本で知った程度でありますが」


 ヴラドさん曰くボクと瓜二つという賢者セレス。

 勇者バッツの幼馴染(おさななじみ)で、最後には魔王を討ち、勇者バッツと結婚したと伝えられている、けれど。


 「セレスがね、もうすぐ会いに行くって、だから勇者に戻っててさー」

 「もうすぐ会いに行く、かにゃあ?」

 「そう、そしたらもうービックリ、マル君が降ってきたんだもんー!」


 ボクがか。

 ボクは正直自分を知らない。

 自分は孤児で、孤児院の前に捨てられていたと院長先生には聞いた。

 マールという名前はその時一緒にあった紙にあったらしい。

 ボクはそんなに自分のルーツには興味はないけれど、あの不意の事故から、ボクの歯車は回り始めた。


 「ボクがなんなのか、この冒険でわかるのか、それはわかりませんが、勇者さん。ボクは治癒術士として使命を果たしましょう」

 「なら俺は勇者として、今一度使命を果たそう!」


 勇者さんは豊穣の剣を掲げる。

 ボクは錫杖(しゃくじょう)を豊穣の剣に重ねた。

 今ボク達の士気は充分だ。

 大魔王エンデには悪いけれど、復活なんてさせない。


 「皆さん! 勝ちましょう!」

 「「「おーっ!」」」


 皆一斉に喝采をあげた。

 ボク達は進む。

 リッチキングが居なくなった後、階段は目の前に出現した。

 大魔王エンデは「降りてこい」と通達しているようだ。

 恐らく罠、それでもボクらは突き進む。


 「【護り、癒やし、救え】」


 ボクは治癒術士の【三聖句】をそっと呟き、真っ暗闇(くらやみ)へと続く階段を降りる。

 この先にあるのはなんだろう。

 大魔王はなにを考えている。

 ボクらに大魔王を破れるか、いや破るんだ。

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